
2月にも接種開始へ…新型コロナウイルスワクチン 日本国内の開発・準備状況は
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬・ワクチンの開発動向をまとめました。
レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬。コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに抗ウイルス活性を示します。
日本では昨年5月、重症患者を対象に厚生労働省が特例承認。今年1月には添付文書が改訂され、中等症の患者にも投与できるようになりました。ただ、供給量が限られており、当面は重症患者に限定した配分が続く見込み。厚労省は「配分の対象を拡大できるよう、ギリアドと連携しつつ対応していく」としています。
レムデシビルは、プラセボとの比較で入院患者の回復を5日間早めた米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)主導の臨床試験結果をもとに、世界約50カ国で承認されています。一方、WHOが主導した臨床試験の中間結果では、レムデシビルを投与しても患者の入院期間や死亡率にほとんど影響がなかったとされ、WHOは11月20日、レムデシビルの使用を推奨しないとのガイドラインを公表しました。
WHO主導の臨床試験についてギリアドは「臨床医や規制当局は、中間結果の質と信頼性を評価するために必要なデータをまだ入手しておらず、当該データは査読も受けていない」とし、「WHOのガイドラインがNIAID主導の臨床試験のエビデンスを軽視していることを残念に思う」との声明を発表。日本政府も承認を見直す考えはないとの認識を示しています。
デキサメタゾンは重症感染症や間質性肺炎などの治療薬として承認されているステロイド薬。先発医薬品「デカドロン」(日医工)のほか、複数の後発医薬品が販売されています。英国で行われた大規模臨床研究で重症患者の死亡を減少させたと報告され、厚生労働省の「診療の手引き」にレムデシビルとともに標準的な治療法として掲載されています。
英国の臨床研究では、人工呼吸器を装着した患者と酸素投与が必要な患者で死亡率を有意に低下させた一方、酸素投与の必要ない患者では効果が見られませんでした。米NIHのガイドラインでも、人工呼吸器や酸素投与を必要とする患者に対する治療薬として推奨されています。
ファビピラビルは2014年に日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬。新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していませんが、新型インフルエンザに備えて国が備蓄しています。
富士フイルム富山化学は昨年10月、非重篤な肺炎を有する患者を対象に行ったP3の結果に基づき、新型コロナウイルス感染症への適応拡大を申請しましたが、厚生労働省の専門家部会は同12月21日、「現時点で得られたデータから有効性を明確に判断するのは困難」として承認を見送りました。同試験が単盲検で行われたことの影響や、結果の臨床的な意義が議論になっており、現在実施中の臨床試験結果が提出され次第、改めて審議することとしました。
富士フイルム富山化学が申請の根拠としたP3試験は、患者156人を対象に行い、主要評価項目の「症状の軽快かつウイルスの陰性化までの時間」はアビガン群11.9日、プラセボ群14.7日で、アビガンは症状を統計学的に有意に早く改善。安全性上の新たな懸念も認められなかったといいます。
タンパク分解酵素阻害薬ナファモスタットや同カモスタットは、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞内への侵入を阻止する可能性があるとされ、日本では東京大付属病院などでファビピラビルとナファモスタットの併用療法を検討する臨床研究が進行中です。
カモスタットの先発医薬品「フオイパン」を製造販売する小野薬品は、COVID-19患者110人を対象としたP3試験を実施中。ナファモスタットをめぐっては、先発医薬品「フサン」の製造販売元である日医工に、第一三共、東京大、理化学研究所を加えた4者が、共同で吸入製剤の開発を進めており、今年3月までの臨床試験開始を目指しています。
抗IL-6受容体抗体トシリズマブは、サイトカインの一種であるIL-6(インターロイキン-6)の作用を阻害することで炎症を抑える薬剤。COVID-19は重症化すると、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応に重篤な臓器障害を起こすことが知られています。トシリズマブはその免疫抑制作用によって、こうした重症患者を治療できるのではないかと考えられており、国内外で有効性が検証されています。国内では、中外製薬がP3試験を実施中です。
