第5回 推論統計が果たす役割とは? 客観性を支える推論統計
[ 2014年03月05日(水) ]
治験では、全人類を調査するのが理想ですが、現実的ではありません。 そのため、限られた患者数・症例数から、いかに患者全体の姿を見いだすかがポイントになっています。 そして、それは限られたデータからいかに普遍的な結論を引き出すかという、推論統計の考え方によって支えられています。 前回はこのことを説明しましたが、今回は推論統計について、もう少し詳しく説明したいと思います。 研究者は、ある薬が有効かどうかを推論し予測を立て、それを確かめるために、統計学を利用します。 推論統計が活躍するわけですが、ここで、みなさんがよくご存じの新薬開発のプロセスを概観してみましょう。 製薬企業の開発本部では、日々、努力を重ねて、植物や化学物質、微生物などの中から医薬品になりうる物質を探します。 ところでさくらさん、発見されたたくさんの物質の中から医薬品になるものが発見される可能性はどれぐらいの確率かご存知ですか?
『ええと、たしか「1万分の1」といわれていたような…』
正解!さすがですね。
新薬開発にあたって、有効性・安全性についての非臨床試験は、まず、動物(ネズミ、ウサギ、イヌなど)を使って行われます。 しかし、医薬品として認められるためには、やはり、ヒトを対象にした有効性・安全性が証明されなければなりません。 これを証明する試験を「臨床試験」といい、厚生労働省(国)から承認をもらうための「臨床試験」を「治験」ということは、以前、述べたとおりです。
この治験は、第1相~第3相に分けられ、その目的に応じて内容、被験者数も変わってきます。 そして、ここで得られた治験のデータ等をもとに厚生労働省(国)における厳しい審査を経て、医薬品として初めて市場に出ることになります。
医薬品が誕生するまでには、長い道のりがあるわけですが、その過程で臨床開発モニター=CRAのみなさんは、治験がGCPの規則や「治験実施計画書」に従って実施・記録・報告されているかどうかなどを、客観的な立場で確認することが求められています。
客観性をいかに保つかということは、治験や臨床試験で大事なことです。 そして、みなさんとともにそれを支えているのが、医学統計であり、推論統計の考え方であると言えるのです。
『統計って、私たちモニターと似た役割も果たしている存在だったんですね。なんだか、親近感がわいてきましたよ。』
そうですか!!それはよかったです。
さて、話を進めますが、ある製薬企業の研究者が新しい薬を開発したとしましょう。これも理想の話です。
彼は、この薬がこれまでの薬よりもはるかに効果があると推論し予測しています。 そして、自分の推論と予測が正しいといえるかどうかを追求し確認するために、臨床試験を行うことにします。 その場合、全人類を対象に調査はできないので、ある特定の患者群を対象に研究を進めていくことになるでしょう。 その限られた患者群で得られた結果が人類全体に適応できるかどうかを証明しようとするのです。
『わかりました、推論統計によって証明するんですね。』
その通り!
新薬の開発者は、その薬が画期的な効果を持つことを予測し、期待しています。 開発者が、その薬が画期的な効果を持つことを期待してしまうのは当然です。 コストも名誉もかかっていますし、人間ですから。
しかし、もし、期待しているからといって、その新薬の効果が出やすい患者を選んで研究を進めたりすれば、その研究の結果の信頼性は当然低くなってしまいます。 逆に、本当に効果がある新薬なのに、客観性が低いために疑われてしまうかもしれません。
推論統計が正しいものでなければ、客観性は失われ、薬の効果を証明することはできません。 推論統計によって、客観性を保つことの重要性をおわかりいただけたでしょうか。
『はい。推論統計は、治験に欠かせないものなんですね。』
そうです。
さて、突然ですが、次回からは、統計に関わる最低限の基礎用語をしっかりと身につけていくことにします。 もちろん、数式を覚える必要はありません。ただ、さまざまなデータの持つ意味を理解することは大切です…。 そのために最低限の基礎用語をマスターしていただきたいのです。
『まさか、一気に難しい内容になったりしないですよね…』
大丈夫ですよ。 頭を悩ませるような難しいことではないことは、次回以降を読んでいただければ理解していただけますので、楽しみにしてお待ちください。
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