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製薬各社が熱視線―なぜ今、アジア? 市場開拓、政府も強力に後押し

更新日

日本の製薬企業が、アジア市場に熱い視線を向けています。ここ数年、事業拠点を新設したり、現地企業と組んだりして事業を強化する動きが活発化。日本政府も、進出を後押しする新組織を官民共同で設立する構想を打ち出しました。国内市場が伸び悩む中、高成長が続くアジア市場を官民で開拓します。

 

参天製薬「20年にはアジアNo.1」

「アジアではプレゼンスを高めており、多分、2020年には(眼科領域で)マーケットシェアNo.1を取れるのではないかと思っている」。2017年度を最終年度とする中期経営計画で、アジア市場への積極展開を掲げる参天製薬。黒川明社長は5月の決算説明会で、自信たっぷりにこう述べました。

 

参天製薬は13年、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域での事業強化を目的に、シンガポールに現地法人を設立。14年にはタイ、マレーシア、フィリピンと相次いで子会社を設立し、製品投入を加速させました。11年度には67億円にすぎなかったアジア地域での売上高は、16年度には237億円まで拡大。17年度は291億円に達する見通しです。

国内製薬会社のアジア売上高(2016年度)

田辺三菱製薬も16年、シンガポールにASEAN地域の事業拠点となる子会社を設立。同年に設立したタイの子会社は、狭心症・高血圧症治療薬「ヘルベッサー」や高血圧症治療薬「タナトリル」の販売を始めました。

 

大日本住友製薬は6月9日、自社創製に抗菌薬メロペネムを東南アジア5カ国(ベトナム、タイ、シンガポール、フィリピン、マレーシア)と香港で販売するため、アジアでヘルスケアサービスを展開するZuelling Pharma社と提携。日本と中国、韓国、台湾を除く地域では従来、導出先の英アストラゼネカが販売を手がけていましたが、16年12月に事業の返還を受けました。多田正世社長は5月の決算会見で「17年度以降の事業にプラスになる」と期待を示しました。

 

14年にタイに現地法人を開いた日医工は、昨夏に買収した米セージェントの製品も投入して市場開拓を図る方針です。大正製薬は昨年、ベトナムの製薬最大手Duoc Hau Giang Pharmaceutical JSC(DHG)と資本業務提携を結び、同社株式の24.5%を取得。DHGの販売網を活用し、自社製品の販売拡大を目指します。

 

ASEAN地域 21年まで年率7%成長

各社がアジア市場の開拓に力を入れるのは、高い成長が見込まれるからです。

 

みずほ銀行が昨年末にまとめたレポートによると、ASEAN地域6カ国(タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン、マレーシア、シンガポール)の医薬品市場は年率7.0%、中国も同6.4%成長すると予測。所得水準の上昇や医療提供体制の整備による医療アクセスの向上と、生活習慣病の増加を背景に高成長が続く見通しで、米国とともに高い成長が期待されています。

グローバル市場の成長予想

一方、日本市場の成長率は年1.4%とみられ、中国やASEANを大きく下回ります。高齢化で需要そのものは拡大していくものの、薬価の引き下げや後発医薬品の使用促進が影響。薬価への圧力は高まっており、日本市場は近い将来、縮小に転じるとの指摘も聞かれるようになってきました。新たな収益源として、成長著しいアジアに目が向くのは当然です。

 

日本では長期収載品となって売り上げが減少している製品でも、こうした国々なら新たな需要が見込めるのも進出の利点です。ASEANなどの新興国は今後も経済発展が見込まれ、さらなる所得水準の上昇が予想されます。発展途上の今、新興国で存在感を高めておくことが、将来的な新薬ビジネスの拡大にもつながります。

 

整ってきた事業環境

事業環境が整ってきたことも、各社のアジア進出を後押ししています。

 

アジア各国では近年、医薬品産業の育成や薬事規制の充実に向けた取り組みが進んでいます。中国やシンガポールは海外から医薬品産業を積極的に誘致。ASEANでは域内の薬事規制の調和を図る取り組みも始まり、中国とともに薬事規制のレベルは向上しつつあります。

 

日本製薬工業協会は2012年から毎年、アジア各国の製薬団体や規制当局が集める「アジア製薬団体連携会議」を開催。各国の制度や取り組みについて相互理解を深めるとともに、薬事規制のあり方などについて議論を重ねています。

 

従来からアジア各国との協力を進めてきた医薬品医療機器総合機構(PMDA)も2016年、「アジア医薬品・医療機器トレーニングセンター」を開設。規制水準の向上を目指し、各国の規制当局の担当者に研修を提供する取り組みを始めました。

 

官民共同で市場開拓

政府も市場開拓を強力に後押しします。

 

政府は6月14日、健康・医療戦略推進本部の会合を開き、官民共同で日本の製薬企業の新興国進出を支援する新組織を設立する方針を示しました。会合に示された資料によると、複数の企業が共同で会社や工場を設立し、製造や物流を行うことが想定されています。

 

アジアなど新興国では、薬事制度や医薬品の製造設備・技術、流通網が未整備な国も多くあります。会合に示された資料では「日本の医薬品産業が新興国市場に展開するためには、新興国の医薬品の自給力の向上、安全対策の管理能力の向上等への期待に応える相互互恵的なアプローチが重要」と指摘。企業単独ではリスクのある新興国進出を後押しするとともに、各国の環境整備や人材育成を支援することで、日本企業の存在感を高める狙いがあると言えます。

 

安倍晋三首相は会合の席上、「新興国の事情や期待も踏まえ、ウィンウィンの形で日本企業が進出できる仕組みを作ることで、日本の医薬品産業のプレゼンスを高めていく」と述べました。

 

新興国市場には欧米の製薬大手も攻勢を強めています。官民で市場開拓を目指す日本勢は確固たる存在感を示すことができるのでしょうか。成長市場をめぐる争いは激しさを増します。

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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