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「ヒルドイド」やはり処方は急増…医療費60億円押し上げ 「美容目的」使用広がる?

更新日

8月末、朝日新聞が美容目的での使用に疑問を投げかける記事を掲載したことで話題となった医療用医薬品の血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイド」。厚生労働省の公開データをAnswersNewsが分析したところ、2014~15年度にかけてヒルドイドなどの「ヘパリン類似物質」の処方が大きく増えていたことがわかりました。

 

増加の要因は明らかではありませんが、処方が大きく伸びているのは20~50歳代の女性。処方量の増加により、医療費は60億円押し上げられました。公的医療保険財政が逼迫する中、処方する側、される側、双方にモラルとコスト意識が求められています。

 

処方量14年度→15年度で17%増

8月31日、朝日新聞デジタルに「高級美容クリームより処方薬 医療費増、乏しい危機感」との記事が掲載されました。

 

「美容には、何万円もする超高級クリームよりも、医療用医薬品『ヒルドイド』がいい――。

ここ数年、女性誌やウェブに、こんな特集記事が続々と出る。保湿効果があるヒルドイドは、医師が必要だと判断した場合のみ処方されるが、雑誌には『娘に処方してもらったものを自分に塗ったらしっとり』といった体験談も載る」(記事より)

 

「ヒルドイド」は医療用医薬品で、体内にある「ヘパリン」に似せた物質(ヘパリン類似物質)を有効成分としています。最も処方量の多い「ヒルドイドソフト軟膏」の場合、薬価は25g入りで592.5円、50g入りで1185円。医療保険が適用されるので、自己負担は3割負担なら50g355.5円で済み、自治体によっては子どもなら無料です。

 

本来は▽血栓性静脈炎▽凍瘡(しもやけ)▽肥厚性瘢痕・ケロイド▽アトピー性皮膚炎などによる皮脂欠乏症――などの治療に使われるもの。ですが、保湿効果に優れ、医療保険で安価に手に入ることから、治療ではなく美容の目的で求める人も少なくないと言われます。

 

事実、「ヒルドイド」などのヘパリン類似物質の処方量は大きく増えています。

 

厚生労働省が公開している「NDBオープンデータ」をもとに、ヘパリン類似物質の処方量(院外処方)を2014年度と15年度で比較してみると、処方量の多い上位10製品だけで16.5%増えていました。「ヒルドイドソフト軟膏」は8.5%、「ヒルドイドローション」は18.4%増え、後発医薬品の「ヘパリン類似物質油性クリーム『日医工』」(旧製品名・ビーソフテン油性クリーム)は41.4%も増加しました。

ヘパリン類似物質の処方量の伸び【院外処方】

 

「20~50歳代女性」で処方が大きく増加

ヘパリン類似物質の処方がこれだけ増えている理由は明らかではありません。しかし、処方の伸び率を男女で比べて見ると、上位5製品ではいずれも女性が男性を上回っています。

ヘパリン類似物質の処方量の男女別伸び率

 「ヒルドイド」のなかでも処方量の伸びが大きい「ヒルドイドローション」についてもう少し詳しく見てみると、男性は10~14歳を中心に19歳以下で処方が伸びているのに対し、女性は20~50歳代の全ての年齢区分で19歳以下の伸びを上回っています。女性で最も伸びが大きいのは50~54歳で、前年から30%処方量が増加。20歳代後半から30歳代前半、40歳代でも25%を超える伸びとなっています。

「ヒルドイドローション」の性別・年齢別処方量の伸び率

 これらのデータからは「ヒルドイド」などのヘパリン類似物質が増加している理由はわかりません。もちろん、美容目的での処方が増えている、と言うこともできません。

 

一方で、本来、この薬が保険適用となる疾患の患者が、20~50歳代の女性で急激に増えているということも考えにくいでしょう。「乳液のかわりに使ったらお肌がツルツル・スベスベ」「全身使えるからコスパがよく、スキンケアの費用が減った」。ネット上に体験談があふれる中、美容目的での使用が広がっていることを裏付けるデータとして見ることもできるのではないでしょうか。

 

処方増で医療費60億円増加

処方の増加は、当然ながら医療費に跳ね返ってきます。

 

処方量に薬価(14~15年度当時)をかけて算出した処方金額は、処方量の多い上位10製品だけで15年度は473.14億円に上り、14年度の413.13億円から60億円増加しました。これは14年度から15年度にかけて増加した国全体の医療費1兆5573億円の0.4%に相当。処方箋料や調剤料を含めると、その額はさらに膨らみます。保険で安く手に入るヘパリン類似物質ですが、その処方の増加が医療費全体に与える影響は、決して小さくはありません。

ヘパリン類似物質の処方金額の伸び(院外処方)

 日本の医療費は増加を続けており、2015年度には42.4兆円に達しました。「ヒルドイド」のように安価な医薬品であっても、その積み重ねが医療費の増加を招きます。今の日本の公的医療保険財政には、それを見過ごせる余裕はありません。

 

保険から外される可能性もある

16年度の診療報酬改定では、湿布薬は1回あたり70枚までしか処方することができなくなりました。14年度には治療目的でないうがい薬だけの処方が、12年度には単なる栄養補給目的でのビタミン剤の処方が、それぞれ保険適用の対象から外されています。

 

風邪薬や漢方薬なども保険から外すべきとの議論は常にあり、仮に美容目的での処方が増えているとすれば、ヘパリン類似物質もその俎上に乗ってきてもおかしくはありません。ちなみに、風邪などに処方される医療用漢方の葛根湯(ツムラ)も14~15年度にかけて処方量が12.7%増えました。

 

「患者に『多めに出して欲しい』と言われれば、出さざるを得ない」。冒頭に紹介した朝日新聞の記事には、こんな医師のコメントが掲載されています。「ヒルドイド」は「保険の効く美容クリーム」ではありませんし、そうした使い方は医療費のムダです。処方する側、される側、双方がモラルとコスト意識を持たなければ、国民皆保険は維持できません。

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