国内外の大手製薬会社の2016年の世界売上高ランキングで、米ファイザーが3年ぶりに世界首位に返り咲きました。
AnswersNewsが製薬大手の業績を集計したところ、5年ぶりの増収となったファイザーが、スイス・ノバルティスを抜いて売上高世界一を奪還。抗がん剤が好調なスイス・ロシュが2位に浮上し、ノバルティスは3位に後退しました。
※2月27日に公開した記事に、独ベーリンガーインゲルハイムと米マイランの業績発表を反映しました(4月18日)。
※4月18日にアップデートした記事に日本企業の業績発表を反映しました(5月18日)。
ファイザー「イブランス」が急成長 ロシュは500億ドルの大台に
集計対象としたのは、2016年12月期の世界売上高が100億ドル超(日本企業は16年12月期または17年3月期の世界売上高1兆円超)の大手製薬会社24社。まずは売上高トップ10を見ていきます。
トップとなったのは、528億2400万ドル(5兆7050億円)を売り上げた米ファイザー。新製品の乳がん治療薬「イブランス」が前年の約3倍となる21億ドル余りに伸びたほか、ホスピーラやメディベーションといった企業買収も業績を押し上げました。「イブランス」は日本では昨年10月に承認申請。17年中の発売が見込まれます。
ファイザーの売上高は前年比8%増で、2011年以来5年ぶりとなる増収を確保。13年にスイス・ノバルティスに奪われた世界首位の座を取り戻しました。
2位は抗がん剤が好調なスイス・ロシュで、売上高は515億8800万ドル(5兆5634億円)と500億ドルの大台に乗せました。抗がん剤「リツキサン」「ハーセプチン」が堅調に推移したほか、同「パージェタ」や関節リウマチ治療薬「アクテムラ」が大幅に拡大。抗がん剤「アレセンサ」や、日本では承認中の免疫チェックポイント阻害薬「ティーセントリック」など、最近発売した新製品も貢献しました。
特許切れ響いたノバルティスとアストラゼネカ
3位は前年まで2年連続トップだったノバルティス。多発性硬化症治療薬「ジレニア」や白血病治療薬「タシグナ」が引き続き好調で、乾癬治療薬「コセンティクス」がブロックバスターに成長したものの、白血病治療薬「グリベック」の特許切れが響きました。
5位の英グラクソ・スミスクラインは、HIV領域が前年比37%増と大きく伸び、前年の7位から2ランクアップ。関節リウマチ治療薬「ヒュミラ」の売り上げが160億ドル(1兆7364億円)に達した米アッヴィも、前年10位から1つ順位を上げました。
一方、主力のC型肝炎治療薬「ハーボニー」の需要が米国を中心に一巡した米ギリアド・サイエンシズは前年6位から2ランクダウン。ライバル製品の登場もあり、米国での同剤の売上高は前年から50億ドル以上減少しました。アッヴィに抜かれて10位に下がった英アストラゼネカは、米国で高脂血症治療薬「クレストール」の特許が切れたことが打撃となりました。
「レブラミド」好調のセルジーン 100億ドル突破
トップ10を含む集計対象24社のランキングは次の表の通りです。
前年比で伸びが目立つのが、14位の米ブリストル・マイヤーズスクイブと22位の米セルジーン。ブリストルは免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が前年の4倍近い37億7400万ドル(4076億円)を売り上げたほか、経口抗凝固薬「エリキュース」も前年比80%増と大幅に伸びました。
セルジーンは、多発性骨髄腫治療薬「レブラミド」「ポマリスト」が好調。「レブラミド」の世界売上高は前年比20%増の69億7400万ドル(7532億円)に達しました。経口の乾癬治療薬「オテズラ」もブロックバスターに成長しています。
日本企業では、最大手の武田薬品工業が159億3500万ドル(1兆7321億円)で18位、アステラス製薬が120億6700万ドル(1兆3117億円)で20位となりました。
研究開発費 ロシュが100億ドル超
今回のランキングでは、売上高とともに研究開発費も集計しました。
研究開発費が最も多かったのはロシュ。117億6300万ドル(1兆2685億円)と日本円にして1兆円を超える費用を投じました。スイスフランベースでは前年から20%増加。「ティーセントリック」が複数のがん種で臨床第3相試験に入っており、研究開発投資も活発化しています。
2位は90億3900万ドル(9762億円)でノバルティス、3位は78億7200万ドル(8502億円)でファイザー。米メルクやアッヴィ、アストラゼネカも、国内最大手の武田薬品の倍以上の研究開発費を投じています。
欧米大手 日本の売上高は?
集計対象企業のうち、業績発表資料で日本の売上高を公表した6社を、日本企業の国内医療用医薬品売上高とともにまとめました。
6社のうち日本での売上高が最も多かったのは、37億1100スイスフラン(4082億円)を売り上げたロシュ。スイスフランベースで前年から15%、為替の影響を除くと1%の増収となりました。昨年4月の薬価改定で薬価が大幅に引き下げられた「アバスチン」こそ前年を下回ったものの、「リツキサン」や「パージェタ」「アクテムラ」がスイスフランベースで2桁の伸びとなりました。
2位は27億6400万ドル(2985億円)でメルク、3位は「ハーボニー」「ソバルディ」の2剤で24億7400万ドル(2672億円)を売り上げたギリアド。2桁の減収となった仏サノフィは、抗血小板剤「プラビックス」の特許切れが響き、為替変動の影響を除くと3%の減収となったアストラゼネカも薬価改定の影響を大きく受けました。
2017年もファイザーがトップ維持か
2017年は、ファイザーが売上高520~540億ドルと若干の減収も視野に入れながらほぼ横ばいを予想。ロシュは1桁台前半から半ばの売上高の成長を見込み、ノバルティスは為替変動の影響を除いて売上高はほぼ横ばいと予想しています。為替の変動がないと仮定すると、ファイザーが520億ドルまで売り上げを落とし、ロシュが2%以上の増収となれば、世界首位がまた交代することになる計算です。
一方、英調査会社エバリュエートのレポートでは、処方薬とOTCを合わせた17年の世界売上高は499億ドルでファイザーがトップを維持すると予想。ロシュは425億ドルでノバルティスと並んで2位となる見通しで、4位はサノフィ(399億ドル)、5位は米メルクと米ジョンソン&ジョンソン(357億ドル)と続く予想です。
「トランプ政権」「brexit」「毎年改定」日米欧にリスク
世界の医薬品市場をめぐっては、米国のドナルド・トランプ大統領が承認審査の迅速化や規制緩和を打ち出す一方、薬価の引き下げに繰り返し言及。欧州では英国が単一市場からの強硬離脱を決め、EU市場へのアクセスの確保や欧州医薬品庁(EMA)の移転先に関心が集まっています。
日本でも昨年末、政府が「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」を決定。薬価の毎年改定や、適応拡大に合わせて薬価を随時引き下げるルールが導入されることになりました。
2017年は各社とも堅調に業績が推移しそうですが、日米欧それぞれの先行きに不透明感が漂う中、世界の製薬会社にとっては、こうした変化にどう対応するかが大きな課題となりそうです。
【AnswersNews編集部が製薬会社を分析!】 |
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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