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国内製薬、決算発表にあわせ5社が中計公表…年平均1桁台半ば~後半の売り上げ増計画、手堅い成長見込む

更新日

穴迫励二

国内製薬企業では2025年3月期決算の発表にあわせ、準大手と中堅の5社が新たな中期経営計画を公表しました。国内のみならず、米トランプ政権の関税・薬価政策で海外の事業環境も不透明さを増す中、各社は3~5年先を見据えた経営目標を掲げました。売上高の年平均成長率(CAGR)は1桁台半ば~後半に設定しており、着実に事業を拡大させようとする姿勢が見られます。

 

 

住友は「活動方針」策定、基幹3製品2500億円に

新中計を公表したのは、参天製薬、ツムラ、持田製薬、キッセイ薬品工業の4社。これに加え、経営再建に取り組む住友ファーマが23~27年度の中計を取り下げ、25~27年度の「活動方針」を策定しました。中計とは銘打っていませんが、中期的な経営の方向性が整理されており、4社の中計とあわせて見ていくことにします。

 

計画の期間は、参天とキッセイが29年度までの5年間とし、残る3社は3年間です。最近では、10年後など長期を見据えた「経営ビジョン」や「ありたい姿」を公表する企業が増えています。そうした企業では、中計をそこに向かうステップと位置付けるところも多く、将来の持続的成長に向けた基盤を確立する投資期間とする企業もあります。

 

【各社が中期で掲げる数値目標】〈企業/期間(年度)/数値目標(売上高)/数値目標(営業利益)/数値目標(その他)〉参天製薬/25~29/4000億円/800億円以上*/ROE14%以上 EPS160円以上|〈企業/期間(年度)/数値目標(売上高)/数値目標(営業利益)/数値目標(その他)〉キッセイ薬品工業/25~29/1100億円以上/290億円以上*/PBR1倍超 ROE8%以上 EPS400円以上|〈企業/期間(年度)/数値目標(売上高)/数値目標(営業利益)/数値目標(その他)〉持田製薬/25~27/1200億円/120億円/R&D費120億円|〈企業/期間(年度)/数値目標(売上高)/数値目標(営業利益)/数値目標(その他)〉ツムラ/25~27/2340億円/430億円/ROE8%|〈企業/期間(年度)/数値目標(売上高)/数値目標(営業利益)/数値目標(その他)〉住友ファーマ/25~27/-/250億円以上*/有利子負債2000億円以下 ※参天製薬と住友ファーマはコアベース、キッセイは研究開発費控除前

 

売上高については、住友ファーマを除く4社が目標値を設定しました。参天は24年度の3004億円から29年度に4000億円と、5年間で約1000億円(33%)の拡大を計画。いわゆる準大手としてのポジションを固めます。ツムラも3年間で500億円以上伸ばす計画で、CAGRは5社の中で最大となる8.9%を見込みます。漢方薬を標準的な治療法をとして拡大させるのがテーマで、がんに対する支持療法を重点領域の1つに掲げました。

 

住友ファーマは売り上げ目標を置いていませんが、がんや再生医療といった領域で「今後2~3年に非常に大きなマイルストンが集中している」(木村徹社長)としています。業績回復を牽引する北米の「基幹3製品」は、24年度に1600億円だった売り上げを27年度に2500億円まで拡大させる計画。これらが収益を支える間に、次の成長の芽を育てるシナリオです。

 

参天、海外比率44%→58%に

海外事業を収益拡大の源泉に据えるのは住友だけではありません。参天は海外売上収益比率を24年度の44%から29年度に58%に引き上げる目標を設定。新たに進出する近視と眼瞼下垂の領域で、中国をはじめとするアジア地域や欧州に新薬を投入します。

 

同社は買収を通じて参入した米国事業の不振で23年3月期に多額の減損損失を計上。その年は最終赤字に転落し、米国からは事実上撤退しました。中計にも米国事業は織り込んでいませんが、伊藤毅社長CEOは「世界の眼科市場の成長率(5.5%程度)を上回る成長を実現できる」と見ています。同社は米国再参入の機会をうかがっており、開発中の新薬で有望なものがあれば市場投入を検討する構えです。

 

【参天 29年度の地域別売上収益計画】〈地域別売上収益計画(億円)〉日本:1700 (+47)|EMEA:1000 (+257)|アジア:650 (+349)|中国:650 (+361) ※下段は24年度からの増加額、EMEAは欧州・中東・アフリカ

 

