長期収載品を主力とする製薬会社が、事業構造の転換を急いでいます。大正製薬ホールディングスは、34%を出資する富山化学工業の全株式を売却する一方、OTCではM&Aも視野に事業拡大を図る方針を表明。久光製薬も2021年度までにOTCの売上高比率を50%に引き上げることを目標に掲げました。
今年春には厳しい薬価引き下げルールが導入されるなど、大逆風を受ける長期収載品。事業環境が厳しくなる中、各社の戦略が問われています。
大正製薬HD 富山化学を売却 OTCはM&Aも視野
「薬価制度の抜本改革やヘルスケア領域への他業界からの参入もあり、製薬業界をめぐる環境変化は著しい」。大正製薬ホールディングス(HD)は5月、富士フイルムHDとの資本提携を解消し、34%を出資する医薬品メーカー・富山化学工業の全株式を富士フイルムHDに売却すると発表しました。
同時に、40歳以上の従業員(一部グループ会社を除く)を対象に早期退職を募集することも発表。「急速な環境変化に対応するため、より機動的な経営判断ができる体制を構築する」。大正製薬HDは資本提携の解消と早期退職の募集についてこう説明します。同社が早期退職を行うのは創業以来初めてのことです。
「ゾシン」「クラリス」販売減が打撃に
大正製薬HDの2018年3月期の連結売上高は2801億円(前期比0.1%増)。一般用医薬品(OTC)を中心とするセルフメディケーション事業が好調で、風邪薬「パブシリーズ」や育毛剤「リアップシリーズ」などが堅調な業績を支えました。
一方、医療用医薬品を展開する医薬事業は深刻です。事業の屋台骨だった抗菌薬「ゾシン」「クラリス」は後発医薬品にシェアを奪われ、18年3月期はそれぞれ前期比37.0%減、17.8%減に沈みました。19年3月期は薬価改定の影響でゾシンは50.9%減、クラリスは39.9%減の見通し。薬剤耐性菌対策として政府が進める抗菌薬の適正使用も同社にとっては重石となります。
医薬事業の存在感は低下
19年3月期は、セルフメディケーション事業で1.4%の増収となる一方、医薬事業は14.1%の大幅減収を予想。連結売上高に占める医薬事業の割合は31%(18年3月期は34%)まで縮小し、存在感は確実に低下しています。
大正製薬HDは「セルフメディケーション事業と医薬事業をバランスよく成長させる」とし、医薬事業の縮小にまでは言及していません。ただ、医薬事業のあり方が転換期を迎えていることは確かです。セルフメディケーション事業ではM&Aも視野に海外を伸ばしていく方針を掲げており、OTCにより軸足を移していくことになりそうです。
久光製薬 21年度までにOTCの売上高比率を50%に
大正製薬HDと同じように、主力とする長期収載品の販売減に苦慮するのが久光製薬です。
連結売上高の3分の1にあたる497億円を稼ぐ消炎鎮痛薬「モーラステープ」は、後発品の普及と薬価引き下げの影響で18年2月期は5.7%の減収となりました。医療用医薬品の売上高は前期比4.4%減に沈み、19年2月期も6.1%の減収を予測。「1処方につき原則70枚まで」とする湿布薬の処方制限が導入された16年4月以降は市場も低調です。
売り上げ減のモーラス、世界トップシェアのサロンパス
対照的に好調なのがOTCです。消炎鎮痛剤「サロンパスシリーズ」は継続的な新製品投入などにより国内外で高い伸びが続いています。今年5月には、英市場調査会社ユーロモニターが「サロンパス」を2年連続でOTC消炎鎮痛貼付剤の世界トップシェアブランドに認定。企業としても同じカテゴリで世界シェアトップに認定されました。
17年度にスタートした中期経営計画では、後発品の使用拡大や長期収載品の薬価引き下げ、医薬品の適正使用の強化といった事業環境から「モーラステープなど既存の外用消炎鎮痛貼付剤の売り上げ維持は困難」と分析。16年度に30%だった連結売上高に占めるOTCの割合を、中計最終年度の21年度に50%まで引き上げる目標を掲げました。
中計で設定した21年度の連結売上高目標は1700億円。18年2月期に945億円だった医療用医薬品の売上高は100億円ほど縮小することになります。
「中途半端は生き残れない」
長期収載品に対する逆風は強まるばかりです。
14年度の薬価制度改革では、市場実勢価格に基づく通常の薬価引き下げにプラスして、後発品への置き換え率に応じて改定のたびに1.5~2%ずつ薬価を引き下げる、いわゆる「Z2」が導入。18年度には、後発品の発売から10年たった長期収載品の薬価を後発品と同じか近い水準まで引き下げる、いわゆる「G1」「G2」が設けられました。後発品の使用も広がっており、長期収載品は大幅な売り上げ減を余儀なくされています。
持田製薬や科研製薬も
長期収載品の売り上げ減に頭を悩ませているのは大正製薬HDや久光製薬だけではありません。持田製薬の高脂血症治療薬「エパデール」は19年3月期に146億円(前期比20.2%減)、科研製薬の関節機能改善薬「アルツ」は248億円(12.5%減)を予想。いずれも長期収載品で、両社の主力品です。
武田薬品工業やアステラス製薬、中外製薬などの大手は、一部の長期収載品を他社に売却し、新薬に集中する姿勢を鮮明にしています。持田製薬はバイオシミラーに力を入れ、科研製薬は爪白癬治療薬「クレナフィン」を国内外で拡大させる方針です。
「何に注力するにせよ、中途半端なことをやっていては生き残れない」。こう話す業界関係者は少なくありません。製薬各社には、自社の強みや立ち位置を見極め、将来像を明確にすることがこれまで以上に求められています。