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エーザイ 「データ」核に新ビジネス―認知症の予測・予防を事業化へ

アルツハイマー病に対する3つの疾患修飾薬が開発の最終段階を迎えているエーザイ。ITや保険といった異業種と協業し、認知症の予測・予防を事業化する方針を明らかにしました。核となるのは、認知症治療薬の開発・販売で蓄積してきた「データ」。AIを活用し、予防や先制医療へとビジネスの幅を広げます。

 

「2P時代の幕開け」

「患者一人ひとりと直接結びつき、予知と予防に関する情報を提供したい。これからはPrediction(予知)とPrevention(予防)のミックスの時代になっていく。『2P時代』の幕開けだ」。エーザイの内藤晴夫・代表執行役CEOは、3月7日に開いたメディアとの懇談会で、認知症の予測・予防サービスを事業化する方針を明らかにしました。

 

エーザイの内藤晴夫・代表執行役CEO

エーザイの内藤晴夫・代表執行役CEO

 

内藤氏は「データによって生み出される価値を用いて、今まで見たこともないモノや状況をつくり出すことがわれわれに求められている」とし、従来のバリューチェーンに基づくビジネスモデルを、データを核に異業種と連携して価値を提供する「エコシステム プラットフォーム モデル」に変革する必要があると強調。「データを用いて予知・予防に関するアルゴリズムを開発し、協業を通じてエコシステムの中でさまざまな便益をつくり出していく」と話しました。

 

エーザイは1997年に世界初の認知症治療薬「アリセプト」を発売。現在は、アルツハイマー病の疾患修飾薬として、▽BACE(ベータサイト切断酵素)阻害薬エレンベセスタット▽抗Aβ(アミロイドベータ)抗体アデュカヌマブ▽同BAN2401――を開発しています。

 

内藤氏の言う「エコシステム プラットフォーム モデル」は、こうした薬剤の開発や販売などから得られるデータを使い、ITやフィットネス、保険、診断といった業種と協業することで、新たなモノやサービスを生み出していこうというもの。エーザイが開発した認知機能の低下を判定するAIを活用し、保険会社と組んで先制医療プログラムを提供したり、高齢者の安全運転のためのシステムを自動車メーカーと共同開発したり、高齢者雇用に役立てたり、といった新たなビジネスにつなげる考えです。

 

エーザイ アルツハイマー病の疾患修飾薬の開発状況。開発コード・一般名:E2609・エレンベセスタット、作用機序:BACE阻害薬、開発段階:P3/日米欧中、今後の予定(目標):2020年に主要評価項目の最終リードアウト。開発コード・一般名:BIIB037・アデュカニマブ、作用機序:抗Aβ抗体、開発段階:P3/日米欧、今後の予定(目標):2021年に主要評価項目の最終リードアウト。開発コード・一般名:BAN2401、作用機序:抗Aβプロトフィブリル抗体、開発段階:P2/日米欧、今後の予定(目標):2019年3月にP3試験開始・2022年に主要評価項目の最終リードアウト。

 

AIで認知機能を検査 悪化を予測

このモデルで「プラットフォーマーとしてのエーザイの真骨頂となる」(内藤氏)認知症の予測ツールとして、歩行・音声・描画の3つのテストで認知機能を判定するAIと、MRI画像から2年後の認知機能の悪化を予測するAIを開発中。いずれも数年以内に実用化する方針です。

 

前者は「VIVO」という仮称がつけられたアプリで、▽歩行▽発話▽指示に応じた図形の模写――をAIが解析。「○○さんは特にものごとを順序立てて行うことが難しくなるかもしれません」といった具合に認知機能を評価するとともに、買い物や電話、運転といった生活シーン別に注意点やアドバイスを提示します。

 

エーザイが開発する「VIVO」(仮称)のイメージの図。【3種類の客観的で簡単なテスト】歩行(画像による歩行状態の分析)、音声(音声応答における発話状態の分析)、描画(指示に応じた固形の模写)。→【AIを用いたアルゴリズム】→【認知機能パターンと生活シーンごとの注意点・アドバイスを提示】

 

後者は、認知機能が悪化した人の2年前のMRI画像と、認知機能が悪化しなかった人の2年前のMRI画像をもとにアルゴリズムを構築。エーザイによると、現段階でも90%以上の精度で悪化するかどうかを予測することができるといい、社内に蓄積したデータなどを使ってさらなる精度の向上を図る方針です。

 

スコープをワイドに

製薬業界では今、いわゆる「未病ビジネス」や「重症化予防ビジネス」が活発化しています。武田薬品工業は、湘南ヘルスイノベーションパークの未病ビジネスコンソーシアム「湘南会議」参加企業とともに、健康増進型保険など中年肥満男性を対象としたビジネスモデルの構築に着手。アステラス製薬はバンダイナムコエンターテインメントと組んで運動支援アプリの開発に乗り出し、田辺三菱製薬もヘルスケアベンチャーと糖尿病患者の生活習慣改善を支援するアプリを開発しました。

 

国内製薬会社による「未病ビジネス」への取り組みの表。<武田薬品工業>湘南アイパークの「湘南会議」に参加する8社でメタボの中年男性を対象とするビジネスモデルを構築。<アステラス製薬>バンダイナムコエンターテインメントと運動支援アプリを共同開発。<エーザイ>認知症の予測・予防サービスを事業化。<田辺三菱製薬>ベンチャーのハビタスケアと、糖尿病患者の生活習慣改善支援アプリを開発。<br />

 

内藤氏は「今や認知症は発症後の治療だけでは語れない。よりワイダースコープ、特に早いほうにどんどん広がってきている」と指摘。開発中の疾患修飾薬は早期アルツハイマー病が対象ですが、それより前の「プレクリニカルAD」の段階で介入できれば、アルツハイマー病の発症を遅らせ、治療や介護にかかる経済的な負担を減らせると期待しています。

 

「処方に結びつかなくてもいい」

製薬各社が未病ビジネスに取り組む背景の1つとして、公的医療保険の財政が逼迫しているという事情があります。薬価への締め付けも厳しくなる中、各社が公的保険の枠外でビジネスを模索しています。

 

内藤氏も「副次的には保険財政の枠というところはある」としながらも、「第一義的に言えば、未病の段階で手当したほうが患者のライフタイムを見た場合に絶対いいし、費用の削減にもつながる。未病や健康というところまでスコープをワイドにしたほうが、患者や社会に対する貢献は大きいだろう」と話しました。

 

エーザイはここ数年、認知症に対するソリューションビジネスに力を入れており、これまでに認知症患者の外出を支援するツールや、認知症に備える少額掛け捨て保険などを発売。現在はシスメックスと共同で血液によるアルツハイマー病診断の研究を行っており、疾患修飾薬の発売までの実用化を目指しています。

 

「(予測・予防サービスは新薬の)処方と直接結びついても結びつかなくてもどちらでもいい。認知症コミュニティ全体への貢献ということでトータルなエコシステムがリッチになればいいと考えている」と内藤氏。認知症に長年関わってきたエーザイの取り組みだけに注目を集めそうです。

 

(前田雄樹)

 

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