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ニュース解説

CureApp、減酒治療アプリを申請「一般内科でもアルコール依存症治療を」

更新日

亀田真由

CureAppが申請中の減酒治療アプリのイメージ図(同社提供)

 

CureAppが、同社にとって3つ目の治療用アプリとなる「減酒治療アプリ」を申請しました。一般内科などアルコール依存症治療を専門としない医療機関でも広く治療を提供することを目指します。一体どのようなアプリなのでしょうか。

 

 

アプリと医師が役割分担

CureAppは3月25日、アルコール依存症患者を対象とした「減酒治療アプリ」を申請したと発表しました。承認されれば、同社にとってニコチン依存症(2020年承認)と高血圧(22年承認)に続く3つ目の治療用アプリとなります。

 

アルコール依存症の治療は、飲酒行動の改善と、それを支える心理社会的治療(認知行動療法やコーピングスキルトレーニングなど)が基本。アプリはこのうち認知行動療法を提供するもので、医師が処方する医療機器として薬事承認・保険適用を目指しています。アプリが対象とするのは、「減酒(飲酒量の低減)」を治療目標とすることが適した患者。従来のアルコール依存症治療は「断酒(飲酒をやめること)」を目標とするのが基本でしたが、抵抗感から受診を避ける患者もいて、近年は症状が重くない初期の患者には減酒を目標とした治療も広がってきています。

 

【アルコール依存症の治療目標】治療目的は「断酒」と「飲酒量軽減」の2つが可能。断酒:依存症専門機関での治療(要入院の場合もある)。飲酒量軽減も可:一般の内科、精神科医療機関での治療可。飲酒量軽減目標が許容される依存症患者とは:入院治療を要さない/深刻な社会・家庭生活の問題に至っていない/飲酒により生命に危機がある重篤な臓器障害がない/緊急の治療を要する離脱症状がない。※CureAppの資料を元に作成

 

「強めの介入」との比較で多量飲酒日を有意に減少

アプリは、患者が使用する患者用アプリと、医師が診察で用いる医師用アプリで構成されています。患者は毎日、飲酒量などをアプリに記録。その内容に応じてアプリが行動提案やアドバイスを行い、患者はそれを1つ1つ実践することで心理社会的療法に散り組んでいきます。

 

医師の診察は4週間ごと。患者アプリで蓄積した患者のデータが医師アプリに表示され、医師と患者はそれを一緒に見ながら治療の状況を確認します。同社で減酒治療アプリのプロジェクトリーダーを務める精神科医の宋龍平氏は、診察時に医師に求められるのは患者の体や心のケアだと指摘。「患者にとって耳の痛いことはアプリが伝える」とし、医師には行動変容に向けて患者と併走する存在であってほしいと話します。

 

申請の根拠とする国内臨床第3相(P3)試験は、300人弱の患者を対象に一般内科など17の医療機関で実施。対照群(患者教育パンフレットと飲酒記録アプリの併用)との比較で、主要評価項目である「多量飲酒日数の12週時点のベースラインからの変化量」を有意に改善しました。宋氏は「対照群は現在の標準的な治療より強めの介入とし、それよりも効果が見込めるか確かめた」といいます。

 

禁煙外来のように「減酒・断酒外来」を

アルコール依存症は、過度な飲酒による問題行動だけでなく、がんや生活習慣病の発症、早期死亡のリスクがあり、プライマリケア医による早期発見・早期介入の重要性が指摘されています。しかし、実際に治療を受けているのは患者全体の10%以下にとどまり、治療を受けていない潜在患者は100万人を超えるとされています。

 

その要因の1つに、治療提供体制の問題があります。宋氏は「治療の基本は心理社会的療法だが、非専門医にとって介入手法を習熟するのはコストが高い。しかも内科の診療時間は5分程度で、治療の質を担保するのには限界がある」と指摘。同社はアプリでこの問題を解決し、減酒治療を一般内科など非専門医療機関で広く提供することを目指しており、同氏は「減酒外来・断酒外来が、禁煙外来のように広まる世界を作りたい」と話します。

 

CureAppが3月に開いたメディア説明会に登壇した宋龍平プロジェクトリーダー(同社提供)

 

宋氏によると、アプリは患者が治療に取り組みやすいことはもちろん、医師の負担を軽減するよう設計。たとえば、治療の開始段階時には、患者が入力した飲酒量に基づいて、それがどれくらい身体的・心理的リスクを高める可能性があるかをアプリが提示。リスクを回避するのに必要な飲酒量の低減について、具体的な手段(500ml缶を350ml缶に変えるなど)を含めてアプリが提案し、非専門医でも一歩踏み込んだアドバイスを行えるよう工夫しています。治療を続ける間も、目標が高すぎて続けられないといったことが起こらないよう、アプリが日々の記録に基づいて飲酒量や行動の目標を調整。実際、治験に参加した医師には特別な研修などは行っていないといいます。

 

心理社会的治療のハードル下げる

非専門医療機関での治療普及には、診療報酬上の評価も重要です。

 

今年4月の診療報酬改定に向けては、日本アルコール・アディクション医学会が中心となって「節酒指導」と「アルコール使用障害同定テスト『AUDIT』」に対する評価の新設を提案しましたが、エビデンスが不足しているとして実現しませんでした。減酒治療をめぐっては、19年に国内初となる飲酒量低減治療薬「セリンクロ」(一般名・ナルメフェン塩酸塩水和物、製造販売元・大塚製薬)が発売されましたが、薬物療法はあくまで心理社会的治療を補助するもので、治療の中心ではありません。薬剤料算定には診断と治療に関する研修も必要です。

 

【アルコール依存症の治療薬】〈製品名/一般名/製造販売元/作用〉▽断酒維持・抗酒薬/シアナマイド内用液/シアナミド/田辺三菱製薬/アルデヒド脱水素酵素を阻害し、悪心・嘔吐、頭痛などの不快な反応を引き起こす/ノックビン原末/ジスルフィラム/田辺三菱製薬/アルデヒド脱水素酵素を阻害し、悪心・嘔吐、頭痛などの不快な反応を引き起こす|断酒補助薬/レグテクト錠/アカンプロサート/日本新薬/飲酒欲求を制限(神経伝達の不均衡を回復することで効果を表すと考えられている)|▽減酒支援/飲酒量低減薬/"セリンクロ錠/ ナルメフェン/大塚製薬(提携:ルンドベック)/オピオイド受容体調節作用を介して飲酒欲求を抑え、飲酒量を低減する|※各治療薬の添付文書などをもとに作成

減酒治療に使用されるのはセリンクロ。断酒への適応を持つ薬剤も承認されている

 

CureAppは、実施や習熟のコストが低い減酒治療アプリが保険適用されれば、心理社会的治療のハードルが下がると期待。宋氏は「スモールステップで治療を始められる状況を作りたい」と話します。必要に応じてアプリと減酒薬を併用したり、効果が見られない患者に専門医療機関を紹介したりするなかで、専門治療にたどり着くまでに数年かかる現状を変えられたらと言い、「すぐには難しいとは思うが、5年、10年かけてでも、治療を受ける患者を2~3倍にしたい」と話しました。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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