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第20回 バラツキとバイアスをマスターしよう(1) ~バラツキとバイアスとは?

[ 2014年12月15日(月) ]

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前回、帰無仮説と対立仮説の概念を知ることで、研究者が調査研究を始めるにあたって、自分の研究の目的をどのように明確にするのかわかってもらえたかと思います。 今回からは、研究者が調査対象をどのように選定していくのかを説明していくことにします。 さて、さくらさん。 バラツキとバイアスを覚えていますでしょうか?

『ええっと、研究者の人たちは、公正な結果を出すために、バラツキやバイアスが出ないように努力しているんですよね……。』

その通り! 「母集団と標本」についての解説(第8回)で、研究者が公正な結果を出すために、バラツキやバイアスが出ないように努力していることを紹介しましたね。 バラツキはデータを収集する際に必ず生じるものですから、バラツキが小さいに越したことはありませんが、根本的な問題にはなりません。
しかし、研究者も人間ですから、自分の立てた仮説に有利な結果が出るような標本を選んでしまうかもしれませんし、否定するようなデータは排除したいと思ってしまうかもしれません。 バイアスはこうした人為的なものや、その他の理由により生じた偏りのことを指します。

ところで、皆さんの中には、バラツキとバイアスは少ない方がよいというのはわかるけれど、イマイチ正体が不明だと思っている人もいるかもしれません。 バラツキとバイアスが具体的にどういうものなのか、そして、バラツキとバイアスはどう違うのかを確認していくことにしましょう。 たとえどんな薬であっても、投与したすべての患者さんに、まったく同じ結果が出ることはまずありえません。 よく効く人もいるでしょうし、効いたか効かないかわからない人、まったく効果がみられない人もいるかもしれません。 これは、患者さんには個人差があり、薬の効果にバラツキがあるからです。
このように、なかなか同じ結果が得られない状況をバラツキがあるといいます。しかし、調査する数を増やし、その平均をとることでバラツキはほぼ解決されます。

一方、バイアスとはどういうものでしょうか? たとえば、データを収集する前に生じるバイアスには次のようなものがあります。 あくまで、実際の臨床試験を行う際の事情とは異なる架空の話ですが、肥満症治療薬Aの効果を検証する研究を例にしましょう。 メタボリックシンドロームの診断基準は広く浸透してきており、ウエストサイズを調査することが多くなってきていますが、肥満症とメタボリックシンドロームとは、細かい点では少し違います。 肥満症は病気ですが、メタボリックシンドロームは必ずしも病気ではなく、「病気の予備軍」という状態のようです。 ここでは、最も信頼できる肥満の計算方法として世界的に利用されているBMI(body mass index)という数値をベースに考えることにします。

ちなみに、BMIは、体重(kg)を身長(m)で2回割った数値で、BMIが22にあたる体重が標準体重で、25以上だと「肥満」とされています。 そこで、この肥満症治療薬Aの研究の対象となる母集団は、BMI≧25kg/m2の肥満症患者全体と考えられますね。

では、さくらさん、もし、この研究対象者が肥満症じゃない人々で構成されていたらどうなります?

『もし、もともと痩せている人がいたとしたら、薬の効果がわかりませんねぇ。』

そうですね。 研究対象者が肥満症ではない人間で構成されていたら、肥満症治療薬Aの効果を正しく評価することはできません。 標本が母集団をしっかり代表していないことになります。

このように、研究対象に選定された標本が母集団を代表していない場合も、バイアスの例のひとつです。 これを、標本を選択する際に生じるバイアスということで、選択のバイアスと呼んでいます。

また、データを収集した後に生じるバイアスもあります。 研究者は、自分の考えている仮説が正しいことを望んでいます。 肥満症治療薬Aの研究者も、自分が開発している肥満症治療薬Aが肥満症の治療に効果があることを望んでいるはずです。 研究者も人間ですから、もしかすると、自分の立てた仮説に有利な結果が出るように、一貫して不利なデータを除外してしまうかもしれません。 データの観察者の一貫した過少報告や過大報告によって、正確なデータが得られなくなってしまいます。 このようなバイアスのことを観察者バイアスと呼んでいます。

『それでは困りますね。』

そうです。 治験は、正しい計画、正しい手順の下に実施されて初めて、患者さんの役に立つことができます。 バイアスは、CRAの皆さんとしても、見逃せないものでしょう。 選択者バイアス、観察者バイアスともに、注意が必要なものです。 次回は、このことについて、さらに詳しく説明することにしましょう。

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