現状では海外事業の実績がない持田も、国内の市場環境の厳しさから進出の必要性が増してきたと判断。昨年4月に新設した「海外事業室」を軸に、核酸医薬の導出によるグローバル開発やバイオマテリアル事業を展開する方針です。ツムラは海外比率が1割程度ですが、27年度売上高2340億円のうち2割強にあたる500億円を中国市場で稼ぐことを計画しています。

 

国内は堅調な推移想定

国内事業については、各社とも大きな伸びは想定していないものの、概ね堅調に推移すると見ています。参天は選定療養と後発医薬品の影響で25年度は減収を予想しますが、新領域の新薬上市で最終年度には24年度比47億円増の1700億円を計画。国内を軸に展開するキッセイは、24年度に639億円だった国内売上高を29年度に805億円に引き上げる目標を掲げました。この間のCAGRは4.7%で、IQVIAが予測する同期間のCAGR1.4%を上回ります。

 

国内市場は薬価制度に左右される面がありますが、24年度改定で不採算品再算定の恩恵を受けたツムラは、25~27年度のCAGRを4.5%と見通します。持田は、将来的に1兆円規模に拡大すると試算する国内バイオシミラー市場で売上高トップを維持するとしています。

 

住友ファーマは既存製品に加え、ヤンセンファーマと販売提携した統合失調症治療薬「ゼプリオン」の収益貢献を見込みます。ただ、同社の今期の国内売り上げは前期998億円から857億円へと減少する予想。27年度には再生・細胞医薬事業を100億円規模に育成させたい考えですが、がん領域の立ち上げ準備もあり雌伏の期間となりそうです。

 

各社とも中期的には手堅い成長を見込んでいますが、営業の組織体制に言及する企業はほとんどありません。ツムラはeプロモーションの拡充を打ち出し、MRと医師の双方向コミュニケーションを「広く深く」展開すると説明。リアルMRは漢方マイスター制度による知識レベルの向上を図るとしています。国内市場が低成長で推移する中、各社の中計には営業戦力を拡充する方針は見られませんでした。

 

キッセイ「研究開発費控除前営業利益率」5ポイント増目標

営業利益は概ね利益率を高める方向にあります。コアベースで設定した参天は800億円とし、現在とほぼ同じ20%の水準を維持します。住友ファーマもコア営業利益を重視し、一時的な要因を除いて250億円以上を安定的に確保する計画。24年度末時点で3054億円ある有利子負債は、27年度までに2000億円以下への削減を目指します。財務面で厳しい状況が続く中、フリーキャッシュフローの安定的な黒字化が不可欠です。

 

キッセイは「研究開発費控除前」で営業利益目標を設定。営業利益率を5ポイント程度上昇させ、最終年度に26%とします。24年度は営業利益58億円、研究開発費は129億円でした。創薬研究は強みである低分子創薬にフォーカス。製品構成は希少疾患・難病領域を全体の3分の1程度に増やし、泌尿器との2本柱とします。

 

【キッセイ薬品 中計期間中に発売を目指す新薬】〈領域/一般名/予定適応症/国内推定患者数〉婦人科/リンザゴリクス/子宮筋腫/約350万~700万人|婦人科/リンザゴリクス/子宮内膜症/約134万~268万人|希少疾患・難病/クレチチモゲン/高リスク/低リスク骨髄異形成症候群/約7000人|希少疾患・難病/ロバチレリン/脊髄小脳変性症/約3万7000人|希少疾患・難病/オルタシデニブ/急性骨髄性白血病/約240~360人 ※キッセイ薬品の中計説明資料をもとに作成

 

フルベースの営業利益率を10%に引き上げることを目標に掲げる持田は、営業利益と同額を研究開発に投資する方針。ツムラは、不採算品再算定で営業利益が倍増した24年度と比べると27年度の利益率は低下しますが、18%と比較的高い水準を確保します。

 

参天、キッセイ、ツムラはROEも目標に

参天とキッセイ、ツムラの3社は、売上高や営業利益のほか、ROE(自己資本利益率)も数値目標に掲げています。参天は最終年度に14%以上を目指しますが、キッセイとツムラはともに8%で、日本企業の平均とされる9~10%より低い設定です。ただ両社とも30年度以降は10%以上としたい考えで、そこに向けて資本効率の向上を目指します。

 

キッセイはPBR(株価純資産倍率)を「早期に1倍超を実現する」ことも打ち出しました。PBRは東京証券取引所が1倍割れの企業に改善要請を出して注目されましたが、キッセイは24年度末時点で0.79倍にとどまっており、資本収益性の向上に取り組みます。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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