2024年に国内で発売が見込まれる主な新薬を、領域別に2回に分けて紹介します。2回目は「精神・中枢神経」「循環器・代謝・腎」「ワクチン」「感染症」「その他」領域です。
- 1回目:領域)固形がん、血液がん、血液、神経・筋
- 2回目:領域)精神・中枢神経、循環器・代謝・腎、ワクチン、感染症、その他
INDEX
【精神・中枢神経】イドルシアの不眠症治療薬が承認へ
アルツハイマー病では、昨年末に承認された「レケンビ」(一般名・レカネマブ)に早くも競合品が登場します。日本イーライリリーが昨年9月に申請したドナネマブは、N末端第3残基でピログルタミル化されたアミロイドβ(N3pG Aβ)を標的とする抗体医薬。レケンビはピーク時の2031年度に投与患者数3.2万人、販売金額986億円を見込みますが、ドナネマブがどのような市場予測を立てるのかも注目です。
ダリドレキサント塩酸塩は、不眠症に対するデュアルオレキシン受容体拮抗薬です。そーせいグループが昨年買収したイドルシア ファーマシューティカルズ ジャパンが持田製薬と共同で開発を進めてきた薬剤で、承認取得後は両社で共同販売を行うことになっています。持田は塩野義製薬と販売提携しており、3社で市場浸透を図ります。
中枢神経の領域ではこのほか、ユーシービージャパンが抗てんかん薬ブリーバラセタムを申請中。てんかん発作に関わるとされるシナプス小胞タンパク2A(SV2A)に結合することで効果を発揮すると考えられており、経口薬に加えて、一時的に経口投与できない患者に対する静注製剤も申請中です。
【循環器・代謝・腎】協和キリン、新規リン吸収阻害薬を発売見込み
循環器・代謝・腎領域では、ノボノルディスクファーマが昨年11月に薬価収載された肥満症治療薬のGLP-1受容体作動薬「ウゴービ皮下注」(セマグルチド)を2月に発売する予定。承認を取得したのは昨年3月ですが、世界的な需要増大を踏まえ、供給体制を整えてからの発売となりました。ピーク時に年間328億円の販売を見込んでおり、大型化が見込まれています。同社は週1回投与のインスリン製剤インスリン イコデクも申請中です。
協和キリンの高リン血症治療薬「フォゼベル錠」(テナパノル塩酸塩)は、ファースト・イン・クラスのNHE3阻害薬。米アーデリックスから導入したリン吸収阻害薬で、既存のリン吸着薬による治療効果が不十分な患者に対する新たな選択肢となりそうです。昨年11月に薬価収載されており、近く発売されるとみられます。
ウルトラジェニクスジャパンは抗ANGPTL3抗体「エヴキーザ点滴静注液」(エビナクマブ)を発売する見通し。ホモ接合体家族性高コレステロール血症に対する新薬として1月中の承認、4月の発売が見込まれます。
このほか、ゼリア新薬工業が高カリウム血症を対象にパチロマーソルビテクスカルシウムを申請中。スイスのビフォーファーマから獲得した陽イオン結合非吸収性ポリマーで、腸管内で過剰なカリウムを吸着して便とともに排泄することで症状を改善すると考えられています。
【ワクチン】2つのRSウイルスワクチンが発売準備中
ワクチンでは、2つのRSウイルスワクチンが発売となりそうです。1つはグラクソ・スミスクライン(GSK)の「アレックスビー筋注用」で、もう1つはファイザーの「アブリスボ筋注用」。アレックスビーは60歳以上を対象に昨年9月に承認され、アブリスボは母子免疫で近く承認される見通し。アレックスビーは50~59歳、アブリスボは60歳以上への使用も申請中です。
第一三共は、国内初の経鼻インフルエンザワクチン「フルミスト点鼻液」を2024年度に発売する予定。英アストラゼネカ子会社のメディミューンから導入した弱毒生インフルエンザワクチンで、2歳以上19歳未満が対象です。第一三共は昨年末、従来販売していたインフルエンザHAワクチンの生産・販売を終了することを明らかにしており、来シーズンは経鼻ワクチンに一本化することになります。
阪大微生物病研究会とKMバイオロジクスが昨年、それぞれ承認を取得した5種混合ワクチンは、今年4月から定期接種となる予定。従来の4種混合ワクチンにヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)を加えたもので、接種回数の減少による負担軽減が期待されます。
昨年承認されたMeijiSeikaファルマの新型コロナウイルスに対するレプリコンワクチン(次世代mRNAワクチン)「コスタイベ筋注」は、変異株対応の追加承認を経て今年秋冬の供給開始を目指しています。
ファイザーは肺炎球菌ワクチンとダニ媒介性脳炎ワクチン、サノフィは腸チフスワクチンと60歳以上に対する高用量インフルエンザワクチンを申請中です。
【感染症】アストラゼネカ・サノフィ RSウイルス感染症に新たな予防薬
RSウイルスによる感染症では、ワクチンだけでなく、新生児や乳幼児に対する新たな予防薬の承認も見込まれています。アストラゼネカは昨年、サノフィと共同開発している抗RSウイルス抗体ニルセビマブを申請しました。アストラゼネカ独自の半減期延長技術を使った長時間作用型抗体で、既存薬の「シナジス」(パリビズマブ)がシーズン中に毎月の投与が必要なのに対し、単回投与で済むのが特徴です。
感染症領域ではこのほか、ファイザーがセフェム系抗菌薬のセフタジジム水和物に、新規のβ-ラクタマーゼ阻害薬アビバクタムナトリウムを加えた配合静注製剤を申請中。武田薬品工業のmaribavirは「臓器移植におけるサイトメガロウイルス感染症」に対する抗ウイルス薬です。
【その他】アトピー性皮膚炎にレブリキズマブとタピナロフ
その他の領域では、分子標的薬が相次ぐアトピー性皮膚炎に2つの新薬が登場する見込み。日本イーライリリーの抗IL-13抗体「イブグリース皮下注」(レブリキズマブ)は1月中にも承認される見通しで、早ければ4月の薬価収載が想定されます。日本たばこ産業(JT)のタピナロフは、アリル炭化水素受容体モジュレーター。昨年9月にアトピー性皮膚炎と尋常性乾癬を対象に申請しており、承認取得後はJT子会社の鳥居薬品が販売を行います。
アンジェスの「ゾキンヴィカプセル」(ロナファルニブ)は、乳児早老症のハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群、プロジェロイド・ラミノパチーに対する疾患修飾薬。米アイガーから導入したファルネシル転移酵素阻害薬で、近く承認される見通しです。日本での投与患者数は数人程度と見込まれます。
富士製薬工業が10月に申請したエステトロール/ドロスピレノン配合剤は、月経困難症の治療薬。ベルギーのMithraから導入した天然型エストロゲンを新規成分として含有する薬剤です。国内ではエムスリーと共同開発・販売契約を結んでおり、販売ではエムスリーのeプロモーションを活用します。