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米公的医療保険の薬価交渉、第1弾の対象10品目を公表―「エリキュース」「ジャディアンス」など価格引き下げへ

更新日

ロイター通信

メディケアによる価格交渉の対象となった抗凝固薬「エリキュース」(ロイター)

 

[ロイター]米国のバイデン政権は8月29日、6600万人をカバーする公的医療保険「メディケア」で初の価格交渉の対象となる医薬品10品目のリストを公表した。リストには、大ヒット薬である経口抗凝固薬「エリキュース」(ブリストル・マイヤーズスクイブ/ファイザー)などが含まれる。

 

関連記事:第1弾の対象10品目公表―メディケアの薬価交渉について知っておきたいこと

 

メディケアによる医薬品の価格交渉は、昨年バイデン大統領が署名したインフレ抑制法(IRA)によって可能となった。バイデン氏はこの日、ホワイトハウスのイベントで「今日は患者のための新しいディールの始まりの日だ」と強調。米国人は同じ医薬品に他国の2~3倍の費用を支払っていることをあらためて指摘した。

 

バイデン氏によれば、交渉による価格の引き下げは、処方薬に年間6497ドルの自己負担を支払っている最大900万人の高齢者に恩恵をもたらすという。同氏は、65歳以上を中心とするメディケアの加入者は、すでに価格交渉を行っている退役軍人省に比べて2倍の薬価を支払っていると述べた。

 

価格交渉の対象となった10品目は、
▽抗凝固薬「エリキュース」(ブリストル/ファイザー)
▽同「イグザレルト」(ジョンソン・エンド・ジョンソン)
▽白血病治療薬「イムブルビカ」(アッヴィ)
▽糖尿病治療薬「ジャヌビア」(メルク)
▽同「ジャディアンス」(ベーリンガーインエルハイム/イーライリリー)
▽関節リウマチ治療薬「エンブレル」(ファイザー)
▽乾癬・クローン病・潰瘍性大腸炎治療薬「ステラーラ」(J&J)
▽糖尿病・心不全・腎臓病治療薬「フォシーガ」(アストラゼネカ)
▽心不全治療薬「エンレスト」(ノバルティス)
▽インスリン製剤「フィアスプ/ノボログ」(ノボノルディスク)

 

これら10品目は、2026年の新価格適用に向けた交渉プロセスに入る。米国政府は価格交渉を通じて31年までに年間250億ドルのコスト削減を目指している。米国の法律は従来、約20年前に始まった処方薬制度の一環としてメディケアが医薬品の価格交渉を行うことを禁止していた。

 

メディケアを管轄するメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、22年6月1日から23年5月31日までの1年間で対象10品目に505億ドルを費やした。これは、パートDとして知られるメディケア処方薬プログラムの医薬品の総コストの20%に相当する。

 

ウェルズ・ファーゴのアナリスト、モヒット・バンサル氏は、ジャディアンス、ジャヌビア、フォシーガ、フィアスプ/ノボログの4品目で総額165億ドルの費用が節約できるとし、これによってメディケアの予算が解放され、ほかの糖尿病治療薬や肥満症治療薬をカバーしやすくなる可能性があるとの見方を示した。

 

自社製品が対象品目に選定されたノバルティス、イーライリリー、メルクは、価格交渉がイノベーションを阻害し、医療の質に影響を与えることになると指摘している。アストラゼネカやノボは次のステップを検討していると述べた。

 

ブリストルのジョバンニ・カリフォCEO(最高経営責任者)はインタビューで、エリキュースは新価格適用の2年後(28年)に特許切れを迎えるため、同薬が対象品目に入ったことは同社の長期戦略に影響しないと指摘。一方で「メディケア給付金を管理する保険会社が、ハードルや負担のかかる費用負担なしにこれらの医薬品を患者に提供し続けることを義務付けているわけではない」とし、法律の意図せぬ結果によってアクセスが制限される可能性があると述べた。

 

CMSのディレクター、ミーナ・セシャマニ氏は、メディケアは保険会社が交渉対象の医薬品への臨床的に適切なアクセスを確保できるよう、審査プロセスを用いる予定だと述べた。

 

ブリストル、J&J、メルク、アストラゼネカ、ベーリンガーインゲルハイムは、価格交渉の中止を求めて米国政府を提訴している。

 

BMOキャピタル・マーケッツのアナリスト、エヴァン・セイガーマン氏は、リストには大きな収益を生み出す企業が多く含まれている一方、その多くは26年の新価格適用後間もなく、もしくはそれ以前に後発医薬品やバイオシミラーとの競争に直面し、収益性の低下が予想されると指摘した。2人のアナリストは、交渉によって設定される価格はメディケアの枠を超え、26年には商業市場にも影響を及ぼすと見ている。

 

価格交渉の対象となる最初の10品目は、メディケアが定める一定の基準に基づいて選定された。対象となる医薬品の要件は、薬局で販売され、実質的な後発品との競合がなく、発売から少なくとも9年(バイオ医薬品は13年)が経過していることである。

 

(Patrick Wingrove/Mike Erman/Manas Mishra/Nandita Bose、編集:Caroline Humer/ Bill Berkrot/Chizu Nomiyama、翻訳:AnswersNews)

 

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