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「製薬企業は宝の山」眠るアセットを表舞台に ARTham Therapeutics・長袋洋CEO|ベンチャー巡訪記

更新日

亀田真由

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

長袋洋(ながぶくろ・ひろし)名古屋大大学院農学研究科修了後、1996年に武田薬品工業に入社。2006年、東京大大学院で博士(農学)を取得。米フロリダ州立大学や米メルク・リサーチラボラトリーズを経て、2012年に再び武田に入社し、創薬研究本部でシニアディレクターなどを務めた。2018年にARTham Therapeuticsを設立。大分大学医学部特任教授を兼任する。

 

創業から4年で2つのPOC取得を目指す

――事業内容について教えてください。やっていることは、いわゆる「ドラッグ・リポジショニング」なのでしょうか。

武田薬品工業の「アントレプレナーシップ ベンチャープログラム」を使って、2018年の6月に設立しました。事業開始は7月で、それから約3年になります。

 

ドラッグ・リポジショニングか、という質問に対する答えはイエスです。主に武田からライセンスした「ART-001」と「ART-648」の2つの低分子化合物について、対象疾患を変えて開発を進めています。臨床第1相(P1)試験からやり直していて、今夏にはP2試験に入る予定です。

 

順調に進めば、来年にはPOC(プルーフ・オブ・コンセプト)を取得できる見込みで、会社としては重要なフェーズに差し掛かっています。創業から4年足らずで2本のPOCが取得できそうだというスピード感は、ドラッグ・リポジショニングならではです。

 

われわれは、ゼロからアセットを作るのではなく、製薬企業が開発を中断したアセットをライセンスすることでポートフォリオを拡大しています。導入後は、アカデミアや受託会社と一緒に非臨床や臨床での開発を進め、アセットの価値を大きくしたあと、別の製薬企業またはオリジネーターに事業を譲渡する戦略です。

 

2016年のネイチャー・レビュー・ドラッグディスカバリーによると、13~15年の3年間で後期臨床開発を中止した薬のうち、15%が「注力領域の変更」「吸収・合併」「人的・金銭的リソースの問題」といった戦略的理由で中止を余儀なくされています。こうしたアセットは、しっかり開発のパスをつけてやれば大きな価値を出すポテンシャルがあるはず。その意味で、製薬企業の倉庫は「宝の山」なのではないかと思っています。

 

われわれが行っているビジネスモデルは、すでに欧米で盛んになっています。たとえば、デンマークのルンドベックが神経変性疾患を対象に開発していたPDE9阻害薬。同薬は鎌状赤血球症への効果が期待され、投資会社を通じて現在は米バイオテックのイマラが開発を行っています。同社はPDE9阻害薬の開発を目的に16年に設立された会社ですが、昨年には米NASDAQに上場を果たしました。われわれの事業モデルは、決して珍しいものではありません。

 

われわれが一番こだわっているのは、P2試験の成功確率を高くすることです。というのも、薬の開発で最も難しいのはP2試験で、ある統計によれば、およそ7割の薬は有効性を示せずにP2試験に失敗してしまう。P1試験やP3試験の成功率は6割程度ですから、いかにP2試験の確度を上げるかということが重要です。そのために行っているのは、開発計画の中にバイオマーカーを入れることと、がん以外の希少疾患を狙うこと。実は、希少疾患のP2試験の成功率は8割にも上るんです。われわれのアセットは2つとも希少疾患をターゲットにしていますので、高い確度を期待できるのではないかと思っています。

 

「バーチャルR&D」が強み

――現在の2つのパイプラインは、対象疾患をどう変更したのですか。

PI3Kα阻害薬のART-001は、武田では固形がんを対象としていましたが、われわれは小児から発症する低流速型脈管奇形で開発を進めています。

 

PDE4阻害薬のART-648は、もともと2型糖尿病で開発していましたが、今は皮膚科の自己免疫疾患である水疱性類天疱瘡を対象に開発しています。

 

――それぞれP1試験からやり直したのはなぜですか。

ART-001については、武田時代の薬物動態の結果に個人間のばらつきがかなり見られたので、新しくドライシロップ製剤を独自で開発し、P1試験を行いました。ドライシロップにすることで、ばらつきも小さく抑えられましたし、小児にも投与できるようになりました。

 

ART-648は、武田で実施した時より用量を増やしてP1試験をやり直しました。武田で行った試験結果を解析して、当時の用量では「ターゲット酵素を阻害できていない」という仮説を立てたんです。実際、用量を10倍にしたら薬力学的効果が確認できました。

 

