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第19回 帰無仮説と対立仮説を知ろう(2) ~自分の主張とは逆の仮説を立てる

[ 2014年12月01日(月) ]

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CRAの皆さんが関わっている治験などで、研究者たちはどのように研究のデザインをしているのでしょう。
前回は、研究の目的を明確にするために用いる対立仮説と帰無仮説という考え方について、途中まで説明しました。
今回も、引き続き、対立仮説と帰無仮説を学んでいきましょう。

さくらさん、これらの仮説はどんなものだったか覚えていますか?

『え~と、証明したい命題とは逆の、否定されるべき仮説が帰無仮説。本来証明したい仮説が対立仮説ですよね。』

パーフェクト! すばらしいですね。
統計学の考え方では、何かを証明しようとするときに、まず、本来証明したい自分の主張とは逆の仮説、つまり、帰無仮説を立てることから始めます。
本来証明したい対立仮説をそのまま証明するよりも、帰無仮説を否定するほうが楽だからです。
このことは、前回お話しましたね。

『はい。でも、注意しなくちゃいけないことがあるんですよね。』

そうです。

前回、上司からサボタージュを疑われた新人CRAのA君が、反例をひとつあげて無実を証明したという例を出しました。
A君の場合はこれでよかったのですが、薬物治療など臨床医学の分野では、そうはいきません。
ひとつの反例を見つけただけではダメなのです。

なぜでしょうか?
例を出して解説していきましょう。

前回説明したように、研究者によってさまざまな研究対象がありますが、万人が納得できるような根拠を得ることが必要で、そのために統計学を利用しているという共通点があります。
ここでは、ある研究者が、ある新薬を開発し、推論統計を用いてその効果を確かめていく流れを大まかに見ていくことにしましょう。

ある研究者が、新しい肥満症治療薬Aを開発したとします。
彼は、この肥満症治療薬が肥満症に効果があると確信していますが、それを客観的に証明しなければなりません。
彼が証明したい事柄は、どんなことだと思いますか?

『「新しい肥満症治療薬Aが肥満症に効果がある」ことじゃないですか?』

その通りですね。

彼はここで「新しい肥満症治療薬Aは肥満症に効果がない」という、自分の主張とは逆の帰無仮説を立てます。
その帰無仮説を統計学的に否定することで、自分の本来主張する仮説を証明しようとするのです。

ただ、注意しなければならないのはここからです。
この「新しい肥満症治療薬Aは肥満症に効果がない」という帰無仮説に対し、肥満症治療薬Aを飲んだら効果があったという人が1人いたとしても、帰無仮説を否定する根拠にはなりません。
それは、治療の効果などには、個人差などのバラツキがかならず存在するからです。

それでは、反例を見つけるためにはどうすればいいでしょうか?

『はて?』

医学統計の世界では、反例とみなせるかどうかを確率で判断しています。
極端な例として、この肥満症治療薬の場合、「肥満症治療薬Aを飲んだら効果があった」という人が95%以上いたとしましょう。
これは、「新しい肥満症治療薬Aは効果がない」という帰無仮説が真実であるという可能性が5%未満であることを示しています。

ところで、この95%と5%という数字に見覚えがありませんか?

『正規分布の特徴で出てきた数字ですね。人間は、約95%くらいの確率で起こる物事について「ほぼそうなる」という感覚を持つ…とかいう…。』

その通りです。

正規分布の解説で、人間は95%くらいの確率で起こる物事について「ほぼそうなる」という感覚を持つことができ、5%くらいの確率で起こる物事を、「ほぼありえない」とか「例外」と感じるということを学びました。
この肥満症治療薬の例では「新しい肥満症治療薬Aは効果がない」という帰無仮説が真実であるという可能性が5%未満であれば、5%未満のデータは誤差であると判断し、この帰無仮説は真実ではないと判断するのです。
とりあえず、帰無仮説を立てた研究者は、データを収集・分析し、そのデータが帰無仮説にあっている程度が5%未満であれば、その帰無仮説を「ほぼありえない」ものとして否定することができると考えます。
ちなみに、より精度を求める場合は、5%よりももっと小さい確率で判断することもあります。

こうして、新しい肥満症治療薬Aを開発した研究者は、肥満症治療薬Aの効果を検証するための臨床試験を計画します(図11)。

そして、ここで検証する「新しい肥満症治療薬Aは肥満症に効果がない」という帰無仮説は、言いかえれば「新しい肥満症治療薬Aはプラセボ(偽薬)と差がない」ということになります。

この研究者は、新しい肥満症治療薬Aを投与するグループと、プラセボを投与するグループに分け、減量の効果を得ようとするでしょう。

CRAの皆さんは、よくご存知だと思いますが、このグループの選定が、臨床試験を計画する際の重要なポイントになります。
今回学んだ帰無仮説と対立仮説の考え方は、臨床試験や統計解析の狙いを追っていくうえで重要な概念になります。

研究者が調査研究を始めるに際し、自分の研究の目的を、どのように明確にするのかがわかりました。

次回からは、研究者が調査対象をどのように選定していくのかを見ていくことにしましょう。

 

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