新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】(4月2日UPDATE)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬・ワクチンの開発動向をまとめました。
治療薬
国内で使用されている主な薬剤
レムデシビル(米ギリアド)
レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬。コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに抗ウイルス活性を示します。
日本では昨年5月、重症患者を対象に厚生労働省が特例承認。今年1月には添付文書が改訂され、中等症の患者にも投与できるようになりました。
レムデシビルは、プラセボとの比較で入院患者の回復を5日間早めた米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)主導の臨床試験結果をもとに、世界約50カ国で承認されています。一方、WHOが主導した臨床試験の中間結果では、レムデシビルを投与しても患者の入院期間や死亡率にほとんど影響がなかったとされ、WHOは昨年11月20日、レムデシビルの使用を推奨しないとのガイドラインを公表しました。
WHO主導の臨床試験についてギリアドは、NIAID主導の臨床試験の厳密さを強調し、「WHOのガイドラインがNIAID主導の臨床試験のエビデンスを軽視していることを残念に思う」との声明を発表。日本政府も承認を見直す考えはないとの認識を示しています。
デキサメタゾン(日医工など)
デキサメタゾンは重症感染症や間質性肺炎などの治療薬として承認されているステロイド薬。先発医薬品「デカドロン」(日医工)のほか、複数の後発医薬品が販売されています。英国で行われた大規模臨床研究で重症患者の死亡を減少させたと報告され、厚生労働省の「診療の手引き」にレムデシビルとともに標準的な治療法として掲載されています。
英国の臨床研究では、人工呼吸器を装着した患者と酸素投与が必要な患者で死亡率を有意に低下させた一方、酸素投与の必要ない患者では効果が見られませんでした。米NIHのガイドラインでも、人工呼吸器や酸素投与を必要とする患者に対する治療薬として推奨されています。
ナファモスタット(日医工など)/カモスタット(小野薬品工業など)
タンパク分解酵素阻害薬ナファモスタットや同カモスタットは、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞内への侵入を阻止する可能性があるとされ、日本では東京大付属病院などでファビピラビルとナファモスタットの併用療法を検討する臨床研究が進行中です。
カモスタットの先発医薬品「フオイパン」を製造販売する小野薬品は、COVID-19患者110人を対象としたP3試験を実施中。ナファモスタットをめぐっては、先発医薬品「フサン」の製造販売元である日医工に、第一三共、東京大、理化学研究所を加えた4者が、共同で吸入製剤の開発を進めており、3月から第一三共が国内でP1/2試験を行っています。
トシリズマブ(中外製薬)
抗IL-6受容体抗体トシリズマブは、サイトカインの一種であるIL-6(インターロイキン-6)の作用を阻害することで炎症を抑える薬剤。COVID-19は重症化すると、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応に重篤な臓器障害を起こすことが知られています。トシリズマブはその免疫抑制作用によって、こうした重症患者を治療できるのではないかと考えられており、国内外で有効性が検証されています。
中外製薬が国内で行った単群P3試験では、参加した重症COVI-19肺炎入院患者48人のうち35人が退院または退院待機状態となり、5人が死亡。7段階の重症度評価が1段階以上改善した患者は39人、1段階以上悪化した患者は6人でした。中外は同試験の結果と海外の臨床試験結果を踏まえ、厚生労働省と申請について協議するとしています。
ファビピラビル(富士フイルム富山化学)
ファビピラビルは2014年に日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬。新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していませんが、新型インフルエンザに備えて国が備蓄しています。
富士フイルム富山化学は昨年10月、非重篤な肺炎を有する患者を対象に行ったP3の結果に基づき、新型コロナウイルス感染症への適応拡大を申請しましたが、厚生労働省の専門家部会は同12月21日、「現時点で得られたデータから有効性を明確に判断するのは困難」として承認を見送りました。同試験が単盲検で行われたことの影響や、結果の臨床的な意義が議論になっており、現在実施中の臨床試験結果が提出され次第、改めて審議することとしました。
