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第18回 帰無仮説と対立仮説を知ろう(1) ~帰無仮説と対立仮説ってなにもの?

[ 2014年11月17日(月) ]

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今回は、前回に続いて、統計の基礎用語や概念が、臨床研究デザインにおいて、どのように生かされているのかを紹介します。 研究者たちは、どのように正確なデータを集める準備=研究のデザインをしているのでしょうか。 さっそくですが、さくらさんは、帰無仮説と対立仮説という言葉を聞いたことがありますか?

『キムカセツとタイリツカセツ。学生時代に統計を学んだときに出てきたような。無に帰る仮説と、対立する仮説……なんだか謎めいていますね。』

ええ。この2つの正体はのちほど解説しますので、とりあえず先に進むとしましょう。 世の中には、さまざまな研究をしている人がいて、研究者たちは皆、それぞれの研究対象を持っています。 たとえば、がん治療の研究ひとつとっても、がんの早期発見のための新しい診断や検査手法を研究している人もいれば、外科的な技法を研究している人、抗がん剤の研究に日夜没頭している人、末期患者の疼痛管理を研究している人とさまざまです。 そんな研究者の方々に共通していることがひとつあります。

それは、研究対象に対しての自分なりの仮説を、実験や調査で確かめなければならないということです。 ひとりよがりの意見を発表しても、誰も評価してはくれません。 万人が納得できるような根拠(エビデンス)を得ることが必要で、そのために統計学を利用しています。 そして、研究者は調査研究を始める前に、まず、自分の研究の目的を明確にしなければなりません。 推論統計を用いて何かを証明するためには、おもしろい考え方をします。
このおもしろい考え方というのが、帰無仮説と対立仮説です。 その考え方をわかりやすくするために、少しだけ脱線することにしましょう。

新人CRAのさくらさん、外回りは大変でしょうけど、たま~に、サボっちゃうときとかありませんか?

『そ、そんなことありませんよ!』

ははは、それは失礼しました。 では、たとえ話をしていくことにしますね。 新人CRAとして働いているA君が、病院訪問を終えて帰社すると、上司に呼びつけられたようです。 どうやら、上司は「今日サボっていたんじゃないのか?」と疑っている様子。 本当にサボっていたならドキッとするところですが、まじめな方なら、しっかりと誤解を解いておきたいところですね。

『そうですね。さっきはドキッとしました。い、いや、ご、誤解を解きたいですね…。』

さくらさん、大丈夫ですか……? この上司は「A君がサボっていた」という仮説の元にA君を呼びつけているわけですが、ここで質問です。 この上司の「A君がサボっていた」という仮説を証明することと、否定することのどちらが簡単だと思いますか? 実際の読者の皆さんも、考えてみてください。

『うーん。本当にサボっていないのなら、否定するのは簡単そうですけどね。部長がA君に監視をつけていたなら話は別ですけど。』

その通り。 本当にサボっていなかったのなら、答えは「否定する方が簡単」なんです。 上司がA君のサボタージュを証明するためには、どこでどうサボっていたのか、その証拠を一つひとつ固めていかなければならないことになります。 しかし、「A 君がサボっていた」という上司の仮説を否定するためには、しっかりとした反例がひとつあればよいのです。 実際にA君は、今日訪問したドクターと上司の前で連絡を取って、自分がサボっていないことを証明し誤解を解いたようです。

この例で重要なことは、一般的に言って、ある事項を証明するより否定する方が簡単だということです。 A君がサボっていたことを証明するには、一日中監視でもつけなければできませんが、否定するには先生と面談した事実がひとつあれば十分だからです。

統計学の考え方では、何かを証明しようとするときに、まず、自分の主張とは逆の仮説を立てることから始めます。 そして、この命題を統計学的に否定していくのです。

『統計学的に否定していく……。』

そうです。 そして、証明したい命題とは逆の、否定されるべき仮説を帰無仮説と呼んでいます。文字通り、無に帰す、否定されるべき仮説という意味です。 一方、本来証明したい仮説を対立仮説と呼んでいます。 帰無仮説が無事否定されれば、それと裏表の関係にあった、対立仮説が、晴れて立証されることになります。

『しかし、どうしてそんなめんどくさいことを?』

A君の例を思い出してください。 対立仮説をそのまま証明するよりも、帰無仮説を否定した方が、実はずっと楽なのです。 ただ、ここで、ひとつ注意しておかなくてはならないことがあります。

それは、次回、説明することにしましょう。 まずは、対立仮説をそのまま証明するよりも、帰無仮説を否定した方が、簡単だということを覚えておいてください。

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