本庶佑・京都大特別教授のノーベル賞受賞で、あらためて注目が高まった免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」。同薬によって収益を大きく伸ばした小野薬品は、将来に向けた投資を拡大しています。
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「稼ぐ力」大きく向上
本庶佑・京都大特別教授のノーベル医学生理学賞受賞決定から一夜明けた10月2日。小野薬品工業の株価は一時、前日終値から220円高となる3430円をつけ、年初来高値を更新しました。小野薬品は本庶氏の研究成果をもとに免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」を開発。ノーベル賞受賞であらためて関心が高まりました。
小野薬品がオプジーボを日本で発売したのは2014年9月。当初の適応は悪性黒色腫でしたが、翌15年12月に非小細胞肺がんに適応が広がったのを機に販売が急増し、16年度の同薬の売上高は1039億円に達しました。この年、小野薬品の連結業績は売上高2448億円(前年度比52.7%増)、営業利益723億円(136.9%増)と急拡大。営業利益率は29.5%となり、前年度から10.5ポイント上昇しました。
ただ、オプジーボはその薬価の高さから、「医療保険財政に大きな影響を与える」との指摘が相次ぎ、17年2月に薬価が50%引き下げられました。今年4月の薬価改定でも23.8%の引き下げを受け、11月にはさらに37.5%引き下げられる予定。オプジーボの薬価は14年9月の発売からわずか4年で4分の1まで下がることになります。
一方、対象となるがん種は広がっており、現在は腎細胞がんや頭頸部がん、胃がんなど7つのがんで承認されています。オプジーボの売上高は17年度に901億円まで落ち込みましたが、18年度は900億円とほぼ横ばい。薬価引き下げの影響を適応拡大に伴う販売数量の増加でカバーする構図となっています。
17年度の連結業績は売上高2618億円(7.0%増)、営業利益は607億円(16.0%減)と大幅な営業減益。18年度は売上高2770億円(10.7%増)、営業利益615億円(1.3%増)を見込みます。オプジーボの売り上げは伸び悩みますが、それでも営業利益率は17年度23.2%、18年度も22.2%を見込んでおり、上場製薬会社の平均(14.3%、17年度)を大きく上回る水準をキープ。提携先の米ブリストル・マイヤーススクイブからのロイヤリティ収入が拡大します。
投資は急拡大
オプジーボで「稼ぐ力」を高めた小野薬品は、手にしたキャッシュを積極的に投資に回しています。
小野薬品の投資キャッシュフローの推移を見てみると、12年度は44億円のプラス、13年度は69億円のプラスでしたが、16年度は一転して180億円のマイナス、17年度も342億円のマイナスと、オプジーボ発売の前後で様子が大きく変わっています。
投資キャッシュフローはプラスだとあまり投資をしておらず、逆にマイナスだと積極的に投資を行ったことを意味します。キャッシュフローの推移から、小野薬品がオプジーボの販売が急増した16年度以降、投資を積極化させていることが読み取れます。
投資キャッシュフローの主な中身(17年度)は、有形固定資産の取得による支出が156億円、無形資産の取得による支出が142億円。17年度には計186億円の設備投資を行いました。現在、オプジーボなどを生産する新工場を山口市に建設中で、20年3月に予定する操業開始時には小野薬品の医薬品生産能力は従来より30~40%増える見通しです。
広がる外部提携
近年は外部との提携にも力を入れています。16年度以降に限って見ても、発表されているだけで創薬研究などで18の提携を締結しました。
目立つのはがん領域で、16年7月にはベルギーのセリアドと提携し、免疫チェックポイント阻害薬に続くがん免疫療法として期待されるCAR-T細胞療法に参入。今年9月にはiPS由来の他家CAR-T細胞療法の創製を目指し、米国のバイオベンチャーとも提携しました。
オプジーボとほかの抗がん剤との併用療法では、エーザイや武田薬品工業と開発提携を結んでいます。米アレイから導入したMEK阻害薬ビニメチニブとBRAF阻害薬エンコラフェニブは、大腸がんを対象に臨床第3相試験を実施中です。
また、中分子や二重特異性抗体など新たな技術も積極的に導入。免疫の分野では、田辺三菱製薬や第一三共、アカデミアとともに、免疫炎症性の難病に対する新薬創出を目指してコンソーシアムを立ち上げました。
オプジーボは小野薬品に好業績をもたらしましたが、どんな新薬でもいつか特許切れを迎えます。積極的な投資から、オプジーボに続く新薬は生まれるのか。挑戦は続きます。
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