(写真:ロイター)
2023年12月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大を、領域別にまとめました。
【新薬】発作性夜間ヘモグロビン尿症に初の単剤の経口薬治療
血液
Fabhalta|スイス・ノバルティス
「Fabhalta」(一般名・iptacopan hydrochloride)は、発作性夜間ヘモグロビン尿症に対する経口補体副経路B因子阻害薬。血管内外での溶血を制御する作用を持ち、輸血の負担を軽減します。抗補体C5療法後も貧血症状が残る患者を対象に行った臨床第3相(P3)試験と、補体阻害薬による治療歴のない患者を対象としたP3試験の結果に基づいて承認されました。単剤療法が可能な経口薬は初めて。日本と欧州でも申請中です。
Casgevy|米バーテックス
鎌状赤血球症治療薬「Casgevy」(exagamglogene autotemcel)は、ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」を使った治療で、米バーテックスとスイスのCRISPRセラピューティクスが共同開発。患者から採取した造血幹細胞にゲノム編集を施し、再び患者に投与します。ゲノム編集を使った治療の承認は米国初。血管閉塞危機(VOC)と呼ばれる疼痛や臓器損傷を繰り返す12歳以上の重症患者が対象で、1回の治療でVOCを軽減または解消できると期待されています。昨年11月に英国で鎌状赤血球症、輸血依存性βサラセミアを対象に世界初の承認を取得しており、欧州でも近く2つの適応で承認される見通し。米国でもβサラセミアへの適応拡大を申請中です。
Lyfgenia|米ブルーバード・バイオ
Lyfgenia(lovotibeglogene autotemcel)は、血管閉塞性イベント(VOE)を経験した12歳以上の鎌状赤血球症患者に対する遺伝子治療。レンチウイルスベクターを使って患者の細胞が抗シックリングヘモグロビン(HbAT87Q)を産生するよう改変し、投与します。HbAT87Qには赤血球の鎌状化を抑制する働きがあり、これによってVOEを軽減します。
皮膚
Zoryve|米アーキュティス
脂漏性皮膚炎治療治療薬「Zoryve」は、PDE4阻害薬roflumilastの局所フォーム製剤。頭皮などの毛のある部位にも使用できるのが特徴です。臨床試験では、脂漏部位の迅速な除去とかゆみの大幅な軽減が確認されました。
Filsuvez|伊チエシ
「Filsuvez」(birch triterpenes)は、ジストロフィー・接合部型表皮水疱症に伴う創傷の治療に使用する局所ゲル。トリテルペンとして知られる天然由来の物質を含むシラカバ樹皮の乾燥エキスを含んでいます。接合部型表皮水疱症による創傷に対する治療薬は米国初。欧州では2022年に承認されています。
がん
Iwilfin|米USワールドメッズ
オルニチンデカルボキシラーゼ阻害薬「Iwilfin」(eflornithine hydrochloride)は、高リスクの神経芽腫の維持療法に使用する経口薬。抗GD20療法を含む多剤併用療法に対し、少なくとも部分奏功を示した患者の再発リスクを軽減します。神経芽腫は小児に多いがんで、寛解後の再発リスクとそれに伴う死亡率が高いことが知られています。臨床試験では、無イベント生存期間と全生存期間を改善しました。
眼
iDose TR|米グラウコス
高眼圧症・開放隅角緑内障治療薬「iDose TR」は、プロスタグランジンF2α誘導体travoprostの眼内インプラント。有効成分を1年以上にわたって継続的に眼内に送達するよう設計されており、服薬コンプライアンスの課題解消や慢性副作用の軽減を期待しています。臨床試験では、単回投与後最大36カ月間の持続効果が確認されました。
神経
Wainua|米アイオニス
核酸医薬「Wainua」(eplontersen sodium)は、「遺伝型のトランスサイレチン(TTR)型アミロイドポリニューロパチー」の適応で承認を取得。米アイオニスと英アストラゼネカが共同開発したリガンド結合アンチセンスオリゴヌクレオチドで、TTRタンパク質の産生を減少させるよう設計されています。欧州でもアストラゼネカが申請中で、日本では同社がP3試験を進めています。
免疫
Alyglo|韓国GCバイオファーマ
免疫グロブリン製剤「Alyglo」(immune globulin intravenous)は、原発性免疫不全症候群治療薬。17歳以上の患者が対象です。承認の根拠となったP3試験では、主要評価項目である急性重篤細菌感染症の発生頻度が年間0.03となり、米FDAの基準(年間1未満)を満たしました。
【適応拡大】Keytruda+Padcev、尿路上皮がん1次治療で承認
がん
Jaypirca|米イーライリリー
非共有結合型(可逆性)BTK阻害薬「Jaypirca」(pirtobrutinib)は、新たに「慢性リンパ性白血病、小リンパ球性リンパ腫」の適応で迅速承認を取得しました。BTK阻害薬、BCL-2阻害薬を含む少なくとも2つの前治療を受けた患者が対象です。同薬は23年1月にマントル細胞リンパ腫治療薬として承認。欧州では同適応で23年10月に承認されており、日本でも同適応で申請中です。
Welireg|米メルク
HIF-2α阻害薬「Welireg」(belzutifan)は腎細胞がんに適応拡大。対象は、PD-1/PD-L1阻害薬やVEGF阻害薬による治療後に進行した患者です。臨床試験では、mTOR阻害薬everolimusと比べて無増悪生存期間と客観的奏効率を有意に改善しました。日本と欧州では腎細胞がんの適応でP3試験を行っています。
Keytruda+Padcev|米メルク/アステラス製薬
抗PD-1抗体「Keytruda」(pembrolizumab)と抗ネクチン4抗体薬物複合体(ADC)「Padcev」(enfortumab vedotin)の併用療法は、「局所進行または転移性尿路上皮がんの1次治療」の適応で承認を取得しました。23年4月にシスプラチン不適応患者を対象に迅速承認を取得していましたが、シスプラチン適応患者を含めて使用できるようになりました。臨床試験では、白金製剤を含む化学療法と比べて、全生存期間と無増悪生存期間を延長しました。グローバルでP3試験を進行中です。
感染症
Cresemba|アステラス製薬
侵襲性アスペルギルス症、侵襲性ムーコル症治療薬Cresemba(isavuconazonium sulfate)は、小児に対象を拡大しました。静注製剤は1歳以上、カプセル剤は体重16kgを超える6歳以上の患者に使用できます。同薬はスイス・バシリアが創製した真抗菌薬で、米国では同社とアステラスが共同開発。日本では旭化成ファーマが22年、成人を対象に承認を取得しました。
腎
Tarpeyo|スウェーデン・カリディタス
副腎皮質ホルモンbudesonideの遅延放出カプセル「Tarpeyo」は、IgA腎症の適応で正式承認を取得。21年12月に迅速承認を取得していました。RAS阻害薬との併用療法を検証したP3試験では、プラセボに比べて腎機能の悪化を抑制することが確認されました。
【バイオシミラー】中国バイオセラのbevacizumab
Avzivi|中国バイオセラ
米国で5剤目となる抗VRGF抗体「Avastin」(bevacizumab)のバイオシミラー。大腸がんや非小細胞肺がん、子宮頸がんなど複数のがん種に使用できます。バイオセラはスイス・サンドとAvziviに関するライセンス契約を結んでおり、バイオセラが開発と製造、サンドが商業化を担当します。