米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。感染が広がる新型コロナウイルスに、製薬企業や医療機器メーカーはどう向き合うべきなのでしょうか。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
企業が直面する厄介な問題
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで世界中の医療システムが逼迫する中、ライフサイエンス企業はこの疾患への対応を急いでいる。信頼性の高い検査の開発に、あるいは、急上昇する人工呼吸器や防護具に対するニーズへの対応に、医療テクノロジー企業は懸命だ。安全かつ有効な治療薬とワクチンを開発している製薬企業も、時間との競争の渦中にある。
製薬企業と医療テクノロジー企業は、今ある危機の先を見据え、ここ数週間で劇的に変化した市場と勢力図の中に、自社のポジションを見いだそうとしている。
各社が直面しているのは、数週間前には予想だにしなかった次のような厄介な問題だ。
▽COVID-19の患者で最も頻度の高い併存症は何か。この疾患は生物製剤を使用している患者にどのような影響を及ぼすのか。
▽MRが直接医療機関を訪問できない場合、患者に影響を及ぼし得る科学的進展の情報を医師に伝えるにはどうしたらいいか。
▽移動が制限される患者は、処方箋をどのように再調剤してもらうのか。職を失った患者は、どうやって治療薬の代金を工面するのか。
▽パンデミックの影響で医薬品やデバイスを入手できなくなった場合、患者や医師はどんな状態に陥るのか。
Decision Resources Groupのクライアントも、状況の把握に努めつつ、極端に不自由な状態にある患者に対して医療従事者がケアを提供できるよう支援している。その中から我々に寄せられる問い合わせを以下にまとめる。ライフサイエンス企業のマネジメント層との対話から浮かび上がってきたのは、パンデミックの衝撃が社会と経済に波及し、企業経営の障害となっていることだ。
リスクのある患者の特定
パンデミックの範囲をつかみ、罹患した患者の特徴を分析することは、公衆衛生当局者、制作立案者、報道機関、医療機関のいずれにとっても極めて重要な課題だ。
ワクチンを効果的に供給するには、リスク集団とそれに準ずる重要な集団の規模を把握する必要がある。最重度の症例に関する人口統計プロファイルと、併存疾患プロファイルをモデル化しなければならないだろう。
さらに広く見れば、どの医薬品メーカーも、COVID-19が患者にどんな影響を及ぼすのか、医療システムと専門家が薬の効果を引き出すための最良の支援は何かを、想定しなければならなくなる。
アクセスと治療費の保証
病院に人が押し寄せる一方、他人との接触をなるべく避ける必要があるため、治療を受けようとする患者は、処方箋の再調剤から診断の取得、予定されていた手術まで、相当な障害に直面する。さらに、グローバル経済が広い範囲で停滞すれば、多くの患者の就業と収入が破綻して治療費を払えなくなるおそれがある。
医薬品や医療機器のメーカーは、市場アクセスの関係者と連携して、そうした患者のケアの継続を確保しなければならない。医療システムはあらゆるレベルで極度の重圧にあえいでおり、ケアを妨げるものに対して事前に手を打ち、患者のために回避策を見いだすことが極めて重要だ。メーカーが障害を突き止め、医療行動の開始要因を理解し、欠落要素の排除とケアの提供を支援するには、リアルワールドデータとソーシャルデータの情報が役立つだろう。
非対面での情報提供
疾患の蔓延を封じ込め、病院への無謀な要求を軽減するために、社会的距離の確保は必須だ。
しかしそれでは、新たな治療と最新の科学データについて情報提供するという、ライフサイエンス企業にとって不可欠な任務が難しくなる。そのため、これまで対面の情報提供に大きく依存してきたライフサイエンス企業は、関係者との接触を保つ別のルートの開拓を急ぐことになった。eメールのニュースレター、リモートディテーリング、テレビ会議、オンラインCME(医師生涯教育プログラム)などだ。
ライフサイエンス企業にとって、オンラインリソースの必要性はかつてないほど高まっている。このことは、保険者、医療提供者、専門家だけでなく、確かで身近な情報を求める患者にとっても同様だ。医療における意思決定に力を与えるには、各企業が情報の受け手となる人々の情報探求行動や、情報収集のルートと嗜好を考慮に入れる必要が出てくるだろう。
見通しの修正
ライフサイエンス企業は今回の危機の中にあって、顧客が患者により良いケアを提供できるよう懸命に支えている。その一方、従来型の予測ツールがはじき出す数値が当てにならない今は、内外の関係者の期待にもうまく対応しなければならない。
医薬品・医療機器メーカーは、次のような点を考慮した上で、予測を修正する必要に迫られている。
▽発売の遅れによる影響▽臨床試験を中断したり、データに混乱が生じたりする可能性▽新規契約の急激な減少による保険者との再交渉▽COVID-19そのものと、それが供給に与える影響によって、治療薬を使用する患者にどういう変化があるのか――。
COVID-19のワクチンが出るにはまだ時間がかかる。この危機はまだ初期の段階に過ぎず、これから医療提供のあり方が大きく変わっていくのは明白だ。
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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