第21回 バラツキとバイアスをマスターしよう(2) ~バラツキよりバイアスに注意すべし!!
[ 2015年01月05日(月) ]
研究者たちは、調査対象をどのように選定しているのでしょうか?
前回に引き続き、このことについて、説明してくことにします。
おさらいになりますが、CRAの皆さんが携わっている治験は、正しい計画、正しい手順の下に実施されて初めて、患者さんの役に立つことができます。
そのため、研究者たちは、バラツキやバイアスが出ないように努力しています。
バラツキは調査する数を増やし、その平均をとることでほぼ解決される問題です。
一方で、バラツキよりも注意しなければいけないのがバイアスで、選択のバイアスと観察者バイアスといった種類があります。
今回は、これらのバイアスになぜ注意が必要なのか、詳しく学んでいくことにしましょう。
『はい!』
お、さくらさん、いつも以上に元気がいいですね。
『私たちモニターにとっても、バイアスは注意しなければならない大切なことですから!』
おお、頼もしいですね。
では、図1を見てください。これは、真実の値に対するバラツキとバイアスの関係の4つの状態を示したものです。
①が理想的な状態です。
②はバイアスが小さくバラツキが大きい状態ですが、真実の値は中心にきています。
③はバイアスが大きくバラツキが小さい状態ですが、分布は正常な形をしているものの真実の値からすっかりずれ込んでしまっているのがわかります。
④も③と同様で、真実の値から外れてしまっています。
このように、バラツキと異なりバイアスがかかっていると、一貫して真実とずれた結果が出てきてしまいます。
「一貫して」ということは、正常な分布を描いてしまうため、研究者が結果の誤りに気づかない可能性があるということなのです。
『なるほど、まずは、バイアスに注意せよということですね。』
そうです。
そして、バイアスは大きくは2つに分けられます。
データを収集する前のバイアスとデータを収集した後のバイアスです。
前者の代表的なものが選択のバイアスで、後者の代表的なものが観察者バイアスといえます。
では、前回もお話した肥満症治療薬Aの例を再び見てみましょう(図2)。
まず、データを集める前の段階ですから、ここで大事なことは、選択バイアスが入らないようにすることです。
肥満症治療薬Aの例の研究対象とする母集団を、BMI≧25kg/m2の「肥満症患者全体」と考えることにします。
ここで、研究者は自分の研究に都合のよさそうな患者を選択したりしないように、十分に気を配ってサンプリングを行うわけです。
たとえば、肥満度(BMI 値)が非常に高い患者さんばかりで標本が構成されていた場合、治療効果が実際よりも大きく出てしまうかもしれません。
実際には、まず研究対象となる条件を確定し、その条件に合った患者さんをえり好みしないで連続的にすべて選択するのが通例です。
もちろん、実際の臨床試験を行う際には、標本の選択以外にも、さまざまなことを考慮しなければなりません。
肥満は日々の食習慣や運動など生活習慣が大きく関係する疾患です。
たとえば、患者が病院で提供されるバランスのとれた食事を摂ることで、自然と減量効果が出てしまうかもしれません。
そうすると、薬の効果によるものかどうか判断ができなくなってしまいます。
『はい。年齢によって基礎代謝量も違ってくるでしょうし、男女の性差もありますよね。』
そうですね。また、肥満症は糖尿病や脂質代謝異常など合併症も多い病気です。対象となる患者の背景が異なっていると、これもバイアスになってしまいます。
こういったさまざまなことを考慮したうえで、バイアスが入らないように心がけるのです。
標本となる患者さんを集めるだけでも、ひじょうに大変な作業が求められているのです。
『ほんとに大変ですね。』
はい。
しかし、この肥満症治療薬Aの研究者が計画する臨床試験では、ただ患者さんをバイアスがかからないように集めただけではダメなのです。
『え~、どうしてですか!? 教えてください!』
それはですね……と今教えたいところですが、今回はここまで。なぜバイアスがかからないように集めただけではいけないのかについては、次回、説明することにしましょう。