AnswersNewsが、2020年12月期(一部の日本企業は21年3月期)の世界売上高100億ドル超の製薬会社22社の業績を集計したところ、スイス・ロシュが4年連続で売上高世界一となりました。2位は同ノバルティスで、3位は米メルク。昨年2位の米ファイザーは特許切れ薬事業を切り離したことで8位に後退しました。
ロシュ 5.1%減収も4年連続の首位
コロナ禍に見舞われた2020年、世界の製薬企業で売上高トップとなったのは、スイス・ロシュ。624億600万ドル(約6兆6488億円)を売り上げ、前年から5.1%(公表通貨ベース)の減収となったものの、2017年から続くトップを守りました。2位は486億5900万ドル(前年比2.6%増)の同ノバルティスで、3位は479億9400万ドル(2.5%増)の米メルクでした。
ロシュは血友病治療薬「ヘムライブラ」(23億4300万ドル、58.7%増)や免疫チェックポイント阻害薬「テセントリク」(29億3000万ドル、46.0%増)などが拡大したものの、バイオシミラーの浸透で特許切れ製品の売り上げが54億5700万ドル減少したことが業績に影響しました。
ノバルティスは乾癬治療薬「コセンティクス」(39億9500万ドル、13%増)や心不全治療薬「エンレスト」(24億9700万ドル、45%増)などが好調で、新型コロナウイルスによる需要の落ち込みをカバー。メルクは、免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」が143億8000万ドル(29.7%増)を売り上げ、前年4位から1つ順位を上げました。売上高全体に占める同薬の割合は、前年から6ポイント増え、30%まで上昇しています。
武田はトップ10圏内をキープ
上位3社に続いたのは、昨年5月にアイルランド・アラガンを買収した米アッヴィ。37.7%増の458億400万ドルを売り上げ、前年の8位から4位へと順位を上げました。5位の米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、乾癬・クローン病治療薬「ステラーラ」(77億700万ドル、21.1%増)や多発性骨髄腫治療薬「ダラザレックス」(41億9000万ドル、39.8%増)などが貢献。6位はコンシューマーヘルスケア事業が好調だった英グラクソ・スミスクラインでした。
7位にランクアップした米ブリストル・マイヤーズスクイブは、米セルジーン買収が通年で寄与し、売上高は425億1800万ドルと前年から62.6%増加。買収で獲得した血液がん治療薬「レブラミド」(121億600万ドル、12%増)が業績を牽引しました。
一方、前年2位の米ファイザーは、特許切れ薬事業を分離したことで前年から19.0%の売り上げ減。分離した事業を除いた前年の業績と比較すると2.0%の増収となりますが、順位は8位に後退しました。9位の仏サノフィは、抗IL-4/13受容体抗体「デュピクセント」(40億2900万ドル、70.4%増)が好調だったものの、長期収載品やコンシューマーヘルスケア事業が振るわず、順位を2つ下げています。
武田薬品工業は、潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」(38億6370万ドル、23.6%増)などが牽引し、トップ10圏内をキープ。売上高は2.8%減の287億8000万ドルでした。
[22社の全ランキング]ギリアド、コロナ薬で2ケタ増
トップ10以下の順位は、昨年とほぼ同じ。前年から売り上げを伸ばしたのは、10.0%増の米ギリアド・サイエンシズ(13位)や9.9%増の米イーライリリー(14位)、9.2%増の英アストラゼネカ(11位)など。ギリアドの増収分は、そのほとんどが新型コロナ治療薬「ベクルリー」(28億1100万ドル)によるもので、これを除くと2.6%の減収でした。
リリーも同bamlanivimabの米国売上高8億7100万ドルを計上していますが、糖尿病治療薬「トルリシティ」「ジャディアンス」などが貢献し、bamlanivimabを除いても6.0%の増収となりました。アストラゼネカは、肺がん治療薬「タグリッソ」(43億2800万ドル、36%増)などがん領域が堅調でした。
15位の独ベーリンガーインゲルハイムは、2型糖尿病治療薬「ジャディアンス」と抗線維化薬「オフェブ」が伸長。17位のデンマーク・ノボ ノルディスクも、糖尿病領域の製品が好調でした。
一方、売り上げを落としたのは、6.5%減の米バイオジェン(19位)や4.0%減の独バイエル(16位)など。バイオジェンは、主力の多発性硬化症治療薬が後発医薬品の影響を受けたほか、ロシュに導出している抗CD20抗体プログラムのロイヤリティ収入が減少。バイエルは、眼科や婦人科の領域で新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けました。
米マイランとファイザーの特許切れ薬事業が統合し、昨年11月に発足した米ヴィアトリスは、20年12月期はほぼマイランの売り上げのみを計上しており、119億4600万ドルで21位。武田以外の日本企業では、大塚ホールディングスが128億500万ドル(1.9%増)で20位、アステラス製薬が112億4600万ドルで22位でした。
[研究開発費]ロシュ、メルク、ブリストルが100億ドル超
研究開発費が最も多かったのは前年に引き続きロシュで、その額は前年比1.8%増の139億2000万ドルでした。2位はメルク(135億5800万ドル、37.3%増)。3位のブリストルは、セルジーン買収に伴って81.2%増の111億4300万ドルまで膨らみました。
売上高に対する研究開発費の比率では、29.7%の米バイオジェンがトップ。米メルク(28.2%)やブリストル(26.2%)、リリー(24.8%)なども、売上高の2割以上を研究開発に投じています。
ファイザー、コロナワクチンで5年ぶり首位奪還へ
2021年は、ファイザーが新型コロナウイルスワクチンの供給で売上高705~725億ドル(前年比68.2%~73.0%増)と大躍進し、5年ぶりにロシュから首位を奪還する見込み。同社は、mRNAワクチン「コミナティ」の今年の売上高を約260億ドルと予想しています。
同じくコロナワクチンを販売する米モデルナも、ワクチンの売上高を約192億ドルと予測。同社の20年の売上高は8億340万ドルでしたが、来年のランキングでは世界トップ20に入ってきそうです。ファイザーとコミナティを共同開発する独ビオンテックも、同ワクチンの売上高を約124億ユーロと見込んでおり、モデルナとともにランキングに顔を出す可能性があります。
今年1位のロシュは、バイオシミラーの影響を引き続き受けるものの、1ケタ台前半から半ばの売上高成長を見込んでいます。ノバルティスは1ケタ台前半から半ばの増収となる見通し。メルクは、今年6月に分社化を予定する婦人科領域や特許切れ薬事業、バイオシミラー事業を除き、458~478億ドルの売上高を見込んでいます。
アッヴィはアラガン買収が通年で寄与し、さらに売り上げを拡大する見通し。7~9月に米アレクシオンの買収を控えるアストラゼネカは、買収とコロナワクチンを除いても10%台前半の高成長を予想しています。この影響で、武田はトップ10圏外に後退する見込みです。ヴィアトリスは、旧ファイザーの事業を統合することで、44.0~49.0%増となる172~178億ドルの売り上げを見込んでいます。
(亀田真由)
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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