(写真:ロイター)
2024年3月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大を、領域別にまとめました。
【新薬】肺動脈性肺高血圧症に2新薬
がん
Tevimbra|中国ベイジーン
抗PD-1抗体「Tevimbra」(一般名・tislelizumab)は、切除不能・転移性食道扁平上皮がんの適応で承認されました。化学療法による全身療法を受けた成人患者が対象で、単剤で使用します。臨床第3相(P3)試験では、化学療法と比べて全生存期間を有意に延長しました。欧州では23年に承認されており、日本でもP3試験が行われています。
消化器
Rezdiffra|米マドリガル
経口甲状腺ホルモン受容体β(THR-β)作動薬「Rezdiffra」(resmetirom)は、米国初となる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療薬です。対象は、線維化のステージがF2~F3(ステージはF0=線維化なし~F4=肝硬変の5段階)の患者。NASHの消失または線維化の改善効果を示したP3試験の結果をもとに迅速承認を取得しました。
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循環器
Tryvio|スイス・イドルシア
デュアルエンドセリン受容体拮抗薬「Tryvio」(aprocitentan)は高血圧治療薬。既存治療で十分なコントロールが得られていない成人患者に、ほかの降圧薬と併用します。高血圧に対する新規作用機序の治療薬は約40年ぶり。欧州でも申請中です。
Opsynvi|米ジョンソン・エンド・ジョンソン
「Opsynvi」は、エンドセリン受容体拮抗薬macitentanと、PDE5阻害薬tadalafilの1日1回服用の固定容量配合剤。成人の肺動脈性肺高血圧症を対象に承認を取得しました。患者の負担軽減が期待されています。欧州と日本でも昨年に申請を行いました。
Winrevair|米メルク
肺動脈性肺高血圧症治療薬「Winrevair」(sotatercept)はファーストインクラスのアクチビンシグナル伝達阻害薬治療薬。基礎療法への上乗せを検討した臨床試験では、24週時の6分間歩行距離を延長し、運動能力を有意に改善しました。米メルクが2021年に買収した米アクセレロン・ファーマが開発した製品で、欧州でも申請済み。日本ではP3試験の段階にあります。
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代謝・腎
Lenmeldy|英オーチャード
「Lenmeldy」(atidarsagene autotemcel)は、小児の早期発症型異染性白質ジストロフィー(MLD)に対する造血幹細胞遺伝子治療です。MLDは、アリルスルファターゼ A(ARSA)をコードする遺伝子の変異が原因で神経障害や発達退行を引き起こす代謝性疾患。Lenmeldyは患者の造血幹細胞のゲノムに機能的なヒトARSA遺伝子を挿入した遺伝子治療薬で、1回の治療で酵素機能を正常化させ、病気の進行を止めるまたは遅らせると考えられています。MLDには従来、支持療法や終末期医療しか治療選択肢がありませんでした。オーチャードは今年1月、協和キリンが買収しています。
Vafseo|米アケビア
HIF-PH阻害薬「Vafseo」(vadadustat)は、慢性腎臓病に伴う貧血に対する治療薬。少なくとも3カ月透析を受けている患者が対象です。欧州では昨年承認。日本では導出先の田辺三菱製薬が2020年に発売しました。
神経・筋
Duvyzat|伊Italfarmaco
HDAC阻害薬「Duvyzat」(givinostat)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬。あらゆる遺伝子変異を持つ患者に使用できる非ステロイド薬は初めてとなります。標準治療であるステロイドへの上乗せを検討したP3試験では、プラセボに比べて筋機能の低下を抑えることが確認されました。欧州でも申請中です。
【適応拡大】「Wegovy」の心血管リスク低減など
がん
Rybrevant|米ヤンセン
抗EGFR/MET二重特異性抗体「Rybrevant」(amivantamab)は、「EGFRエクソン20挿入変異陽性の局所進行・転移性非小細胞肺がん」に対する1次治療でcarboplatin、pemetrexedとの併用療法が承認されました。臨床試験では、化学療法単独と比べて進行または死亡のリスクを61%減少。日本では23年11月に同適応で申請を行っています。
同薬はまた、プラチナベースの化学療法中または治療後に進行した患者に対する単剤療法の完全承認も取得。同適応では21年に迅速承認を取得していました。欧州でも同適応で承認されています。
Opdivo|米ブリストル
抗PD-1抗体「Opdivo」(nivolumab)は、切除不能・転移性尿路上皮がんに対するcisplatin、gemcitabineとの3剤併用療法が承認されました。P3試験では、2剤併用療法と比べて全生存期間と無増悪生存期間を有意に改善。日本と欧州でも申請中です。
Besponsa|米ファイザー
抗CD22抗体「Besponsa」(inotuzumab ozogamicin)は、「再発・難治性のCD22陽性の急性リンパ性白血病」の適応で1歳以上の小児に対象を拡大。成人の適応では17年に承認されています。日本でも小児適応で申請中です。
Brukinsa|中国ベイジーン
BTK阻害薬「Brukinsa」(zanubrutinib)は、「再発・難治性の濾胞性リンパ腫」に適応拡大。P2試験の全奏効率に基づいて迅速承認されました。2つ以上の全身療法を受けた患者が対象で、抗CD20抗体obinutuzumabと併用します。欧州でも同適応で承認済み。日本では、慢性リンパ性白血病・小リンパ球性リンパ腫の適応で申請中です。
Iclusig|武田薬品工業
