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主要製薬8社、24年度の国内事業は6%減収…塩野義や住友が2桁減、低成長下でも明暗

更新日

穴迫励二

主要製薬企業8社の2025年3月期決算はグローバル製品の拡大で増収増益となりましたが、国内市場に目を向けると停滞が続いています。8社の国内売上収益は前期比6.0%減となり、今期予想にも勢いが感じられません。大手・準大手は国内事業をどう位置付けていくのでしょうか。

 

 

増収はマンジャロ好調の田辺三菱のみ

8社の国内の売上収益は計2兆1800億円。売上収益全体に占める割合は19.9%と2割を切りました。増収となったのは田辺三菱製薬だけで、塩野義製薬と住友ファーマは2桁減。低迷の背景には薬価改定など制度的な要因もありますが、低成長市場でも新薬の投入や販売によって明暗が分かれています。

 

【主要製薬会社8社 国内事業の売上収益】 〈社名/25年3月期/伸び率/26年3月期予想/伸び率/単位:百万円、%〉|第一三共/476,900/▲ 8.1/463,500/▲ 2.8|武田薬品工業/418,500/▲ 7.4/ー/ー|田辺三菱製薬/329,800/3.1/ー/ー|小野薬品工業/295,247/▲ 0.4/ー/ー|アステラス製薬/267,000/▲ 1.2/285,000/6.7|エーザイ/193,800/▲ 0.2/202,500/4.5|住友ファーマ/99,800/▲ 12.9/85,700/▲ 14.1|塩野義製薬/98,800/34.6/183,000/85.5|計/2,179,847/▲ 6.0/ー/ー|各社の決算発表資料をもとに集計

 

田辺三菱はGIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」が急成長。売上収益は薬価ベース407億円で、発売直後から限定出荷を余儀なくされた前期の78億円から大幅増となりました。納入施設数は前期から95%増とほぼ倍増しています。中医協に提出したピーク時売上高予想は発売10年度目に367億円で、2年度目で早くも上回りました。第4四半期の売上収益は154億円に達しており、仮にそのレベルで推移したとしても今期は600億円を超えます。

 

4月には同じ成分(チルゼパチド)の肥満症治療薬「ゼップバウンド」が、マンジャロとまったく同じ6規格で発売されました。同薬には最適使用ガイドラインが作成され、処方に厳しいしばりがかかっています。これがマンジャロの処方にどう影響するかも今後の注目点の1つ。美容目的の不適正な使用も懸念されますが、同社は「実態は読み切れない」としています。

 

田辺三菱は9月までに米投資ファンドのベイン・キャピタルの傘下に入る予定。今後、製品売上高など決算情報をどこまで開示するかは現時点で未定です。

 

マンジャロ四半期ごとの売上収益

 

レケンビは計画上回る

エーザイは、実質的な発売初年度となったアルツハイマー病治療剤「レケンビ」が127億円を売り上げ、期初予想の100億円を上回る順調な滑り出しを見せました。四半期ごとに見ると第3四半期は41億円、第4四半期は44億円と伸びが鈍化しているように見えますが、年末の需要増の反動や営業日数によるもので、足元ではすでに「月20億円レベル」(内藤晴夫CEO)に達しています。需要の拡大期に入ったとの認識で、25年度は前期比88%増の240億円を計画しています。

 

昨年11月には日本イーライリリーが「ケサンラ」を発売しましたが、エーザイは「影響は限局的」と分析。レケンビの処方間隔が2週間とケサンラの4週間より短いことについても「(患者の)外出頻度が高いほど認知機能が保たれる」とするなど、競争優位を強調しました。

 

レケンビ四半期ごとの国内売上収益

 

第一三共の国内売上収益は4769億円で主要8社では最大。後発医薬品子会社・第一三共エスファをクオールに売却し、前期にあった830億円の売り上げがなくなったことで8.1%減となりましたが、それを除くと増収となります。発売から5年を経過した抗がん剤「エンハーツ」が29.7%増の310億円に成長し、今期も412億円まで伸ばす計画。MSDから販売移管された不眠症治療薬「ベルソムラ」も加わりました。抗凝固薬「リクシアナ」は増収を続けており、1330億円で同社の国内トップ製品になりました。

 

同社は25年度が最終年度となる現在の中期経営計画で、がん領域を除く国内売上収益も増加させたいとしてきました。数字上は横ばい傾向にあり、25年度の予想も2.8%減にとどまりますが、実質的にはエスファ売却による減収分をカバーしながら成長を遂げそうです。

 

塩野義と住友、1000億円割れ

減収となった企業は、既存製品の成長に左右されました。塩野義製薬は「ゾコーバ」など感染症薬の減収に加え、昨年10月からの長期収載品への選定療養導入が「考えていたより大きかった」(手代木功社長)こともあり、34.6%減の988億円と1000億円割れ。感染症薬は新型コロナとインフルエンザのどちらかの流行で安定的に収益化できるとしていますが、製品ラインアップに乏しいのが現実です。

 

同社は今月8日、鳥居薬品を含む日本たばこ産業(JT)の医薬事業を買収すると発表。手代木氏は鳥居の主力品であるアレルゲン領域の「シダキュア」「ミティキュア」について、ファンペップと花粉症ワクチンを共同開発していることに言及しながら「花粉症は非常に大きなポテンシャルがある。その領域に加わることでさらに(事業を)拡大できる」と話しました。

 

買収によって25年度の国内事業は85.5%増の1830億円まで一気に拡大する見込み。両社の製品はオーバーラップしておらず、シナジーが期待されるとしています。

 

住友ファーマは、北米で展開する基幹製品が成長軌道に乗り黒字化を達成しましたが、国内事業は依然として厳しい状況です。24年度は12.9%減の998億円と、塩野義同様に大台を割り込みました。25年度も857億円とさらに減少の予想。後発品が参入した糖尿病治療薬「エクア/エクメット」が249億円から70億円へと激減し、抗精神病薬「ラツーダ」は頭打ちの状態です。

 

伸びが見込めるのは21年9月発売の糖尿病治療薬「ツイミーグ」で、25年度は36億円増の112億円と見ています。ピーク時予想(143億円)に近づいていますが、GLP-1製剤やSGLT2阻害薬ほどの大型品とはなりません。今年1月にはヤンセンファーマと統合失調症治療薬「ゼプリオン」の販売提携を開始しましたが、自社新薬の投入は急性骨髄性白血病治療薬エンゾメニブ(一般名)や骨髄線維症治療薬ヌビセルチブ(同)の発売を見込む27年度以降まで予定はなく、苦しい状況が続きます。

 

小野はオプジーボ薬価下げで横ばい

小野薬品工業は0.4%減とほぼ横ばいでした。抗がん剤「オプジーボ」が薬価引き下げで売り上げを落としたものの、今期は非小細胞がんファーストラインでの新規処方シェアを直近の17%から30%に拡大させる計画で、売り上げも1250億円まで回復させる計画。一方で、SGLT2阻害薬「フォシーガ」は糖尿病の適応で特許が切れることから10.7%減の800億円にとどまり、DPP-4阻害薬「グラクティブ」も34.6%減の120億円まで縮小する見込みです。

 

武田薬品工業は新薬の発売が続いていますが、希少疾患が中心で、高血圧症治療薬「アジルバ」の特許切れをカバーするには至っていません。国内の減収は3期連続となっており、25年度以降とする成長への回帰を待ちます。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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