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長期収載品、患者負担増に現実味…収益頼る製薬企業に打撃

更新日

穴迫励二

厚生労働省が長期収載品の患者自己負担引き上げを検討しています。社会保障審議会で議論が進んでおり、実現すれば処方にブレーキがかかることは間違いありません。収益を長期収載品に依存する企業にとっては経営上の転機になりそうです。

 

 

2割の企業が収益の半分以上を長期収載品に依存

厚労省によると、年間10.1兆円に上る薬剤費(医療用医薬品)の構成割合は新薬創出加算品が29%(2.9兆円)、それ以外の先発品が32%(3.2兆円)で、長期収載品は18%(1.8兆円)を占めています(2019年薬価調査結果)。

 

【薬剤費の構成割合】全体:計約10.1兆円。2019年9月薬価調査より|〈項目/金額/割合〉新薬創出加算品/2.9兆円/29%|新薬創出加算品以外の先発品/3.2兆円/32%|長期収載品/1.8兆円/18%|後発医薬品/1.6兆円/16%|その他/0.6兆円/6%|※厚生労働省の資料をもとに作成

 

24年度の薬価制度改革ではドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けてイノベーション評価が1つの焦点となっており、長期収載品の患者負担見直しはその財源として有力視されています。長期収載品に対する保険給付をめぐっては、過去に何度か「参照価格制度」などが議論されては立ち消えになってきましたが、今回は何らかの形で自己負担の引き上げが実現しそうな雰囲気です。

 

一方で、長期収載品を扱う製薬企業120社のうち、売り上げに対する長期収載品の比率が50%を超える企業は約2割あります。それだけに、業界全体に与える影響は小さくありません。

 

【長期収載品を扱う企業120社 長期品の売上高比率】〈売上高比率/社数〉0%以上35%未満/75社|25%以上50%未満/20社|50%以上75%未満/8社|75%以上100%/17社|長期収載品の打ち上げ高比率が50%以上の企業は25社で、全体の2割。※2021年度調査 厚生労働省の資料をもとに作成

 

後発品参入28年でもシェア65%の「アルツ」

各社の現状を見ると、科研製薬は関節機能改善剤「アルツ」が95年の後発医薬品参入から28年を経てもなお65%の数量シェアを誇っています。これまで剤型上の工夫など改良を重ね、医療現場から信頼を得てきました。売上高のピークは13年度の320億円で、15年度までは300億円台を維持。18年度の薬価制度改革を境に薬価通常改定でいわゆる「G2ルール」が適用され、数量は増加しているものの毎回10%程度の薬価引き下げを受けています。

 

今年度は競合品の「スベニール」(中外製薬)が販売中止を発表したことで、前年度比約10億円増の180億円を計画しています。アルツはいまだ科研の最主力品であり、ここに患者負担の引き上げが導入されると、薬価引き下げに加えてシェア低下というダブルパンチに見舞われることになりそうです。

 

同社のもう一つの柱は爪白癬治療剤「クレナフィン」ですが、25年には用途特許が切れるため、近い将来、後発品が参入する見通し。同薬の今年度の売上高予想は177億円で、アルツと合わせると医薬品・医療機器事業売上高の55%を占めます。

 

【「アルツ」の売上高推移】〈年度/売上高(億円)〉2013/320|2014/302.59|2015/307.6|2015/307.6|2016/289.78|2017/283.51|2018/243.33|2019/235.4|2020/188.89|2021/188.53|2022/170.62|2023/180|※科研製薬の決算発表資料をもとに作成。23年度は予想。

 

杏林2割、持田3割

杏林製薬は潰瘍性大腸炎・クローン病治療剤「ペンタサ」に影響が出るかもしれません。売上高はこのところ横ばいかやや減少といった程度で推移してきました。先発品のシェアは30%台半ばと見られています。今期の売上高は118億円を予想。同社全体の長期収載品比率は「キプレス」「ムコダイン」などを含め20%強で、その多くをペンタサが占めています。

 

持田製薬は、トップ製品の潰瘍性大腸炎治療薬「リアルダ」が後発品参入を間近に控えています。同薬は22年9月に再審査期間を終えていますが、長期収載品になるのは特許の関係から24年度以降と見られます。自己負担拡大が実現すれば後発品への置き換えスピードが速まる可能性がありそう。同社全体の長期収載品比率は3割程度とやや高めです。

 

大正製薬の骨粗鬆症治療薬「ボンビバ」は、22年12月に後発品が参入。共同販売していた中外製薬から製品譲渡を受けたことで今期は23.2%増の95億円の販売を見込んでいます。SGLT2阻害薬「ルセフィ」に次ぐ2番手の製品で、予想ベースでは医療用医薬品事業全体の24%を占めることになります、22年6月に後発品が登場した日本新薬の骨髄異形成症候群・急性骨髄性白血病治療剤「ビダーザ」は、今期100億円を維持する計画です。

 

オートインジェクターで市場守る「テリボン」

帝人ファーマは高尿酸血症治療剤「フェブリク」が、22年6月に長期収載品となりました。22年度の売上高は前年度から62.6%の大幅減となる145億円で、23年4~6月期は20億円(前年同期87億円)まで市場が縮小しています。ここまで一気に減少してしまえば、自己負担が増えたからといってそれほど大きな影響を受けることはないかもしれません。

 

旭化成ファーマは、22年9月に沢井製薬が単独で後発品を投入した骨粗鬆症治療剤「テリボン」の状況が注目されます。同薬の22年度の売上高は17億円増の399億円に拡大し、23年4~6月期は8億円減にとどめて96億円を確保しました。週1回医療機関で投与を受ける従来の皮下注射から、週2回自己投与するオートインジェクターへの切り替えが進んでおり、今のところ市場の浸食を最小限に食い止めています。両社は製法特許をめぐって争っていますが、大阪地裁は9月、沢井に対して製造販売差し止めの仮処分命令を出しました。市場の動向は特許係争の行方にも左右され、患者負担増の影響が出てくるのは少し先になるかもしれません。

 

大手や準大手の長期品比率はおおむね1桁台後半と見られ、中には5%を下回る企業も複数あります。自己負担増で大きな影響を受けることはないでしょうし、むしろ得られた財源を新薬に対するイノベーション評価に振り向けることを望んでいます。国内製薬企業は23年度第2四半期決算発表の時期を迎えていますが、長期収載品の患者負担に関わる制度の見直しいかんによっては、来年度以降に大きな打撃を受ける企業が出てきそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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