2022年5月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】世界初のGIP/GLP-1受容体作動薬「Mounjaro」など
「Voquezna Triple Pak」/「Voquezna Dual Pak」米Phathom
「Voquezna Triple Pak」/「Voquezna Dual Pak」は、P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)vonoprazan(国内製品名・タケキャブ)を含むヘリコバクター・ピロリ除菌用のパック製剤。臨床試験では、PPIのlansoprazoleを含む3剤療法と比べて高い除菌率が確認されました。
Phathomは、武田薬品工業が米投資ファンドのフレージャー・ヘルスケアパートナーズと設立した企業。欧米とカナダでvonoprazanの独占的開発・販売権を持っています。米国では逆流性食道炎の適応でも申請中です。
「Radicava ORS」田辺三菱製薬
「Radicava ORS」は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「Radicava」(一般名・edaravone)の経口懸濁剤。従来製剤は点滴静注でしたが、経口薬の追加で患者負担の軽減が期待されます。日本とスイスでも申請済み。
「Mounjaro」米イーライリリー
2型糖尿病治療薬「Mounjaro」(tirzepatide)は、世界初のGIP/GLP-1受容体作動薬。GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の受容体を活性化する単一分子です。セマグルチドやインスリングラルギン、インスリンデグルデクといった実薬を対照とした臨床試験では、HbA1cの有意な低下と体重減少が確認されました。日本や欧州でも申請を済ませています。
「Tpoxx」米SIGAテクノロジーズ
抗ウイルス薬「Tpoxx」は天然痘治療薬tecovirimatの静注製剤。経口カプセル剤を服用できない患者に対する新たな選択肢になると期待されます。欧州では、経口薬がサル痘や牛痘の治療薬としても承認されています。
「Tyvaso DPI」米ユナイテッド・セラピューティクス
「Tyvaso DPI」は、プロスタサイクリン誘導体treprostinilの粉末吸入剤。肺動脈性肺高血圧症(PAH)、間質性肺疾患に伴う肺高血圧症(PH-ILD)の治療に使用されます。日本では導出先の持田製薬がPAH治療薬として申請中で、PH-IHDの適応でも臨床第2/3相(P2/3)試験を進めています。
「Vtama」スイス・デルマバント
アリル炭化水素受容体(AhR)モジュレーター「Vtama」(tapinarof)は、軽度から重度の尋常性乾癬の局所治療に使用される外用剤。乾癬に対する新規の局所治療薬は25年ぶりとなります。日本では、日本たばこ産業(JT)と鳥居薬品が尋常性乾癬とアトピー性皮膚炎を対象にP3試験を進行中です。
【適応拡大】「Enhertu」のHER2陽性乳がん2次治療、「Dupixent」の好酸球性食道炎など
「Enhertu」第一三共
抗HER2抗体薬物複合体(ADC)「Enhertu」(trastuzumab deruxtecan)は、再発・転移性のHER2陽性乳がんに対する2次治療に適応拡大。臨床試験では、T-DM1(trastuzumab emtansine)と比較して病勢進行または死亡のリスクを72%低下させました。日本や欧州、オーストラリアなどでも申請中です。米国では2次治療の承認と同時に、2019年に迅速承認を受けた3次治療で完全承認を取得しました。
「Olumiant」米イーライリリー
JAK阻害薬「Olumiant」(baricitinib)は、2020年11月に緊急使用許可を取得していた新型コロナウイルス感染症の適応で正式に承認されました。酸素補給や人工呼吸、ECMOを必要とする患者が対象です。小児に対しては引き続き緊急使用許可の下で使用されます。
「Dupixent」仏サノフィ
抗IL-4/13受容体抗体「Dupixent」(dupilumab)は、好酸球性食道炎の適応で承認を取得しました。好酸球性食道炎に対する治療薬は米国初。欧州でも申請中です。
「Tibsovo」仏セルヴィエ
IDH1阻害薬「Tibsovo」(ivosidenib)は、75歳以上の急性骨髄性白血病患者に対し、azacitidineとの併用療法で使用できるようになりました。新規に診断された患者か、集中的導入化学療法を実施できない合併症を有する患者が対象です。
「Kymriah」スイス・ノバルティス
CD19を標的とするCAR-T細胞療法「Kymriah」(tisagenlecleucel)は、新たに再発・難治性の濾胞性リンパ腫の適応で迅速承認を取得。2つ以上の全身療法を受けた成人患者が対象です。承認の根拠となった臨床試験での完全奏効率は68%で、そのうち85%の患者が1年間にわたって効果を維持しました。同適応では22年5月に欧州でも承認済み。日本では申請中です。
「Opdivo」米ブリストル
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体「Opdivo」(nivolumab)は、切除不能な進行・転移性食道扁平上皮がんの1次治療として新たに承認されました。承認されたのは、フルオロピリミジン系、プラチナ系製剤を含む化学療法との併用療法と、「Yervoy」(ipilimumab)との併用療法。PD-L1発現レベルにかかわらず使用できます。日本でも5月に承認されました。
「Evrysdi」スイス・ロシュ
脊髄性筋委縮症(SMA)治療薬「Evrysdi」(risdiplam)は、生後2カ月未満の乳児に対象を拡大しました。臨床試験では、症状が出る前に治療を受けた乳児のほとんどが、12カ月後に座ったり立ったりできたといいます。同薬はSMN2遺伝子のスプライシングを修飾する経口薬で、米国では20年に承認を取得。日本や欧州では21年に承認されました。
「Beovu」スイス・ノバルティス
眼科用VEGF阻害薬「Beovu」(brolucizumab)は、糖尿病黄斑浮腫(DME)に適応拡大。導入期には6週間隔、維持期には通常12週間隔で投与します。臨床試験では、導入期にあたる最初の1年間で抗VEGF薬aflibercept(4週間隔投与)に対する非劣性を示しました。DMEの適応では、欧州でも今年3月に承認を取得。日本でも申請中です。
【バイオシミラー】米Kashivのpegfilgrastim
「Fylnetra」米Kashiv
持続型G-CSF製剤「Fylnetra」は、米アムジェンの「Neulasta」(pegfilgrastim)のバイオシミラー。米Kashivと米アムニールが共同開発しました。Neulastaのバイオシミラーは米国で5剤目です。