日米欧の製薬大手が、中国企業との提携を積極的に進めています。新薬開発への大型投資が続くほか、デジタルソリューションの展開に向けた協業も活発化。各社の中国事業は2020年も2桁成長となり、コロナ禍でも投資熱が冷める気配はありません。
海外大手 コロナ禍でも成長
2020年、コロナ禍にあっても製薬各社の中国事業は高成長が続きました。欧米主要製薬企業の20年12月期決算によると、多くの企業が中国事業で2桁増収を達成。日本企業でも、エーザイやアステラス製薬が21年3月期に2桁の増収を見込んでいます。
英アストラゼネカは前期比11%増の53億8000万ドル(約5750億円)を売り上げ、全体に占める割合は20%を超えています、ノボ・ノルディスク(デンマーク)も10%超を中国事業で稼いでおり、20年は前期比11%増の140億8400万デンマーククローネ(約2300億円)に達しました。経済成長に伴う所得水準の上昇により、価格の高い新薬の使用が広がっており、各社の業績を牽引しています。
米IQVIAによると、中国の医薬品市場(19年)は1416億ドルで、5103億ドルの米国に次いで世界2位。同社の予測では、20年からの5年間で年平均5~8%成長し、24年には1650~1950億ドルまで拡大するとみられています。
一方、近年では拡大する医療費への締付けも強まっており、政府集中購買制度や保険償還リストの毎年更新といった薬剤費抑制策も打ち出されています。中国売上高が前期比7.7%減となった仏サノフィは集中購買制度の影響を受け、抗血小板薬「プラビックス」や高血圧症治療薬「アバプロ」が大幅に値下がり。日本企業では、参天製薬やエーザイが主要な長期収載品で落札を逃し、新薬投入で巻き返しを図っています。
新薬開発、デジタルサービス…提携相次ぐ
中国政府は16年、国家戦略「健康中国2030」を公表。医療分野では、▽国民全体をカバーする健康管理システムの構築▽医療保険制度改革▽医薬品のEC販売の促進▽医薬品・医療機器規制の国際標準化▽医療サービスに関するグローバルな提携の促進▽デジタルサービスの整備――などの取り組みが盛り込まれました。政府による資金的な支援や政策的な優遇措置などが期待され、自社開発、協業を問わず主要製薬企業による投資は年々拡大しています。
アストラゼネカは19年の中国国際輸入博覧会で、上海に「グローバルR&Dセンター」「人工知能(AI)イノベーションセンター」を設立し、中国での研究開発体制を強化すると発表。さらに、中国の大手投資銀行の中国国際金融(CICC)と共同で10億ドル規模のファンドを立ち上げました。スイス・ロシュも同年、上海にイノベーションセンターを開設しています。
リリー、中国企業との共同開発品を発売
米アムジェンも同じ年、中国のバイオテクノロジー企業ベイジーンに27億ドルを出資。アムジェンの抗がん剤を中国国内で開発・販売することで戦略的提携を結びました。ベイジーンは自社創製の抗PD-1抗体tislelizumabやBTK阻害薬zanubrutinibを展開する中国製薬のトップランナーで、アムジェンは提携で中国への製品投入を加速させます。
米イーライリリーも19年、中国のイノベント・バイオロジクスと共同開発した抗PD-1抗体「TYVYT」(一般名・sintilimab)を発売。20年には中国で3億870万ドルを売り上げ、両社で国外への展開を目指しています。イノベントはまた、20年にロシュとも研究開発で提携。ロシュの細胞医薬や二重特異性抗体に関する技術にアクセスできるようになり、提携によって生まれた新薬が実用化された場合、イノベントは最大で19億6000万ドルをロシュから受け取ります。
糖尿病にはデジタルソリューション
中国では、急速な経済成長とともに生活習慣病の患者が増加。中でも糖尿病は、2045年に患者数が2億人に上ると見られています。この領域を強みとするノボ・ノルディスクは、糖尿病に対するデジタルソリューションの提供で、オンライン診療を手掛けるテンセント傘下のWeDoctorや、アリババのヘルスケア事業アリヘルスなどと連携。昨年は、米マイクロソフトと組んで中国の患者向けに糖尿病の正しい知識を提供するAIチャットボットを開発すると発表しました。
サノフィも、外来でインスリン治療を受ける患者を対象に、中国医師協会と糖尿病自己管理プログラム「TRIO」を使った治療介入に14年から取り組んでいます。独バイエルは昨年、デジタル技術を活用した血糖値モニタリングソリューションを中国の患者に提供するため、開発元の米国企業と提携しました。
日本企業の動きも活発化
独メルクはテンセントと患者向けのヘルスケアサービスを開発していて、アレルギー疾患や心血管疾患といった慢性疾患から、がん、不妊治療まで幅広い展開を目指しています。同様に、日本企業と中国のヘルスケア企業の間でも、さまざまな疾患領域でエコシステム構築を目指した連携が生まれています。
エーザイは昨年10月、中国の京東健康(JDヘルス)と合弁会社「京颐衛享(上海)健康産業発展有限公司」を設立。新会社はエーザイが得意とする認知症の患者を主なターゲットに、高齢者向けの健康サービスプラットフォームの構築を目指しています。具体的には▽認知機能のセルフチェックツールの提供▽オンライン診療やヘルスケア相談の提供▽介護施設・介護士の紹介や介護知識の発信▽医薬品・ヘルスケア用品のオンライン販売――などを行う予定で、今年1月から順次提供を始めています。
武田薬品工業は、脳卒中の治療・管理の促進のため、中国子会社を通じて18年にアリヘルスと提携。両社の技術力を活かし、素早く適切な治療を施すことが目指せる脳卒中センターの建設を行うと発表しました。あわせて、インターネットを通じた啓発活動にも取り組んでいます。
昨年8月には、塩野義製薬が中国平安保険集団と合弁会社「平安塩野義有限公司」を上海に設立。オンライン販売・流通網を通じた自社製品のアジア展開だけでなく、中国平安の持つビッグデータやAI技術を活用し、データドリブンの新薬開発にも取り組み、24年度までに1000億円超の売り上げを目指しています。
ロイター通信によると、15年に約32億ドルだった外国製薬企業と中国バイオテクノロジー企業の合弁やディールの規模は、19年には少なくとも100億ドルに達したといいます。医療プラットフォームを持つヘルステック企業も台頭しており、協業は今後も増えていくとみられます。
(亀田真由)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
・エーザイ
・アステラス製薬
・武田薬品工業
・塩野義製薬
・参天製薬