1. Answers>
  2. AnswersNews>
  3. ニュース解説>
  4. トランプ関税、国内製薬も影響注視…アステラスは業績予想に織り込み、武田は4兆円超の投資表明
ニュース解説

トランプ関税、国内製薬も影響注視…アステラスは業績予想に織り込み、武田は4兆円超の投資表明

更新日

前田雄樹

米トランプ政権が検討している医薬品への関税導入について、国内の製薬企業もその影響を注視しています。現時点では詳細が不明で不確実性が高く、多くの企業は具体的な影響の予想は難しいとしていますが、アステラス製薬が今期の業績予想に関税リスクを織り込んだほか、大塚ホールディングスも一定の利益減少を想定。武田薬品工業は今後5年で米国に4兆円超を投資すると表明しました。

 

 

武田「影響は限定的」業績予想に織り込まず

トランプ米大統領は今月5日、医薬品に対する追加関税について「今後2週間以内に発表する」と表明。米商務省は4月中旬、関税導入に向け、医薬品と医薬品原料の輸入が国家安全保障に及ぼす影響について調査を始めたことを明らかにしています。

 

トランプ氏は5日の時点では税率など具体的な内容には言及しておらず、関税の詳細はいまだ不明です。国内では上場製薬企業の決算発表が相次いでおり、関税が課された場合の業績への影響に注目が集まっていますが、「不確実な要素が多く、現時点で具体的な影響を予想するのは困難」(中外製薬の奥田修社長CEO)として現時点では業績予想に織り込んでいない企業がほとんどです。

 

アステラス製薬は先月25日に発表した2026年3月期の業績予想に、潜在的な事業リスクとして関税の影響も一定程度織り込みましたが、岡村直樹社長CEOは「現時点では不確定かつ不確実なので、影響を本当の意味で見通すのは非常に難しい」と指摘。具体的な影響については開示しませんでした。

 

大塚HD「25%関税なら数十億円の利益減」

先月30日に25年12月期第1四半期の決算を発表した大塚HDは、下期に米国が輸入医薬品に25%の関税をかけたと仮定した場合、医療関連事業の事業利益は期初計画から数十億円下振れするとの想定を明らかにしました。同社はすでに米国在庫の積み増しを行っているほか、今後は米国での委託製造比率を引き上げる予定で、こうした対応によって利益へのマイナス影響は数十億円にとどめられるとしています。

 

武田薬品工業は26年3月期の業績予想に関税の影響を織り込みませんが、クリストフ・ウェバー社長CEOは「現在の前提に基づけば潜在的な影響度は限定的と考えている」と話しました。

 

同社は米国事業が売上収益全体の約半分を占めますが、▽欧州、日本、シンガポールなどからの輸入課税価額が占める割合は米国売上高の約8~10%にとどまること▽委託製造先を日米欧に分散させており、委託製造に対する支出の約7割が米国拠点のCMOに対するものであること――などから、関税が導入されても業績への影響は小さいとの見通しを示しています。

 

【医薬品関税の影響に関する製薬各社のコメント】

 

在庫積み増しなど対応

具体的な影響が見通せない中、各社は関税が導入された場合の影響を緩和するための対応に追われています。

 

武田薬品は「ほかのグローバル製薬企業と同様に、グローバルサプライチェーン全体を見渡し、関税の影響を受ける可能性がある輸入品については在庫やサプライチェーン管理を含む緩和策を実施している」(ウェバー氏)。アステラスも「状況や製品特性に応じて、在庫積み増しなど必要な措置を講じている」(岡村氏)としています。

 

大塚HDは、在庫の積み増しや米国委託製造比率の引き上げに加え、中長期でサプライチェーン全体の見直しを検討。中外の奥田氏は「ロシュを含むビジネスパートナーとともに、状況や影響を把握し、適切な対応を検討する」と話しました。

 

欧米大手、相次ぎ大型投資発表

トランプ氏が医薬品への関税導入の検討を表明して以降、欧米の大手製薬企業は相次いで大型の米国投資計画を打ち出しています。スイスのロシュとノバルティスは今後5年間でそれぞれ500億ドル、230億ドルを米国に投資すると発表。米ジョンソン・エンド・ジョンソンが550億ドル以上(5年間)、イーライリリーが270億ドル、アッヴィが10億ドル(10年間)など、米国企業も投資を表明しています。

 

武田のウェバー氏は5月8日の決算説明会で「現在の戦略に基づくものだけでも、今後5年で米国に約300億ドル(約4兆3000億円)を投資する予定だ」と表明。「製造拠点をアップグレードし、最高の効率と生産性を達成できるようにする。研究開発への支出も一部含まれる」とし、「現在のプレゼンスを維持するため、そして会社をこれからも成長させていくためのものだ」と話しました。

 

【製薬大手が表明した対米投資】

 

トランプ氏は今月5日、米国での医薬品製造を促すため、医薬品工場の承認にかかる期間を短縮するよう指示する大統領令に署名。声明で「未来への投資として、医薬品のサプライチェーンを恒久的に国内に回帰させる」と述べました。

 

一方で、サプライチェーンの見直しには慎重な意見もあります。

 

アステラスの岡村氏は4月25日の決算説明会で「こういう事態になったので大急ぎで米国に工場を建てるべきかどうか。工場を建てるだけで何年もかかるし、技術移転をすればさらに何年もかかる。あまり有効な選択肢ではないと思う」と指摘。「米国内のCDMOを使うことは選択肢の1つにはなりうるが、それでも簡単に製造を移管できるような業種ではない。事態に間に合わせるためにサプラチェーンをいじるのはあまり現実的な解決策ではない」と話しました。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

あわせて読みたい

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる

オススメの記事

人気記事

メールでニュースを受け取る

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる