高い有効性とともに高額な費用で注目を集めるCAR-T細胞療法。米国では1回の投与に5000万円を超える価格がついたノバルティスの「キムリア」の承認が間近に迫る中、公的医療保険でCAR-T細胞療法をどう使っていくのか、議論が本格化しています。
キムリア5400万円 イエスカルタ4200万円
CAR-T細胞療法は、患者から採取したT細胞に遺伝子改変を加え、がん細胞表面の抗原を特異的に認識するキメラ抗原受容体(CAR)を発現させた上で、再び患者の体内に戻す治療法。T細胞のがんに対する攻撃力を高めるのが狙いで、免疫チェックポイント阻害薬に続くがん免疫療法として期待されています。
ノバルティスの「キムリア」は今年4月に日本でも申請を行っており、早ければ年内にも承認される見通しです。キムリアは昨年8月に米国で世界初のCAR-T細胞療法として承認され、今年8月には欧州でも承認を取得。米国では1回の投与に5000万円を超える価格がつき、“超高額薬剤”としても注目を集めました。
セルジーンや大塚も開発
キムリアのほかにもCAR-T細胞療法の開発は行われており、日本ではセルジーンが「JCAR017」の臨床第2相(P2)試験を実施中。第一三共はギリアド・サイエンシズから導入した「KTE-C19」(海外製品名・イエスカルタ)のP2試験を準備中で、大塚製薬はタカラバイオから導入した「TBI-1501」のP1/2試験を行っています。
イエスカルタは米国ですでに承認済み。投与1回にかかる費用は4200万円と、こちらも超高額となっています。
「現在の薬価制度では対応が難しい」
現在の薬価制度では対応が難しい製品が今後、登場する可能性もある――。厚生労働省は10月10日の社会保障審議会・医療保険部会で、キムリアを念頭に高額薬剤の保険収載について議論を始めました。
日本では、有効性・安全性が認められ薬事承認された医薬品は、原則としてすべて保険収載されます。財務省は、医療保険財政に与える影響を考慮せずに保険適用する今の仕組みを問題視しており、10月9日に開いた財政制度等審議会・財政制度分科会で「新たな医薬品・医療技術は、経済性の評価も踏まえて、保険収載の可否も含めて対応を決める仕組みとすべき」と提案。仮に保険収載が見送られた場合は、保険外併用療法の活用も検討すべきと指摘しました。
厚労省はこれまでも、医療保険財政を圧迫しかねない高額な医薬品については、薬価引き下げを中心とする対応をとってきました。
オプジーボ 薬価は4分の1に
2016年度には、C型肝炎治療薬「ハーボニー」の爆発的ヒットを受け、年間販売額が極めて大きくなった医薬品の薬価を大幅に引き下げる「特例拡大再算定」を導入。免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」も特例拡大再算定によって大幅に薬価が引き下げられました。
さらに18年度には、2年に1回の通常の薬価改定とは別に、適応拡大で売り上げが伸びた薬の薬価を年4回の新薬の薬価収載のタイミングに合わせて引き下げるルールも導入。費用対効果の評価に応じて薬価を調整する仕組みも新設されました。オプジーボは今年11月に3度目となる大幅な薬価引き下げを受ける予定で、これによって薬価は収載時の4分の1まで下がります。
キムリアの市場規模は100~200億円
厚労省は、CAR-T細胞療法など今後発売される高額な医薬品についても同様の対応を行う必要があるとの考えを示しています。
キムリアは、▽25歳以下のCD19陽性再発・難治性B細胞性急性リンパ芽球性白血病▽成人のCD19陽性再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫――の2つの適応で申請中。日本での投与対象患者は250人程度とみられ、厚労省はキムリアの市場規模を100~200億円程度と見積もっています。
10月10日の医療保険部会では、「安全性・有効性が確認された医薬品を速やかに保険収載する仕組みは維持すべき」などと、経済性で保険適用の可否を判断することに否定的な意見が出ました。保険外併用療養に対しても、保険適用されなかった医薬品の費用は全額自己負担となることから「経済的な理由で使用できる患者が限られる」との指摘が出ています。
米国では1億円の遺伝子治療薬も
ただ、CAR-T細胞療法以外にも今後、超高額な薬剤は相次いで発売される見通しです。米国ではついに、1億円近い値がつく遺伝子治療薬も登場しました。昨年12月に承認された遺伝性網膜疾患治療薬「ラクスターナ」は、両眼に1回投与する費用が9700万円に上ります。
高額薬剤の登場は医療保険財政を揺るがしかねない問題ですが、薬価の引き下げや保険適用の見送りは新薬開発の意欲を削ぐとの懸念もあり、結果的に日本で画期的な新薬が開発されなくなるおそれもあります。
薬価制度の見直しは不可避でしょうが、それだけでは限界があります。医療全体、さらには社会保障全体で制度の再構築が必要です。
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