チロシンキナーゼ阻害薬「Iclusig」(ponatinib)は、「フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病」に対する化学療法との併用療法が承認。イマチニブを対照群とするP3試験で示された導入療法終了時の微小残存病変(MRD)陰性完全寛解(CR)率をもとに迅速承認を取得しました。小児対象のP1試験も進行中です。
Elahere|米アッヴィ
抗葉酸受容体α(FRα)抗体薬物複合体(ADC)「Elahere」(mirvetuximab soravtansine)は、「FRα陽性白金製剤抵抗性の上皮性卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がん」の適応で完全承認を取得しました。1~3つの前治療を受けた成人患者が対象です。同薬は2022年11月に開発元の米イミュノジェンが迅速承認を取得。アッヴィは同社を今年2月に買収しました。欧州でも申請中です。
Breyanzi|米ブリストル
CD19を標的とするCAR-T細胞療法「Breyanzi」(lisocabtagene maraleucel)は、「再発・難治性の慢性リンパ性白血病または小リンパ球性リンパ腫」に適応拡大しました。対象は、BTK阻害薬とBCL-2阻害薬を含む2つ以上の前治療を受けた患者。臨床試験での奏効率と奏効期間をもとに迅速承認を受けました。
循環器・代謝
Praluent|米リジェネロン
抗PCSK9抗体「Praluent」(alirocumab)は、「ヘテロ接合性家族性高コレステロール血症」の適応で対象を8歳以上の小児に拡大しました。食事療法やその他LDL-C低下療法の補助として使用されます。
Wegovy|デンマーク・ノボノルディスク
GLP-1受容体作動薬「Wegovy」(semaglutide)は、「心血管疾患の既往を持つ肥満または過体重の成人患者の心血管リスク低減」の適応を新たに取得。心血管死や非致死性の心筋梗塞・脳卒中の主要心血管イベント(MACE)のリスクを低減します。標準治療への上乗せ効果を検証した臨床試験では、プラセボとの比較でMACEのリスクを20%減少。欧州でも同適応への適応拡大を申請中で、日本ではP3試験を進めています。
Nexletol|米エスペリオン
高コレステロール血症治療薬「Nexletol」(bempedoic acid)は、推奨スタチン療法が服用できない患者に対する「心筋梗塞や冠動脈血行再建術のリスク低減」に適応拡大しました。同薬はATPクエン酸リアーゼ(ACL)阻害薬。日本での権利は大塚製薬が持っており、高コレステロール血症を対象にP3試験を進めています。米国では、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬ezetimibeとの配合剤「Nexlizet」も同時に適応拡大の承認を取得しました。
消化器
Livmarli|米ミラム
胆汁酸トランスポーター阻害薬「Livmarli」(maralixibat)は、「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴う胆汁うっ滞性そう痒」に適応拡大しました。対象は5歳以上。4歳未満の患者への対象拡大も申請中です。欧州では生後2カ月以上の患者を対象に申請済み。同薬はアラジール症候群に伴う胆汁うっ滞性そう痒症の適応で21年に承認を取得。日本では武田薬品工業が権利をもっており、2つの適応でP3試験を進めています。
Vemlidy|米ギリアド
B型慢性肝炎治療薬「Vemlidy」(tenofovir alafenamide)は、6歳以上、体重25kg以上の小児に対象を拡大。同薬は米国で成人を対象に16年、12歳以上を対象に22年に承認を取得。欧州でも6歳以上を対象に承認されています。
皮膚
Spevigo|独ベーリンガーインゲルハイム
抗IL-36R抗体「Spevigo」(spesolimab)は、汎発型膿疱性乾癬に適応拡大。対象は体重40kg以上の12歳以上の患者。同薬は22年、日米欧で膿疱性乾癬の急性症状を対象に承認。米国では今回の適応拡大で再発を経験していない患者にも使用できるようになりました。承認の根拠となった臨床試験では、プラセボと比べて再発のリスクを84%低減。日本でもP2試験段階にあります。
中枢神経
Ultomiris|英アストラゼネカ
抗補体(C5)抗体「Ultomiris」(ravulizumab)は、「抗AQP4抗体陽性の視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)」に適応拡大。臨床試験では、NMOSDの再発リスクを98.6%減少させました。日本と欧州では23年に同適応で承認されています。
感染症
Eduran|米ヤンセン
抗HIV薬「Edurant」(rilpivirine)は、未治療の2歳以上の小児(体重14kg以上)に対象を拡大。小児向けのPED錠剤も新たに承認されました。ほかの抗レトロウイルス薬と併用します。
その他
Xhance|米オプティノーズ
ステロイドfluticasoneの点鼻スプレー製剤「Xhance」は、慢性副鼻腔炎の成人患者に対し、鼻ポリープの有無を問わず使用できるようになりました。適応拡大の根拠となった臨床試験では、プラセボと比べて有意に症状を軽減しました。
【バイオシミラー】スイス・サンドのdenosumabなど
Tyenne|独フレゼニウスカービ
米国で2剤目となる抗IL-6受容体抗体「Actemra」のバイオシミラー。点滴静注、皮下注の2つの剤形が利用可能です。
Jubbonti/ Wyost|スイス・サンド
スイス・サンドはdenosumabのバイオシミラー2剤の承認を取得しました。「Jubbonti」の先行品は骨粗鬆症治療薬「Prolia」で、「Wyost」の先行品はがんに伴う骨合併症治療薬「Xgeva」。denosumabのバイオシミラーが承認されるのは初めてです。