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薬価制度改革「イノベーション評価充実」実際は…4月収載の新薬「高加算」相次ぐも恩恵は限定的

更新日

前田雄樹

2024年度の薬価制度改革後初めて行われた4月の薬価収載で、高率の補正加算が適用される品目が相次ぎました。17日付で収載された新薬10成分のうち7成分が制度改革による評価を受け、4成分が50%以上の補正加算を取得。ただ、このうち3成分は原価の開示度が低かったため実施の価格への上乗せは行われず、恩恵は限定的です。

 

 

4成分に50%以上の加算

2024年度薬価制度改革は「ドラッグ・ラグ」「ドラッグ・ロス」の解消が大きなテーマとなり、イノベーションに対する評価を充実させる方向での見直しが行われました。

 

新規収載時などに適用される補正加算では、革新的新薬を欧米から遅れることなく日本に導入したことを評価する「迅速導入加算」が新設されたほか、有用性系加算(画期性加算、有用性加算I、同II)の評価項目を拡充。市場性加算や小児加算といった有用性系加算以外の補正加算では、開発の状況などを踏まえて加算率を柔軟に判断できるよう運用を見直しました。

 

補正加算以外の加算では、条件を満たした特許期間中の新薬の薬価を維持する新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象を拡大。小児加算や迅速導入加算を受けた品目が対象に加わりました。

 

関連記事:【ビジュアル解説】よくわかる2024年度薬価制度改革―新薬編【ポイントまとめ】

 

4月17日付の薬価収載では、収載された10成分のうち7成分が制度改革によるプラスの影響を受けました。このうち4成分は補正加算の見直しによって従来に比べて加算率がアップし、いずれも50%以上の高い加算を獲得。残る3品目は対象拡大で新薬創出加算が適用されることになりました。

 

【2024年4月収載の新薬 加算の適用状況】★は24年度薬価制度改革で新設・変更されたルールによって加算率が上がったり、加算の対象となったもの|製品名//適応/薬価の加算|ゾキンヴィカプセル/アンジェス/早老症/有用性加算I・市場性加算I★・新薬創出加算|ボイデヤ錠/アレクシオンファーマ/発作性夜間ヘモグロビン尿症/有用性加算I★・市場性加算I・迅速導入加算★・新薬創出加算|ターゼナカプセル/ファイザー/前立腺がん・乳がん/なし|ラパリムス顆粒/ノーベルファーマ/難治性脈管腫瘍・難治性脈管奇形リンパ管腫/有用性加算II・新薬創出加算|フィコンパ点滴静注用/エーザイ/てんかん/小児加算・新薬創出加算★|アイリーア8mg硝子体内注射液 /バイエル薬品/加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮腫/なし|エヴキーザ点滴静注液/ウルトラジェニクスジャパン/ホモ接合体家族性高コレステロール血症/有用性加算I・小児加算★・新薬創出加算|レブロジル皮下注用/ブリストル・マイヤーズスクイブ/骨髄異形成症候群に伴う貧血/有用性加算I★・市場性加算I・新薬創出加算|イブグリース皮下注/日本イーライリリー/アトピー性皮膚炎/小児加算・新薬創出加算|ヒフデュラ配合皮下注/アルジェニクスジャパン/全身型重症筋無力症/新薬創出加算★|※中医協総会(2024年4月10日)の資料をもとに作成

 

 

関連記事:アトピー性皮膚炎治療薬「イブグリース」や「アイリーア」高濃度製剤など10新薬、4月17日薬価収載|トピックス

 

原価開示度で加算係数ゼロ

日本が世界初の承認となったアレクシオンファーマの発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬「ボイデヤ錠」(一般名・ダニコパン)には初めて迅速導入加算(加算率10%)が適用され、ほかに市場性加算I(10%)と有用性加算I(40%)を取得しました。有用性加算Iの加算率のうち5%は拡充された評価項目によるもの。臨床試験では、輸血回避などの副次評価項目でも既存薬に対する改善を示しており、これが新設の評価項目「QOLの向上など、臨床試験での重要な副次的評価項目で既存の治療方法に比べた改善が示される」(下の表の③のf.)に該当すると判断されました。

 

ブリストル・マイヤーズスクイブの骨髄異形成症候群に伴う貧血治療薬「レブロジル皮下注」(ルスパテルセプト)も、有用性系加算の評価項目拡充が加算率算出にプラスとなりました。骨髄異形成症候群に伴う貧血では約9年4カ月にわたって新規作用機序の新薬が出ておらず、新設された「同じ疾患領域で新規作用機序の新薬が長期間収載されていない」(下の表の①のe.)を満たすとして加算率が5%アップ。結果として有用性加算Iの加算率は45%となり、加えて市場性加算I(10%)もつきました。

 