JAK阻害薬バリシチニブは、サイトカインによる刺激を伝えるJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害する薬剤。トシリズマブと同様に、サイトカインストームに対する治療薬として候補に挙がっています。
日本を含む国際共同治験では、レムデシビルと併用することで回復までの期間をレムデシビル単剤に比べて約1日短縮しました。米FDAは昨年11月、この試験結果をもとに、バリシチニブとレムデシビルの併用療法を2歳以上の小児と成人の中等症・重症患者に対する治療法として緊急使用許可を出しています。
腸管糞線虫症と疥癬の治療薬として承認されている駆虫薬イベルメクチン(MSDの「ストロメクトール」)もウイルスの増殖を阻害する可能性があるとされており、北里大がCOVID-19の適応追加を目指した医師主導治験を行っています。HIV感染症治療薬として承認されているネルフィナビル(日本たばこ産業の「ビラセプト」、製造販売は終了)は、長崎大を中心に医師主導治験が進行中。琉球大は今年1月、軽症から中等症の患者に対する抗炎症薬として、痛風治療薬コルヒチンの効果を調べる医師主導治験が行われています。
一方、早い時期から治療薬候補として注目されていた吸入ステロイド薬シクレソニド(帝人ファーマの「オルベスコ」)は、国立国際医療研究センターが行った特定臨床研究で、対症療法群に比べて有意に肺炎の増悪が多かったとの結果が出ました。同センターは「海外で行われている検証的な臨床試験の結果も踏まえて判断する必要があるが、今回の結果からは、無症状・軽症の患者に対するシクレソニドの投与は推奨できない」としています。
米FDAは昨年11月、新型コロナウイルスに対する2つの中和抗体に緊急使用許可を出しました。イーライリリーとアブセラ(カナダ)が開発したバムラニビマブと、米リジェネロンがスイス・ロシュと共同開発したカクテル抗体カシリビマブ/イムデビマブで、いずれも軽症から中等症のハイリスク患者が対象です。カシリビマブ/イムデビマブについては、中外製薬がロシュから日本での開発・販売権を取得しており、今後、国内開発が始まるとみられます。
アストラゼネカは昨年10月から、COVID-19患者に由来する2つの抗体を組み合わせたカクテル抗体「AZD7442」のP3試験を実施中。米国のビル・バイオテクノロジーと提携するグラクソ・スミスクラインも、抗ウイルス抗体「VIR-7831/GSK4182136」がP3試験に入りました。
武田薬品工業は、米CSLベーリングなど血漿分画製剤を手掛ける海外の製薬企業と提携し、原因ウイルスSARS-CoV-2に対する高度免疫グロブリン製剤の開発。昨年10月から、NIAID主導のP3試験が行われています。
独ベーリンガーインゲルハイムは、吸入によって肺に直接送達できる中和抗体の開発を進めていて、昨年末からP1/2試験を行っています。
低分子の抗ウイルス薬の開発も進められています。
米メルクは米リッジバック・バイオセラピューティクスと提携し、抗ウイルス薬「MK-4482」のP2試験を実施中。塩野義製薬は北海道大との共同研究で特定した抗ウイルス薬を開発しています。同社は当初、今年度中の臨床試験開始を目指していましたが、安全性・有効性のさらなる検証が必要と判断し、断念。引き続き研究を進めるとしています。
オンコリスバイオファーマは鹿児島大と契約を結び、同大が見出した抗ウイルス薬の開発に着手。カネカは国立感染症研究所と共同で治療用抗体を開発しており、製薬会社と組んで21年度中に臨床試験を始めたいとしています。ペプチドリームは抗ウイルス作用を持つ特殊ペプチドの開発を進めており、昨年10月に富士通などと開発のための合弁会社を設立。富士通の量子コンピューティング技術などを活用し、開発を加速させるといいます。
ビルは米アルナイラム・ファーマシューティカルズと共同でSARS-CoV-2を標的とするsiRNA核酸医薬も開発しており、開発候補として吸入型のsiRNA「VIR-2703(ALN-COV)」を特定。近く臨床試験に入る見込みです。バイオベンチャーのボナックもCOVID-19向け核酸医薬の研究を進めています。
