第22回 バラツキとバイアスをマスターしよう(3) ~ランダム化とマスク化
[ 2015年01月15日(木) ]
研究者の人たちは、調査対象をどのようにして選定しているのでしょうか? これまでの説明で、標本となる患者さんを集めるのが非常に慎重さを要求され、かつ、大変な作業であることがわかってもらえたと思います。
しかしながら、研究者には、まだまだやらなければいけないことがあります。 前回の最後に、肥満症治療薬Aの例で、研究者が患者さんをバイアスがかからないように集めただけではダメだということを言いました。
今回は、それはどうしてなのか、そして、何をしなければいけないのか、説明していくことにしましょう。 図3を見てください。
調査するグループは2つに分かれています。 肥満症治療薬Aを実際に投与するグループと、プラセボを投与するグループです。 せっかく母集団をしっかりと代表する標本を抽出できても、比較する2つのグループの構成が偏っていたら、きちんとした比較ができません。
ここでも、選択バイアスがかかる可能性があるのです。 どの患者に、実薬を投与し、どの患者にプラセボを投与するか? 正直なところ、母集団と標本の際の選択バイアスについては、臨床試験の参加にはインフォームドコンセントが義務付けられていますので、患者さんの了承を得る必要がある点で、すでにある程度のバイアスがかかってしまっているともいえます。
さらに、実験に参加できる年齢層が限られることもあり(たとえば、実年層の肥満症患者さんがいたとしても、仕事が忙しくてなかなか研究の対象になりにくかったりします)、ある程度の選択バイアスは避けられないのが現状です。 だからこそ、このグループ割付に選択バイアスが入らないように、研究者たちはいろいろと苦労をするのです。
さて、さくらさん、研究者たちはどのようにグループ割付をすると思いますか?
『う~ん、ランダムに割り付ければいいんじゃないでしょうか。』
おお、鋭い! その通り! 研究者たちは、ここで選択バイアスが入らないように、ランダムに処置を割り付けます。 要するに、自分にとって都合のいい患者を選択してしまわないように、確率で割り振ってしまうのです。 この作業をランダム化(無作為化)と呼んでいます。
確率で割り付けるということは、たとえば、サイコロを振って偶数が出たら実薬を、奇数が出たらプラセボをというふうに決めるという意味です。一見するとデタラメな感じもしますが、実際は、どの患者さんにも平等なチャンスが与えられているということを保証するための方法なのです。
もうひとつ、大事なことがあります。 研究者が、事前に、どの患者に実薬を割り付けたかプラセボを割り付けたかを知ってしまうと、判断に先入観が生じる可能性が出てきます。 これは、観察者バイアスが生じる原因となってしまいます。
そこで、観察者バイアスを防ぐための方法として、マスク化(盲検化)という方法がとられています。 CRAの皆さんなら、二重盲検という言葉をなんとなく耳にしたことがあるのではないでしょうか。
最近では、盲検という言葉は視覚障害者に対して差しさわりのある言葉であるため、マスク化という言葉を使うようになりましたが、この2つは同じものです。 普通、患者には知らせないけど医師は知っているものを一重マスク化、そして、患者も医師も知らないものを二重マスク化と呼んでいます。
『母集団をしっかりと代表する標本抽出、比較する2つのグループを等質にするために行うランダム化、観察者バイアスをなくすためのマスク化…。なんか、いろいろと出てきて、混乱してきそうです…。』
そうですか? でも、しっかり覚えてくれていますね!!
『ええ、まぁ。少しは、統計の考え方にも慣れてきた気がしますし。』
それはよかった。 さくらさんがまとめてくれたように、バラツキとバイアスにはいろいろあって、研究者たちは、バラツキとバイアスを排除するためにさまざまな努力をしていることを垣間見ることができたと思います。
これらのバイアスを排除する処理は、その臨床試験の結果が信頼できるもの足りえるかを保証する大事な下準備です。 その処理がどのように行われたかということの重要性はCRAの皆さんは日頃の業務でよく知っていることだと思いますが、これには統計学が大きく関わっていたことをわかっていただけたでしょうか?
『はい! これまで以上に、統計学が身近なものに思えてきました。』
おお、そうですか! これまでに学んだ統計学のキホンを押さえながら、引き続きモニターの仕事に励んでくださいね!
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