米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、米国のLABA/ICS配合剤の市場。最大のシェアを持つアドエアに後発医薬品が参入し、市場は転換点を迎えています。アナリストが、製品間の患者争奪戦で勝った製品、負けた製品を分析しました。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
40億ドル市場 6製品がシェア争い
長時間作用性β2刺激薬と吸入ステロイドの固定用量配合剤(LABA/ICS FDC)は、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療によく使われる。LABA/ICS FDCの市場規模は大きく、米国での2017年の売り上げは40億ドルを超えた。
このクラスの先発医薬品は、グラクソ・スミスクラインの「アドエア」(サルメテロール/フルチカゾンプロピオン酸エステル)と「Breo」(ビランテロール/フルチカゾンフランカルボン酸エステル、日本製品名・レルベア)、アストラゼネカの「シムビコート」(ホルモテロール/ブデソニド)、メルクの「Dulera」(ホルモテロール/モメタゾン)の4つ。
ここに最近、テバのブランドジェネリック「AirDuo」(サルメテロール/フルチカゾンプロピオン酸エステル)と、AirDuoのオーソライズド・ジェネリックという2つの後発医薬品が発売され、米国ではこれら6製品が熾烈なシェア争いを繰り広げている(ここでのブランドジェネリックとは、先発品と同じ成分を後発品メーカー独自のデバイスで吸入する製品と定義)。
デバイスで差別化
競争が激化する中、各メーカーは売り上げを拡大させようとさまざまな差別化戦略をとっている。
例えば、最新の先発品であるBreoは1日1回服用という利便性が際立っている。アドエア・ディスカス(ディスカスは吸入デバイス)とシムビコートは、より多くの患者獲得を目指して小児喘息の適応を取得した。一部メーカーは、薬剤を装填するデバイスを効果的かつ使いやすいデザインにすることで、医師と患者を取り込もうとしている。
Decision Resources Groupが医師を対象に行った調査によると、彼らはより新しく、進化したデバイスを好む傾向にあった。いずれもアドエア向けの「ディスカス」や「HFA」といった旧式のものより、Breo用ドライパウダーインヘラーであるGSKの「エリプタ」が選ばれるのはその一例だ。
デバイスの優位性をより強固なものにするため、自社の複数の呼吸器関連製品に同じ吸入デバイスを採用するメーカーもある。そうすれば、治療の変更が必要になった場合でも、別の薬剤への移行がスムーズになる。
リベートやディスカウントも活発
一方、LABA/ICS FDC市場ではリベートやディスカウントも活発で、結局のところ、これが競争を左右する最大のポイントとなっている。
多くの保険者は、LABA/ICS FDCを臨床的な特徴で区別することはなく、むしろ費用対効果の大きい製品を選びがちだ。リベートやディスカウントが十分でない先発品は、厳しい制限が課せられたり、治療上の位置付けで不利な扱いを受けたり、フォーミュラリーから締め出されたりして、処方から遠ざけられる。
実際、テバは価格を下げることでシェアと売り上げを伸ばそうとしているが、その値引きはほかの市場では見られないほど大きい(卸購入価格で1パッケージ当たり先発品に対して70%の値引き)。
切り替えで患者を奪った製品は?
こうした状況が、米国で販売中のLABA/ICS FDCの処方にどんな影響を与えているのか掘り下げるため、Decision Resources Groupは製品間の切り替えパターンを分析し、市場で成功している製品と敗れつつある製品を突き止める試みを行った。
Decision Resources Groupのロバストなリアルワールドデータ(RWD)リポジトリに基づく調剤請求記録(2017年11月~2018年2月)から、2018年2月にLABA/ICS FDCを使用し、かつその前の3カ月の間に別のLABA/ICS FDCから切り替えていた患者を調査。そして、それぞれの製品が切り替えで患者を奪ったのか、奪われたのかを解析した。
解析結果によると、テバのサルメテロール/フルチカゾンプロピオン酸エステルの後発品は、使用患者数という面では比較的少なかったものの(2018年2月にLABA/ICS FDCを使用した患者全体の約1%)、発売されているほかの全てのLABA/ICS FDCから切り替え患者を獲得していた。価格が低いことに加え、いくつかのフォーミュラリーで有利な位置付けとなっていること、そして発売からまだ間もないことが原動力となったと言える。
Breoも、テバの後発品を除く全ての他剤から切り替え患者を獲得していた。成功のカギとなったのは、1日1回という利便性、優れたデバイス、そしてGSKによる積極的な販促だろう。
意外だったのは、シムビコートがアドエアとDuleraの両方から患者を奪い、主な競合品であるアドエアに切り替え患者の獲得で勝ったことだ。シムビコートが優勢となったのは、2018年、最大のPBM(薬剤給付管理会社)の1つであるCVSケアマークのフォーミュラリーに返り咲いたおかげだろう(2017年は優先医薬品リストから脱落していた)。
ホルモテロールは作用の発現が速やかで、患者は随時使用が可能な点に魅力を感じてシムビコートに切り替えていると考えられる。米国では、発作時に追加で吸入する「SMART療法」では承認されていないが、一部の医師はこの薬をレスキュー吸入剤としても処方していると述べている。
地域の保険者とアウトカムベースの契約を結ぶことで市場参入の障害を取り除くというアストラゼネカの取り組みも、シムビコートの好調を支えるもう1つの要因かもしれない。
アドエア後発品が市場に与える影響
シムビコートとは対照的に、アドエア ディスカスは、テバの後発品だけでなくDuleraを除く全ての主要な先発品に患者を奪われる残念な結果となった。
アドエアが振るわなかったのは、同剤のAB格付けの後発品が発売されるのを前に、GSKがより新しいLABA/ICS FDCであるBreoに注力したからだと思われる。
Duleraを販売するメルクの呼吸器関連市場での存在は弱まっている。GSKやアストラゼネカのような呼吸器領域での有力企業が展開する製品と、陳腐で平凡と言えるDuleraが競争するのは難しい。
われわれの調査では、Duleraはほかの全てのLABA/ICS FDCの後塵を拝する結果となった。実際、CVSケアマークは今年、Duleraを優先リストから外しており、この薬を使っていた患者はおそらく、ほかの薬剤への切り替えを促された。
AB格付けのアドエア後発品がFDAの承認にこぎつければ、短期間のうちにLABA/ICS FDCの市場に変化が起こるだろう。AB格付けの後発品の発売は、アドエアの売れ行きに打撃となる。ただ、それがほかのLABA/ICS FDCの先発品やテバの後発品に及ぼす影響は、市場参入交渉にも大きく左右されるため、予測は難しい。
(原文公開日:2018年4月26日)
【AnswersNews編集長の目】LABA/ICSの配合剤をめぐっては、日本でも今年、アドエアとシムビコートに後発品が参入するかどうかが注目されています。後発品の参入が可能になる時期は明確ではありませんが、再審査期間は両剤とも終了しており、今年12月にも後発品の収載があるのではないかとみられています。
ただ、後発品の参入が可能になったとしても、実際に参入する企業があるかどうかはわかりません。日本ジェネリック製薬協会は過去の薬価改定をめぐる議論の中で、吸入薬にはデバイスの開発コストがかかるなどとし、薬価が引き下げられれば後発品を出すのが難しくなると主張していました。
一方、日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会はシムビコートの後発品の統一ブランド名を「ブデホル」とすることを決めています。統一ブランド名はメーカーからの依頼に基づいて同学会が検討し、商標登録を行うもの。つまり、シムビコートについては後発品の発売を予定しているメーカーがある、ということになります。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。