エーザイは、かつて重症敗血症を対象に開発していたものの、P3試験で主要評価項目を達成できずに開発を中止したTLR4拮抗薬エリトランの臨床試験を開始。試験は、Global Coalition for Adaptive Researchによる国際共同治験「REMAP-COVID」として行われ、米国で開始したあと、日本を含むグローバルへと拡大する予定です。エリトランは、サイトカイン産生の最上流に位置するTLR4(Toll様受容体4)の活性化を阻害する薬剤で、サイトカインストームの抑制を狙います。
イーライリリーは、がんなどを対象に開発中の抗アンジオポエチン2(Ang2)抗体LY3127804について、ARDSを発症するリスクの高いCOVID-19入院患者を対象とするP2試験を開始。Ang2はARDSを呈する患者で増加することがわかっており、試験ではAng2を阻害することでARDSの発症や人工呼吸器の使用を減らせるかどうかを検証しています。
英アストラゼネカは海外で白血病治療薬として承認されているBTK(ブルトン型キナーゼ)阻害薬アカラブルチニブの臨床試験を実施中。このほかにも、糖尿病治療薬のSGLT-2阻害薬ダパグリフロジン(製品名「フォシーガ」)について、米セントルーク・ミッドアメリカ・ハートインスティチュートと臓器不全などの重度の合併症を発症する危険性のある患者を対象としたP3試験を行っています。
武田薬品工業と米アッヴィ、米アムジェンは昨年8月から、武田の遺伝性血管性浮腫治療薬イカチバント(製品名「フィラジル」)とアムジェンの乾癬治療薬アプレミラスト(同「オテズラ)、アッヴィが非アルコール性脂肪肝炎などを対象に開発中のcenicrivirocの3つの薬剤について、重症入院患者を対象とした臨床試験を始めました。
WHOの1月12日時点のまとめによると、現在、臨床試験に入っているCOVID-19ワクチン候補は63種類。このほかに173種類が前臨床の段階にあります。
米ファイザーと独ビオンテックのmRNAワクチンは、昨年12月に英国、米国、欧州などで承認(緊急使用許可や条件付き承認を含む)され、これまでに40カ国以上で承認を得ています。米モデルナのワクチンも昨年12月に米国で緊急使用が認められ、今年1月には欧州でも承認を取得。英アストラゼネカのワクチンは、英国やインドなどで承認を取得していて、1月中に承認される可能性があります。
ロシアは昨年8月、国立ガマレヤ研究所が開発したウイルスベクターワクチン「スプートニクV」を承認。中国は昨年12月末、シノファームの不活化ワクチンを承認しました。インド政府も今年1月、バラート・バイオテクが開発した国産の不活化ワクチンを承認しています。
日本では、昨年12月18日にファイザーが特例承認を求めて申請。政府は2月下旬までに接種を始めたい考えで、承認審査と並行して接種体制の準備を進めています。
ファイザー/ビオンテックとモデルナのワクチンは、いずれも数万人規模で行われた臨床試験で95%前後の予防効果を示しました。英アストラゼネカと同オックスフォード大が共同開発しているウイルスベクターワクチンも、2レジメンの平均で70%の有効性が確認されたとするP3試験の中間解析結果が発表されています。
米ジョンソン・エンド・ジョンソンのウイルスベクターワクチン「JNJ-78436735」や、米ノババックスの組換えタンパクワクチン「NVX-CoV2373」などもP3試験を実施中。J&Jは月内にも最終試験の結果を公表する見込みで、1回接種の同社ワクチンが有効となれば、接種拡大の追い風になると期待されています。
米メルクは、オーストリア・テミスの買収で獲得した麻疹ウイルスベクターワクチンと、IAVI(国際エイズワクチン推進構想)との提携で開発しているウイルスベクターワクチンの臨床試験を実施中です。
サノフィとグラクソ・スミスクラインは、組換えタンパクワクチンのP1/2試験を行っていますが、高齢者での免疫反応が不十分だったとして、抗原の濃度を再調整した上でP2b試験を21年に始める予定。豪クイーンズランド大と米CLSは、初期の臨床試験に入っていたワクチンについて、安全性の問題により開発を中止しました。
日本勢では、大阪大とアンジェスが共同開発するDNAワクチンが国内P2/3試験を実施中。塩野義製薬の組換えタンパクワクチンも昨年12月からP1/2試験を始めており、同社は今春P3試験を始めたい考えです。
KMバイオロジクスの不活化ワクチンは最短で1月中、第一三共のmRNAワクチンとIDファーマのウイルスベクターワクチンは今春の臨床試験開始を予定しています。
国内ではこのほか、アストラゼネカやヤンセンファーマなど初期の臨床試験を実施中。武田薬品は、ノババックスとモデルナのワクチンを日本で供給する予定です。
(前田雄樹)
(公開:2020年2月28日/最終更新:2021年1月15日)
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