4月に行われる2020年度薬価改定で大きな影響を受けそうな会社はどこなのか。各社が主力とする製品の薬価の引き下げ幅を見てみました。
効能変化再算定 新設の特例で「ゾレア」37%引き下げ
厚生労働省は3月5日、4月1日に行う薬価改定を告示しました。薬価の引き下げ率は薬剤費ベースで4.38%(医療費ベースでは0.99%)。過去の改定に比べて下げ幅は小さくなっていますが、昨年10月には消費増税に伴う薬価改定で2.40%の引き下げが行われており、製薬企業にとって厳しいことには変わりありません。
主な引き下げ項目を見てみると、20年度の薬価制度改革で新設される「効能変化再算定の特例」はノバルティスファーマの抗IgE抗体「ゾレア」に適用され、同薬は37.3%の大幅な薬価引き下げ。「市場拡大再算定の特例(特例拡大再算定)」は第一三共の抗凝固薬「リクシアナ」とMSDの免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」が対象となり、通常の市場拡大再算定では14成分40品目が引き下げを受けます。
後発医薬品が発売されるなどして新薬創出・適応外薬解消等促進加算(新薬創出加算)の加算相当額を返還するのは52成分120品目。長期収載品の薬価引き下げでは、後発品の発売から16年かけて後発品と同じ薬価まで引き下げる「G1」が70成分169品目に、20年かけて後発品の1.5倍まで引き下げる「G2」が124成分262品目に適用されます。
「アバスチン」「リクシアナ」「キイトルーダ」など2ケタ引き下げ
こうした引き下げは、各社の主力製品を直撃します。
中でも中外製薬は、売り上げトップの抗がん剤「アバスチン」(19年12月期売上高956億円)がバイオシミラー発売に伴って新薬創出加算を返還するほか、▽抗がん剤「パージェタ」(307億円)▽血友病治療薬「ヘムライブラ」(252億円)▽関節リウマチ治療薬「アクテムラ」(418億円)――が市場拡大再算定を受けます。アクテムラのマイナス18.5%を筆頭に、いずれも引き下げ幅は2桁。同社は20年12月期の国内売上高を前期比5.9%減(19年12月期は9.4%増)と予想しており、影響は大きそうです。
第一三共は、20年3月期に800億円の売り上げを見込むリクシアナが特例拡大再算定で25%の引き下げ。19年12月期の売上高が1284億円(薬価ベース、IQVIA調べ)に上るMSDのキイトルーダも、特例拡大再算定により20.9%の引き下げを受けます。
帝人ファーマは、痛風・高尿酸血症治療薬「フェブリク」(19年3月期売上高358億円)が市場拡大再算定で14.5~14.6%の引き下げとなります。フェブリクは帝人のヘルスケア事業の2割超を稼ぐ最主力品。大塚製薬も稼ぎ頭の利尿薬「サムスカ」(19年12月期売上高673億円)が16.5%のマイナスとなります。
生化学工業が製造し、科研製薬が販売する関節機能改善剤「アルツ」(科研の20年3月期売上高予想244億円)は、2度目のG2適用でディスポーザブル製剤が13.1%の引き下げ。アルツディスポは18年4月の改定でもG2によって14.3%引き下げられており、大きな打撃となります。
このほか、協和キリンの腎性貧血治療薬「ネスプ」や小野薬品工業の制吐薬「イメンド」、日本イーライリリーの骨粗鬆症治療薬「フォルテオ」、日本ベーリンガーインゲルハイムのCOPD治療薬「スピリーバ」など各社の主力製品が2ケタの薬価引き下げとなっており、経営に大きな影響を及ぼすことになりそうです。
「ネキシウム」「ヒュミラ」などは薬価引き上げ
一方で、各社の主力品の中には薬価が引き上げられるものもあります。
第一三共のPPI「ネキシウム」(製造販売元はアストラゼネカ)は、小児適応の追加に伴う加算によって0.9%の薬価引き上げ。アッヴィの抗TNFα抗体「ヒュミラ」は、希少疾病の適応拡大(化膿性汗腺炎)による加算で1.6~2.5%引き上げられます。
サノフィの高コレステロール血症治療薬「プラルエント」は、心血管イベントの発症リスクを抑制した臨床試験の結果が評価され、「真の臨床的有用性の検証に係る加算」で1.6~3.1%の引き上げとなります。小野薬品工業のSGLT2阻害薬「フォシーガ」(製造販売元はアストラゼネカ)も同加算で薬価が維持されました。
特許期間中の新薬の薬価を維持する新薬創出加算の取得状況を見てみると、加算を受けた製品が最も多かったのは24成分46品目のノバルティス。2位はサノフィ(21成分28品目)、3位はファイザー(19成分35品目)で、以降はヤンセン(19成分29品目)、MSD(12品目20成分)、武田薬品工業(10成分18品目)と続きました。新薬創出加算の対象品目が多い企業では、改定の影響は比較的小さくなるとみられます。
(前田雄樹)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】