5月26日、2025年度までの中期経営計画を発表したアステラス製薬。27年に控える抗がん剤「XTANDI」の特許切れにどう対応するのか。新中計では、重点戦略製品の成長などでパテントクリフを克服し、27年度に時価総額7兆円を目指す方針を示しました。
市場からの3つの懸念
「現在、われわれは、アステラスの価値に関して資本市場から3つの懸念を持たれていると認識している」。5月26日、2021~25年度の中期経営計画を発表したアステラス製薬。安川健司社長CEO(最高経営責任者)は同日開いた説明会で、自社に対する株式市場からの評価についてこう切り出しました。同日時点の同社の時価総額は約3.1兆円で、売り上げで上回る中外製薬(約6.9兆円)や第一三共(約5兆円)の後塵を拝しています。
安川氏が挙げた「資本市場からの3つの懸念」は、
(1)抗がん剤「XTANDI」(国内製品名・イクスタンジ)のパテントクリフを埋める製品があるかどうか
(2)パイプラインの価値。特に「フォーカスエリア・アプローチ」から後期開発品が生み出されるかどうか
(3)利益率。特に販売管理費に削減余地はないのか
――。新たな中計は、これらの疑問に答えるものとなっており、安川氏は「25年に描いた姿が実現され、30年に向かって上市が期待できる製品群を示すことができれば、アステラスは市場から時価総額7兆円以上という評価を受けるはずだ」と強調。企業が時価総額を中計の目標に掲げるのは珍しく、それも中計発表直前の水準から約2.3倍とする野心的な目標です。
アステラスの目下の経営課題は、最大の主力製品であるXTANDIの特許切れ。同薬は21年度に世界で5572億円(前年度比21.5%増)の売り上げを見込み、ピークセールスは6000~7000億円に達すると同社は予想していますが、27年の米国を皮切りに、各国で順次、後発医薬品が参入する見通し。今回の中計は、「XTANDIクリフ後」の30年度の売り上げ見通しも示し、特許切れ対策にメドがついていることをアピールするものとなっています。
25年度に売上高1.8兆円超
アステラスが新中計で掲げた数値目標は、
▽XTANDIと重点戦略製品の売り上げを25年度に1.2兆円以上とする
▽フォーカスエリア・アプローチから生まれたプロジェクトの売り上げを30年度に5000億円以上とする
▽コア営業利益率を25年度に30%以上とする
――の3つで、これらを通じて25年度に時価総額7兆円以上を目指すとしています。
中計期間中、売上収益は年平均8%の成長を予想しており、25年度の売上収益は1兆8000億円を超え、コア営業利益は5500億円に達する計算。パテントクリフ後の30年度も、売り上げは25年度と同水準を見込んでいるといいます。
XTANDIの特許切れをカバーするのは、重点戦略製品と位置付ける6品目と、安川氏が18年の社長就任時から推し進めてきたフォーカスエリア・アプローチ由来の製品群です。
重点戦略製品は、▽NK3受容体拮抗薬fezolinetant(対象疾患=閉経に伴う血管運動神経症状)▽抗ネクチン-4抗体薬物複合体「PADCEV」(尿路上皮がん)▽FLT3阻害薬「ゾスパタ」(急性骨髄性白血病)▽抗Claudin 18.2抗体ゾルベツキシマブ(胃腺がん・食道胃接合部腺がん)▽HIF-PH阻害薬「エベレンゾ」(腎性貧血)▽遺伝子治療薬「AT-132」(X連鎖性ミオチュブラーミオパチー)――。ピーク時の世界売上高は、fezolinetantが3000~5000億円、PADCEVが3000~4000億円と大型化を見込んでいます。
「バイオロジー×モダリティ×疾患」の組み合わせで優先的に資源配分する研究開発分野を絞り込むフォーカスエリア・アプローチでは、遺伝子治療やがん免疫の分野で25年度末までに計31のプロジェクトがPoC(プルーフ・オブ・コンセプト)を見極める段階に到達する見通し。事業化にあたって自社に足りないケイパビリティについては、引き続き提携や買収で積極的に獲得していく方針も示しました。
「Rx+」事業化のフェーズへ
株式市場からの第3の懸念として挙げた販管費については、絶対額で20年度と同程度の約3900億円を維持する方針。売り上げの拡大によって販管費率は21%へと20年度から10ポイント圧縮する一方、研究開発費率は20年度並みの19%としつつ、額を1000億円以上増やし、成長分野への開発投資を拡大させます。
医薬品の枠を超えたビジネスの創出を目指す「Rx+」も事業化のフェーズに入ります。新中計の期間中には、運動支援アプリやフィットネスなどのデジタルヘルス・サービス分野で5つ以上のプロジェクトを事業化するほか、米社から導入した糖尿病治療用アプリ「BlueStar」などデジタルセラピューティクスも複数、事業化を予定しています。Rx+ビジネスでは、新中計期間中に損益分岐点に到達することを目指し、30年度には200~500億円規模の収益を期待。30年代にはアステラスの収益を支える屋台骨の1つとしたい考えです。
フォーカスアリア・アプローチにRx+と、前中計の3年間でビジネスの変革に取り組んできたアステラス。安川氏は新中計の説明会で「新しいビジネスモデルを模索する段階に別れを告げ、フォーカスエリア・アプローチによるビジネスモデルを確実に成熟させる」と意気込み、「Rx+もこれまでの事業創成に向けた取り組みが実を結び始める」と強調しました。
新中計には、配当水準を大きく引き上げることも盛り込みました。パテントクリフへの打ち手と株主還元の強化策を示したことで、株価浮揚のきっかけをつかめるか。株式市場からの評価が注目されます。