【有用性系加算の評価項目の拡充】① 臨床上有用な新規の作用機序(ポイントの合計により算出。A、bはどちらか1つ)/a.薬理作用発現のための薬剤の作用点(部位)が既収載品目と大きく異なる/2p|b.薬理作用発現のための薬剤の標的分子が既収載品目と異なる/1p|c. aまたはbを満たす場合で、標準的治療法が確立されていない重篤な疾病を対象とする/+1p|d.aまたはbを満たす場合で、創薬・製造のプロセスが類似薬等と大きく異なることに基づいた臨床上の有用性が示される/+1p|e. aまたはbを満たす場合で、同じ疾患領域で新規作用機序の新薬が長期間収載されていない/+1p|f.aまたはbを満たす場合で、示された新規の作用機序が臨床上特に著しく有用であると薬価算定組織が認める/+1p|② 類似薬に比べて高い有効性・安全性(②-1と②-2のポイントを掛けて算出/②-1 高い有効性・安全性の内容(ポイントの合計)/a. 臨床上重要な有効性指標で類似薬等に比べて高い有効性が示される/1p|b.重篤な副作用の発現状況など、臨床上重要な安全性指標で類似薬等に比べて高い安全性が示される/1p|c. aまたはbを満たす場合で、高い有効性・安全性が臨床上特に著しく有用あると薬価算定組織が認める/+1p| ②-2 高い有効性・安全性の示し方(いずれか1つ)/a. ランダム化比較臨床試験による/2p|b.その他、患者数が少ないなどの理由で比較試験の実施が困難な難病・希少疾病に対する新薬で、単群試験の成績などに基づいて類似薬等に比べて高い安全性・有効性が客観的かつ信頼性を持って示されていると薬価算定組織が認めるなど、客観性・信頼性が確保された方法による/1p|③ 対象疾病の治療法の改善(ポイントの合計により算出)/ a.既存の治療方法では効果が不十分な患者群、あるいは安全性等の理由で既存の治療方法が使用できない患者で効果が認められる/1p|b.対象疾病に対する標準的治療法として位置付けられる/1p c.既存の治療方法に比べて効果の発現が著しく速い、もしくは効果の持続が著しく長い、または使用に際しての利便性が著しく高い(製剤工夫によるものを除く)/1p|d. 既存の治療方法との併用により臨床上有用な効果の増強が示される/1p|e.作用機序に基づいて特定の患者集団に適応が限定され、その集団に対して高い効果が示される/1p|f.QOLの向上など、臨床試験での重要な副次的評価項目で既存の治療方法に比べた改善が示される/1p|g.上記のほか、特に著しい治療方法の改善が示されていると薬価算定組織が認める/1p|h. a~gのいずれかを満たす場合で、標準的治療法が確立されていない重篤な疾病を適応対象とする/+1p|④ 製剤工夫による高い医療上の有用性(ポイントの合計により算出)/a.投与時の侵襲性が著しく軽減される/1p|b.投与の簡便性が著しく向上する 1p|c.特に安定した血中薬物濃度が得られる/1p|d. 上記のほか、特に高い医療上の有用性があると薬価算定組織が認める/1p|※厚生労働省「薬価算定の基準について」をもとに作成

 

アンジェスの早老症治療薬「ゾキンヴィカプセル」(ロナファルニブ)は、対象患者が少ない中で欧米に遅れることなく開発・承認されたことが評価されて15%の市場性加算Iを取得。ウルトラジェニクスジャパンのホモ接合体家族性高コレステロール血症「エヴキーザ点滴静注液」(エビナクマブ)は、成人向けとの同時開発を踏まえて10%の小児加算がつきました。従来は、市場性加算Iは10%、小児加算は5%とされることがほとんどでしたが、運用の柔軟化によって加算率がアップした形です。

 

これら4成分は50%以上の高い加算を取得しましたが、ボイデヤ、レブロジル、ゾキンヴィは原価の開示度が50%未満だったため加算係数がゼロ(=実際の価格への上乗せは行われない)となりました。加算分が価格に上乗せされたのは1成分だけで、イノベーション評価充実の恩恵は限定的です。

 

【2024年4月収載 補正加算を受けた品目】オレンジ文字は原価開示度50%未満のため加算係数がゼロとなった品目。〈製品名/社名/適用加算・加算率〉ゾキンヴィカプセル/アンジェス/有用性加算I/45%/市場性加算I/15%|ボイデヤ錠/アレクシオンファーマ/有用性加算I/40%/市場性加算I/10%/迅速導入加算/10%|ラパリムス顆粒/ノーベルファーマ/有用性加算II/15%|フィコンパ点滴静注用/エーザイ/小児加算/5%|エヴキーザ点滴静注液/Ultragenyx Japan/有用性加算I/40%/小児加算/10%|レブロジル皮下注用/ブリストル・マイヤーズスクイブ/有用性加算I/45%/市場性加算I/10%|イブグリース皮下注/日本イーライリリー/小児加算/5%|※中医協総会(2024年4月10日)の資料をもとに作成

 

一方、対象拡大で新薬創出加算の適用を受けることになったのは、エーザイの抗てんかん薬「フィコンパ点滴静注用」(ペランパネル水和物)、日本イーライリリーのアトピー性皮膚炎治療薬「イブグリース皮下注」(レブリキズマブ)、アルジェニクスジャパンの全身型重症筋無力症治療薬「ヒフデュラ配合皮下注」(エフガルチギモド アルファ/ボルヒアルロニダーゼ アルファ)の3成分。

 

フィコンパとイブグリースは小児加算適用によって対象となり、ヒフデュラは先行収載品(同薬の場合はウィフガート)と組成および効能・効果が同等で製造販売業者が同一の場合に加算対象とする新ルールが適用されました。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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