富士フイルム富山化学が申請の根拠としたP3試験は、患者156人を対象に行い、主要評価項目の「症状の軽快かつウイルスの陰性化までの時間」はアビガン群11.9日、プラセボ群14.7日で、アビガンは症状を統計学的に有意に早く改善。安全性上の新たな懸念も認められなかったといいます。
バリシチニブ(米イーライリリー)
JAK阻害薬バリシチニブは、サイトカインによる刺激を伝えるJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害する薬剤。トシリズマブと同様に、サイトカインストームに対する治療薬として候補に挙がっています。
日本を含む国際共同治験では、レムデシビルと併用することで回復までの期間をレムデシビル単剤に比べて約1日短縮しました。米FDAは昨年11月、この試験結果をもとに、バリシチニブとレムデシビルの併用療法を2歳以上の小児と成人の中等症・重症患者に対する治療法として緊急使用許可を出しています。
その他
腸管糞線虫症と疥癬の治療薬として承認されている駆虫薬イベルメクチン(MSDの「ストロメクトール」)もウイルスの増殖を阻害する可能性があるとされており、北里大がCOVID-19の適応追加を目指した医師主導治験を行っています。HIV感染症治療薬として承認されているネルフィナビル(日本たばこ産業の「ビラセプト」、製造販売は終了)は、長崎大を中心に医師主導治験が進行中。琉球大は今年1月から、軽症から中等症の患者に対する抗炎症薬として、痛風治療薬コルヒチンの効果を調べる医師主導治験を行っています。
一方、早い時期から治療薬候補として注目されていた吸入ステロイド薬シクレソニド(帝人ファーマの「オルベスコ」)は、国立国際医療研究センターが行った特定臨床研究で、対症療法群に比べて有意に肺炎の増悪が多かったとの結果が出ました。同センターは「海外で行われている検証的な臨床試験の結果も踏まえて判断する必要があるが、今回の結果からは、無症状・軽症の患者に対するシクレソニドの投与は推奨できない」としています。
開発中の主な薬剤
中和抗体
ウイルスの細胞への感染を阻害する中和抗体は、すでに米国で実用化されています。米FDAは昨年11月、イーライリリーとアブセラ(カナダ)が開発したバムラニビマブと、米リジェネロンがスイス・ロシュと共同開発したカクテル抗体カシリビマブ/イムデビマブに緊急使用許可を出しました。今年2月には、バムラニビマブにエテセビマブを併用する新たな治療法の使用も認められています。
カシリビマブ/イムデビマブについては、中外製薬がロシュから日本での開発・販売権を取得しており、今後、国内開発が始まるとみられます。
英グラクソ・スミスクラインと米ビル・バイオテクノロジーは3月10日、共同開発している抗ウイルス抗体「VIR-7831」のP3試験で、独立データモニタリング委員会が有効中止を勧告したと発表。重症化リスクの高い軽症から中等症の患者に同薬を単剤投与したところ、プラセボに比べて入院・死亡のリスクが85%低下しました。両社は試験結果に基づき、米国で緊急使用許可の申請を行うとともに、ほかの国でも承認申請を行うことにしています。
アストラゼネカは昨年10月から、COVID-19患者に由来する2つの抗体を組み合わせたカクテル抗体「AZD7442」のP3試験を行っています。今年3月には、国際共同治験に参加する形で日本でもP3試験が始まりました。武田薬品工業は、米CSLベーリングなど血漿分画製剤を手掛ける海外の製薬企業と提携し、原因ウイルスSARS-CoV-2に対する高度免疫グロブリン製剤を開発。昨年10月から、NIAIDの主導でP3試験が行われています。
独ベーリンガーインゲルハイムは、吸入によって肺に直接送達できる中和抗体の開発を進めていて、昨年末からP1/2試験を行っています。
抗ウイルス薬ほか
低分子の抗ウイルス薬の開発も進められています。
米メルクは米リッジバック・バイオセラピューティクスと提携し、抗ウイルス薬「MK-4482」のP2試験を実施中。米ファイザーは、経口のプロテアーゼ阻害薬「PF-07321332」と静脈内投与の同「PF-07304814」のP1試験を行っています。ロシュは米アテアと、ウイルスRNAポリメーラーゼを阻害する作用を持つ経口の抗ウイルス薬を開発しており、軽症から中等症の患者を対象にP2試験を実施中。中外はロシュから日本での開発・販売権を取得し、日本での開発を進めます。
塩野義制約は、北海道大との共同研究で特定した抗ウイルス薬の研究を進めています。オンコリスバイオファーマは鹿児島大と契約を結び、同大が見出した抗ウイルス薬の開発中。カネカは国立感染症研究所と共同で治療用抗体を開発しており、製薬会社と組んで21年度中に臨床試験を始めたいとしています。ペプチドリームは抗ウイルス作用を持つ特殊ペプチドの開発を進めており、昨年10月に富士通などと開発のための合弁会社を設立。富士通の量子コンピューティング技術などを活用し、開発を加速させるといいます。