われわれの強みのひとつは、課題解決能力の高さ。ほかの製薬企業の中で塩漬けになっているアセットに対し、しっかり仮説を立てて検証していく力があると自負しています。

 

――今夏にP2試験を開始するとのことですが、承認や発売の時期はいつになりますか。

どちらも2025年を見込んでいます。

 

――パイプラインには、低活動膀胱を対象とする「ART-002」もあります。

ART-002も非常に面白いアセットですが、まだ情報を開示できる段階ではないので、ここでは言及は避けたいと思います。

 

――「バーチャルR&Dモデル」を掲げていますが、これはどのような意味なのでしょうか。

これもわれわれの強みです。うちは横浜に小さなオフィスがあるだけで、社員6人で開発をマネジメントしています。そのために、受託研究機関や受託製造機関、アドバイザーとなる専門家、アカデミアで早期臨床開発のチームをバーチャルに作っていて、すでに国内20施設以上のアカデミアと提携しています。

 

「武田がやらないなら自分で薬にする」

――武田のアントレプレナーシップ ベンチャープログラム(EVP)で起業したそうですが、このプログラムを策定したのも長袋さんらしいですね。

そうです。武田が研究開発機能の再編を行った際、1つの施策として私がオリジナルのアイデアを出しました。再編となると、会社として投資をやめる疾患領域やテクノロジーが出てくる。人も当然そうで、そういった人たちが熱意や努力、時間を注いできた研究のアセットや技術を持って外に出て行くことができれば、再編を前向きに捉える事ができるのではないかと思ったんです。スイスにある独メルクの研究所まで行き、同社で同じようなプログラムに関わった人たちに意見をもらい、それを持ち帰って日本用にファインチューニングしました。

 

――ご自身の起業のきっかけは。

私自身はアイデアを形にしたあと、EVPのオペレーションからは離れて自分の会社を作ることに専念していました。2012年に武田に入ってから、シャム・ニカム(アーサムの共同創業者。現在は取締役チーフストラテジーオフィサーを務める)と一緒にドラッグ・リポジショニングの部門で研究開発を進めてきて、ART-001もART-648もその中で温めてきたアセットでした。アセットのことは隅々まで知っていましたから、「武田がやらないなら僕たちが薬にする」と自信をもって切り出すことができました。

 

私自身は25年くらいこの業界にいて、医薬品開発の源流のところから早期臨床開発まで一通り経験しています。武田の前は米メルクの研究所にいて、アーサムのもうひとりの共同創業者である大分大学臨床薬理学講座の上村尚人教授とは当時、同じキャンパスで働いていました。

 

――長袋さん自身も大分大の特任教授を務めていますが、大学とはどんな風にコラボレーションしていますか。

上村教授は、われわれのR&Dのコアの役割を務めてくれています。加えて、大学にはさまざまな診療科があるので、専門医にも容易にコンタクトができる。大分大には全国で最も歴史のあるP1試験ユニットがあるので、臨床開発のための環境がハードとソフトの両面で整っているんです。

 

「いかに多くのPOCを作るか」にこだわりたい

――これまでの手応えはどうですか。

手応えは非常にあります。来年2つのPOCが出てくれば、会社としてのイグジットも見えてくるだろうと考えています。われわれは、東証マザーズへのIPO(新規上場)は考えておらず、国内外企業へのM&A(事業譲渡)を出口として見据えています。バーチャルR&Dを掲げているのもそのため。アセットのバリューがそのまま会社のバリューになりますから。

 

イグジットしたあとは、ハコを変えて同じモデルをやっていこうと思っています。時間の面でもお金の面でも効率が良い方法なのに、日本ではどうしてあまりM&Aが行われていないのか、正直不思議でしょうがないんです。

 

もちろん薬のタネを1から作ることや、後期開発にも興味はありますが、「いかに多くのPOCを作るか」にこだわりを持ってやりたいなと思っています。われわれは常にそこのセクターにいたい。それが、世の中にたくさん薬を生み出すことにつながると思っていますので。

 

――今後の展望は。

2022年度までに事業譲渡するのが目標ですが、それは決してゴールではなくてプロセスの1つだと考えています。ゴールは常に「1人でも多くの患者に薬を届ける」ことであり、会社はあくまでビークル。だからといって会社に愛着がないというわけではありませんし、これからも製薬会社や投資家、創薬研究者と一緒に薬づくりをやっていきます。

 

将来的には、同じようなモデルでもっと薬を作っていきたいですし、産業界としては、M&Aという手法がもっとバイオベンチャーのイグジットとして定着したらいいなと思っています。われわれがその1つの例となりたいです。

 

(聞き手・亀田真由、写真は木原財団提供)

 

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