2023年8月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】GAを伴う加齢黄斑変性治療薬「Izervay」など
「Izervay」米アイベリック
補体因子C5阻害薬「Izervay」(一般名・avacincaptad pegol)は、地図上萎縮(GA)を伴う加齢黄斑変性の治療薬。2つのピボタル試験では、投与後12カ月時点でのGAの進行速度を統計学的に有意に抑制することが確認されました。米アイベリック・バイオはアステラス製薬が今年7月に買収しており、Izervayは欧州でも申請中です。
「Zurzuvae」米セージ
「Zurzuvae」(zuranolone)は、産後うつに対する米国初の経口薬です。米セージ・セラピューティクスが創製したGABAA受容体ポジティブアロステリックモジュレーターで、米バイオジェンと共同で開発。承認の根拠となった2つの臨床試験では、プラセボと比べて有意に症状を改善しました。一方、同時に申請を行っていた大うつ病の適応では、FDAが「追加試験が必要」とする審査完了報告通知を出しており、両社で検討を行っています。日本では導出先の塩野義製薬がうつ病・うつ状態を対象にP3試験を実施中です。
「Talvey」米ヤンセン
「Talvey」(talquetamab)は、CD3とGPRC5Dを標的とする二重特異性抗体。再発・難治性の多発性骨髄腫を対象に迅速承認を取得しました。対象は、プロテアーゼ阻害薬や免疫調整薬、抗CD38抗体を含む4つ以上の前治療を受けた患者。欧州でも今年8月に承認されており、日本ではP3試験が行われています。
「Akeega」米ヤンセン
「Akeega」は、PARP阻害薬niraparibとCYP17阻害剤abiraterone acetateの新規配合薬。免疫抑制剤prednisoneとの併用療法が「BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん」の適応で承認されました。臨床試験では、abirateroneとprednisoneの2剤併用療法に比べて放射線学的無増悪生存期間を有意に改善。欧州でも今年4月に承認されています。
「Elrexfio」米ファイザー
「Elrexfio」(elranatamab)は、BCMAとCD3に対する二重特異性抗体です。「再発・難治性の多発性骨髄腫(プロテアーゼ阻害薬や免疫調整薬、抗CD38抗体を含む4つ以上の前治療を受けた患者)」の適応で迅速承認を取得。欧州や日本、オーストラリアなどでも申請中です。
「Sohonos」仏イプセン
「Sohonos」(palovarotene)は、進行性骨化性線維異形成症(FOP)の治療に使用されるレチノイド。骨組織が存在しない筋や筋膜などに異常な骨が形成されるのを抑制します。FOP患者は世界に900人いるとされ、うち400人が米国の患者と推定されます。日本でもFOPを対象とするP3試験が進行中です。
「Veopoz」米リジェネロン
抗補体(C5)抗体「Veopoz」(pozelimab)は、CHAPLE症候群(CD55欠損症)治療薬。CHAPLE症候群は補体制御因子CD55遺伝子の変異によるまれな遺伝性疾患で、補体系の過剰な活性化によって致命的な胃腸症状や血管症状を引き起こすことがあります。同疾患のほか、発作性夜間ヘモグロビン尿症や重症筋無力症などで開発が進んでいます。
【適応拡大】RSウイルスワクチン「Abrysvo」の母子免疫など
「Lonsurf」大鵬薬品工業
経口ヌクレオシド系抗がん剤「Lonsurf」(tipiracil hydrochloride/trifluridine)は、切除不能進行・再発大腸がんを対象に抗VEGF抗体bevacizumabとの併用療法が承認。フルオロピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンベースの化学療法、抗VEGF療法、抗EGFR療法(RAS野生型の場合)の治療歴がある患者が対象です。臨床試験ではLonsurf単剤療法と比べて全生存期間を有意に延長しました。欧州でも同適応に対する2剤併用療法が承認されています。
「Gavreto」米ジェネンテック
RET阻害薬「Gavreto」(pralsetinib)は「転移性のRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん」の適応で完全承認を取得。同適応では、114人の患者を対象とする臨床試験の結果をもとに2020年9月に迅速承認を取得していましたが、患者123人の追加データと、効果の持続性を評価する25カ月の追加のフォローアップ調査に基づいて完全承認を取得しました。
「Daxxify」米レバンス
アセチルコリン遊離阻害・神経筋遮断薬「Daxxify」(daxibotulinumtoxina)は、頸部ジストニアに適応拡大。頸部ジストニアは、首の筋肉が無意識に収縮し、頭や首に異常な動きや痛みがみられる慢性疾患で、神経調整薬が第1選択とされます。Daxxifyは最低3カ月ごとに投与する長期持続型の神経調整薬。従来製剤では、8割以上の患者が投与から8~10週後に症状の再発を経験するにもかかわらず12週後まで再投与ができませんでした。
「Ingrezza」米ニューロクライン
VMAT2阻害薬「Ingrezza」(valbenazine tosylate)は、新たにハンチントン病に伴う舞踏運動の適応で承認。ハンチントン病は、脳内の特定のニューロンが失われることで運動症状や認知症状、精神症状を引き起こす疾患で、患者のほとんどに不随意運動障害の舞踏運動が現れます。
「Eylea HD」米リジェネロン
眼科用VEGF阻害薬「Eylea」(aflibercept)に、8mgの高用量製剤「Eylea HD」が承認されました。従来の2mg製剤は維持期で8週ごとの投与なのに対し、8mg製剤は最大16週ごとの投与が可能となることから、患者負担の軽減が期待されます。日本や欧州でも申請中です。
「Abrysvo」米ファイザー
RSウイルスワクチン「Abrysvo」は、乳児のRSウイルスによる下気道疾患の予防を目的に、妊娠32~36週の女性に対する使用が認められました。母子免疫に使用できるRSウイルスワクチンは米国初。臨床試験では、プラセボと比べて重篤な下気道疾患のリスクを減少しました。同ワクチンは米国では高齢者を対象に5月に承認を取得。欧州で近く高齢者と母子免疫を対象に承認される見通しで、日本でも申請中です。
「Reblozyl」米ブリストル
赤血球成熟促進薬「Reblozyl」(luspatercept)は、「赤血球造血刺激因子製剤(ESA)未治療の低・中リスクの骨髄異形成症候群(MDS)患者の貧血」に適応拡大しました。赤血球輸血を必要とする患者が対象。ESAのepoetin alfaを対照とした臨床試験では、ヘモグロビン値の上昇を伴う赤血球輸血非依存性で有意な改善を示しました。日本では今年5月に低リスクのMDSを対象に申請しています。
【バイオシミラー】サンドのnatalizumab
「Tyruko」スイス・サンド
「Tyruko」は、米国で初となる抗α4インテグリン抗体「Tysabri」(natalizumab)のバイオシミラーです。再発寛解型の多発性硬化症に使用できるバイオシミラーは初めて。欧州でも近く承認される見通しです。