ビルは米アルナイラム・ファーマシューティカルズと共同でSARS-CoV-2を標的とするsiRNA核酸医薬も開発しており、開発候補として吸入型のsiRNA「VIR-2703(ALN-COV)」を特定。近く臨床試験に入る見込みです。バイオベンチャーのボナックもCOVID-19向け核酸医薬の研究を進めています。
重症患者に対する治療薬
エーザイは、かつて重症敗血症を対象に開発していたものの、P3試験で主要評価項目を達成できずに開発を中止したTLR4拮抗薬エリトランの臨床試験を開始。試験は、Global Coalition for Adaptive Researchによる国際共同治験「REMAP-COVID」として行われ、米国で開始したあと、日本を含むグローバルへと拡大する予定です。エリトランは、サイトカイン産生の最上流に位置するTLR4(Toll様受容体4)の活性化を阻害する薬剤で、サイトカインストームの抑制を狙います。
塩野義製薬は、アレルギー性鼻炎を対象に開発していたDP1受容体拮抗薬「S-555739」について、COVID-19の重症化を抑制する薬剤として、米バイオエイジに導出する契約を締結。同社は今年上半期中にP2試験を開始する計画です。
ワクチン
WHOの3月30日時点のまとめによると、現在、臨床試験に入っているCOVID-19ワクチン候補は84種類。このほかに184種類が前臨床の段階にあります。
各国で接種開始
米ファイザーと独ビオンテックのmRNAワクチンは、昨年12月に英国、米国、欧州などで承認(緊急使用許可や条件付き承認を含む)され、これまでに40カ国以上で承認を得ています。米モデルナのワクチンも昨年12月に米国で緊急使用が認められ、今年1月には欧州でも承認を取得。英アストラゼネカのワクチンは、英国やインド、欧州などで承認を取得しています。
ロシアは昨年8月、国立ガマレヤ研究所が開発したウイルスベクターワクチン「スプートニクV」を承認しました。中国は昨年12月末、シノファームの不活化ワクチンを、今年2月にシノバックの同ワクチンを承認。シノバックのワクチンはチリやインドネシアでも緊急使用が認められています。インド政府も今年1月、バラート・バイオテクが開発した国産の不活化ワクチンを承認しました。
今年2月には、米ジョンソン・エンド・ジョンソンのウイルスベクターワクチンが米国で緊急使用許可を取得しました。同社のワクチンは1回接種で85%の重症化予防効果を示した上、通常の冷蔵庫の温度で最大3カ月間保存が可能。接種拡大の追い風になると期待されています。
日本では、2月14日にファイザーとビオンテックのワクチンが特例承認を取得。同17日から医療従事者への接種が始まりました。2月5日にはアストラゼネカが、3月5日にはモデルナのワクチンを日本で供給する武田薬品が、それぞれ承認申請を行っており、5月にも承認される見込みです。
ファイザー/ビオンテックとモデルナのワクチンは、いずれも数万人規模で行われた臨床試験で95%前後の予防効果を示しました。英アストラゼネカと同オックスフォード大が共同開発しているウイルスベクターワクチンも、2レジメンの平均で70%の有効性が確認されたとするP3試験の中間解析結果が発表されています。
GSKと独キュアバックは、複数の変異株に対応できる多価mRNAワクチンの共同開発で提携。来年の実用化を目指し、開発を始めます。モデルナやファイザー/ビオンテックも、変異株に対応した新たなワクチンの開発を進めています。
組換えタンパクワクチンを共同開発しているサノフィとGSKは、昨年行ったP1/2試験で高齢者で十分な免疫反応が得られなかったとし、抗原を改良した上で今年2月に新たなP2試験を開始。順調にいけば今年4~6月にP3試験に入り、10~12月の実用化が見込まれるといいます。
豪クイーンズランド大と米CLSは、初期の臨床試験に入っていたワクチンについて、安全性の問題により開発を中止。米メルクは、オーストリア・テミスの買収で獲得した麻疹ウイルスベクターワクチンなど2つのワクチンの臨床試験を行っていましたが、ほかのワクチンに比べて免疫反応が劣っていたとして開発を中止しました。
国産ワクチンは
日本勢では、大阪大とアンジェスが共同開発するDNAワクチンが国内P2/3試験を実施中。塩野義製薬の組換えタンパクワクチンも昨年12月からP1/2試験を行っています。第一三共のmRNAワクチンとKMバイオロジクスの不活化ワクチンも、今年3月からP1/2試験を始めました。
IDファーマは、センダイウイルスをベクターに使ったワクチンの臨床試験を計画。国内ではこのほか、阪大微生物病研究会などが開発する不活化ワクチンや組換えタンパクワクチンも前臨床の段階にあります。
(前田雄樹)
(公開:2020年2月28日/最終更新:2021年4月2日)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
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