国内外で急速に伸びる抗がん剤市場。米クインタイルズIMSによると、日米欧など主要14カ国の市場は2011~16年の5年間で年平均10.9%増加。21年まで最大年12%成長すると予測されています。
高成長が見込める数少ない領域だけに、国内の製薬大手もこぞって力を入れています。各社の最近の動向をまとめました。
がん領域売上高 武田・アステラスが3000億円超
まずは直近の決算から各社のがん領域の事業を眺めてみます。
「2025年にがん領域で世界トップ10入り」を目標に掲げる武田薬品工業は、2016年度のがん領域の売上高が、為替などの影響を除く実質ベースで3383億円(前年度比7.5%増)に達しました。
これまで同社のがん領域を牽引してきた多発性骨髄腫治療薬「ベルケイド」は米国での特許切れで2桁のマイナスとなったものの、世界初となる経口プロテアソーム阻害薬の多発性骨髄腫治療薬「ニンラーロ」の立ち上がりが順調です。同剤は日本でも今年5月に発売。薬価ベースでピーク時に164億円の売り上げを見込んでいます。
アステラス製薬も、がん領域の売上高が3000億円を超えています。16年度は3077億円で4.1%の減収でしたが、為替の影響を除けば6%の増収となりました。がん領域の拡大を先導するのは、世界売上高が2500億円規模となった前立腺がん治療薬「XTANDI/イクスタンジ」。同剤発売前の11年度は475億円に過ぎなかった同社のがん領域は、この5年で6.5倍に拡大しました。
中外「アレセンサ」好調 小野は「オプジーボ」で存在感
がん領域で国内トップシェアの中外製薬は、売上高のちょうど半分にあたる2365億円をがん領域で稼ぎました。売り上げの大部分を親会社のスイス・ロシュからの導入品が占める中、自社創製のALK阻害薬「アレセンサ」が好調。競合する「ザーコリ」(ファイザー)との直接比較試験「ALEX」で主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、今後の売上拡大に期待がかかります。
大塚ホールディングスは、次世代の主力品と位置付ける「ロンサーフ」が世界で300億円を突破。小野薬品工業は免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が国内でブロックバスターに成長し、がん領域での存在感を一気に高めました。
世界市場 21年に16兆超え予測も…国内各社が集中投資
がん領域の市場は国内外ともに拡大を続けています。
米クインタイルズIMSによると、がん治療薬に対する全世界の支出は2016年に1130億ドル(約12.3兆円)に達し、21年には1470億ドル(約16兆円)を超えると予測。富士経済の予測では、国内の抗がん剤市場も14年の8523億円から23年には1兆5438億円(14年比81.1%増)に拡大する見通しです。
高成長が見込める数少ない領域だけに、国内各社もがん領域に投資を集中させています。
武田薬品工業は今年2月、52億ドル(当時のレートで約6000億円)を投じて抗がん剤を手がける米アリアド社を買収。武田としては、11年のスイス・ナイコメッド(約1兆1000億円)、08年の米ミレニアム(約9000億円)に次ぐ3番目の規模の大型案件となりました。
武田のがん領域の製品ラインナップは、「ベルケイド」や「アドセトリス」など血液がんが中心でした。アリアド買収では白血病治療薬「アイクルシグ」やALK阻害薬ブリガチニブを獲得。血液がん領域をさらに強化するとともに、固形がん領域の転換も本格化させます。ブリガチニブは5月に米国で承認を取得。武田は、ピーク時に世界で10億ドル超の売り上げを期待しています。
大日本住友製薬も今年1月、白血病治療薬を開発する米トレロ社を買収。12年には、がん領域への参入を狙って米ボストン・バイオ・メディカルを買収し、がん幹細胞を叩くとされる新薬候補「BBI608」「BBI503」を獲得しました。特許切れが近づく抗精神病薬「ラツーダ」に替わる次期主力品として開発を急いでいます。
第一三共は、16~22年度の中期経営計画で「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を中長期ビジョンに掲げました。中計期間中にがん事業を本格的に立ち上げ、最終年度の売上目標は400億円。25年度には3000億円規模まで拡大させたい考えで、治験薬の生産能力を増強して開発を加速させます。
欧米大手との差は歴然
日本企業のがん事業がそれなりの規模に育ってきたとはいえ、欧米大手とは大きな差があります。
がん領域の売上高で世界首位のスイス・ロシュは、16年にがん領域だけで2兆7000億円余りを売り上げました。スイス・ノバルティスも1兆3000億円に達しており、米ブリストル・マイヤーズスクイブや米ジョンソン&ジョンソンも5000億円を超えています。
「確かに多くの企業が参画して激しい競争がなされているが、患者はまだ満足していない」。第一三共の中山譲治社長(当時)は2016年3月、がん領域への本格参入を掲げた中期経営計画の説明会でこう強調。「そういう(患者が満足していない)スペースが非常に大きく、かつ自信を持っている先端技術の応用ができる分野としては魅力的。活躍できる分野はある」と話しました。
数少ない成長分野をめぐる競争は、世界レベルで激しさを増しています。日本企業のパイプラインにも多くの品目が開発後期段階に控えており、ファースト・イン・クラス、ベスト・イン・クラスとなる可能性があるものも少なくありません。日本企業が欧米大手と伍していくには、こうした品目の開発をスピーディーに進められるかがカギとなります。M&Aやアライアンスを通じたパイプラインの強化も欠かすことはできず、がん領域への投資は今後も膨らんでいくことになりそうです。