2月15日、6月の薬価基準追補収載に向け、後発医薬品22成分81品目が承認されました。後発品が初めて参入するのは14成分(剤形違いや配合剤を含む)ですが、このうち11成分は1社単独の承認で、2成分は2社だけ。参入企業はかなり絞られており、その要因として、安定供給への対応や薬価改定による収益性の低下が指摘されています。一方で1社単独の場合、オーソライズド・ジェネリック(AG)の可能性もあり、実際に薬価収載されるかどうかも含め、市場での切り替えがどこまで進むのか、注目されるところです。
2月承認 初後発14成分中11成分が1社単独
後発品が初めて参入する14成分の中で承認企業数が最も多かったのは、高血圧症治療薬「アジルバ」(一般名・アジルサルタン)で、12社が取得しました。同薬は22年(1~12月)の売上高が薬価ベースで886億円(IQVIA集計)に上る大型品。生活習慣病領域の経口薬だということもあり、後発品メーカー各社の開発ターゲットとなりました。ただ、昨年12月に後発品が薬価収載された消化性潰瘍治療薬「ネキシウム」がそうだったように、大型製品の割に参入企業は多くありません。30社前後が競い合う製品が数多くあった以前の状況とは、明らかに様相が異なっています。
2社が承認取得した抗がん剤「レブラミド」(レナリドミド水和物)は、ブリストル・マイヤーズスクイブの子会社「ブリストル・マイヤーズスクイブ販売」がAGの承認を取得しました。同薬は適正使用のための安全管理体制構築がハードルですが、後発品メーカーとしては唯一、沢井製薬が参戦。500億円近い市場でどこまでシェアを獲得するかが焦点です。
憶測呼ぶジレニア/イムセラ
もう1つの2社承認となった「イムセラ/ジレニア」(フィンゴリモド塩酸塩)の場合は少し入り組んでいます。先発品は田辺三菱製薬(イムセラ)とノバルティス ファーマ(ジレニア)が並売していますが今回、ノバルティスグループのサンドが承認を取得し、AGの可能性が浮上しました。サンドのほかに承認を取得したのは東和薬品ですが、こちらはAGではないことを明言しています。
同薬は田辺三菱が創製したものであり、AGの許諾は通常なら同社が行うはずです。しかし、田辺三菱もサンドもAGか否かについては明らかにしていません。ノバルティスを含む3社の間でどのような合意がなされたのか、さまざまな憶測を呼びそうです。
ノバルティス本社は昨年8月、サンドを切り離すことを発表しており、今後は国内でも別会社としての経営となります。一方、グローバル市場ではノバルティスと田辺三菱の間でジレニアのロイヤルティ支払いを巡って係争に発展。丸4年にわたる仲裁手続きの末、今年2月に国際商業会議所がノバルティスの主張を退け、支払い規定はすべて有効だとの判断を示しました。こうした背景もあって、状況をより複雑にしています。
イムセラ/ジレニアの売上高は合計で薬価ベース80億円程度と大きくありませんが、市場競合よりもむしろ田辺三菱とノバルティスの関係に注目が集まりそうです。
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「安定供給」「毎年改定」「原価高騰」でメーカー慎重に
複数企業が参入したこれら3成分以外は、すべて1社単独となりました。配合剤をはじめ、点眼液、筋注といった投与経路の製品が多いとはいえ、こうしたケースは過去にあまり例を見ません。抗がん剤「フェソロデックス」で承認を取得したのは大原薬品工業ですが、同社は近年、小児がんをはじめとする新薬開発にも注力しています。後発品事業もがん領域を重点に展開しており、ラインアップを強化した形です。AGか否かについては、先発品を販売するアストラゼネカも大原もコメントを控えています。
アストラゼネカはこれまで、特許が切れた抗がん剤4製品について、AGの権利を第一三共エスファに許諾。両社は強固な関係にあると見られていました。しかし、ネキシウムでは後発品が参入する1年以上前に共同販促契約を打ち切り、AGの販売はニプロが行うことになりました。フェソロデックスの後発品は、両社の関係の変化を反映しているのかもしれません。同薬の市場規模は150億円程度とみられています。
キョーリンリメディオは高血圧症/心不全治療薬「セララ」後発品の承認を取得しましたが、AGではなさそうです。ドライアイ治療薬「ムコスタ」、緑内障・高眼圧症治療薬「タプコム」、同「タプロス」の点眼薬も、市場はそれほど大きくないとはいえ単独参入となりました。高脂血症治療薬「アトーゼット」や抗がん剤「タルセバ」も競合はありません。
再編議論活発化
承認企業自体が減少した背景には、厚生労働省による安定供給への要請・指導がありそうです。供給問題を起こした企業に対して新製品の薬価収載見送りを求めるなど、厳しい方針を示したことで各社が慎重に判断した可能性があります。また、供給責任があいまいになるなど批判の多い共同開発で、「親」となる企業が「子」の数を絞っているともいわれます。
後発品メーカーでは従来、取り扱い製品数を増やせば会社の業績も拡大するという相関がありました。しかし近年では、逆に製品を増やすと利益に悪影響を及ぼすことが懸念される状況になっています。薬価毎年改定や製造原価の高騰を踏まえれば、ターゲットを絞らざるを得ないことも現実的にあるようです。もっとも、その結果として1社単独の参入になれば、競合がなく後発品市場を独占することになります。AGの持つ意味合いも変わってくるかもしれません。
後発品メーカーをめぐっては現在、厚労省の有識者検討会で業界再編に向けた議論が活発に行われています。やり玉にあがる共同開発に大きくメスが入ることになれば、さらなるコストの上昇によってビジネスの継続が困難になる企業も出てくるでしょう。後発品業界は今、まさに時代の転換点に立っているといえます。