初の「中間年改定」として4月に行われる2021年度薬価改定が、3月5日に告示されました。改定の概要を詳報します。
医療費ベースで1%程度の引き下げ
厚生労働省は3月5日、今年4月1日に行う2021年度薬価改定を官報告示しました。改定の対象は、昨年9月取引分を対象に行われた薬価調査で乖離率が平均(8.0%)の0.625倍にあたる5.0%を超えた品目で、薬価収載されている全医薬品の69%に相当する1万2180品目が対象となりました。
厚生労働省は改定率を明らかにしていませんが、政府は今回の改定で4300億円の医療費削減を見込んでいます。直近の国民医療費は約43.4兆円(18年度)で、これにあてはめると医療費ベースで1%程度の薬価引き下げとなる計算です。
長期収載品と後発品は8割超が対象
改定の対象品目をカテゴリ別に見ると、新薬(後発医薬品のない先発医薬品)は59%(うち新薬創出・適応外薬解消等促進加算品は40%)の一方、長期収載品は88%、後発品は83%に上ります。新薬を多く抱える企業では比較的影響が小さく、長期収載品に収益を頼る企業や後発品メーカーは大きな影響を受けることになります。
今回の中間年改定では、市場実勢価格に基づく引き下げと、実勢価改定と連動してその影響を補正する▽新薬創出加算(加算のみ)▽基礎的医薬品▽最低薬価▽後発品の価格帯集約――の各ルールを適用。一方、▽新薬創出加算の累積加算額の控除▽市場拡大再算定などの再算定▽後発品への置き換え率に応じた長期収載品の引き下げ(いわゆる「Z2」)▽後発品薬価を基準とした長期収載品の引き下げ(いわゆる「G1」「G2」)――は行われません。
新薬創出加算は351成分 最多は27成分のノバルティス
21年度改定で新薬創出加算を受けるのは351成分593品目で、前回の20年度改定から16成分38品目増加しました。
新たに加算の対象となったのは、▽抗がん剤「ゼジューラ」(武田薬品工業)▽同「アキャルックス」(楽天メディカルジャパン)▽同「ステボロニン」(ステラファーマ)▽同「エンハーツ」(第一三共)▽糖尿病治療薬「リベルサス」(ノボノルディスクファーマ)▽視神経脊髄炎スペクトラム障害治療薬「エンスプリング」(中外製薬)――など。
一方、▽疼痛治療薬「リリカ」(ヴィアトリス製薬)▽認知症治療薬「メマリー」(第一三共)▽高脂血症治療薬「ゼチーア」(MSD)▽骨粗鬆症治療薬「エディロール」(中外製薬)――などは、後発品が発売されたことで加算の対象から外れました。これら品目の累積加算額の返還は、来年4月の通常の薬価改定で行われます。
新薬創出加算の対象品目を持つ企業は87社で、前回改定から3社増加。加算を満額受けられる「区分I」は21社(前回と同数)、加算が1割減となる「区分II」は58社(前回から3社増)、2割減となる「区分III」は8社(前回と同数)となりました。
加算品を最も多く持つのは27成分49品目のノバルティスファーマで、2位は21品目32成分のヤンセンファーマ、3位は20成分28品目のサノフィでした。上位10社のうち7社を外資系企業が占め、日本企業でランクインしたのは、武田薬品工業(4位)、第一三共(9位)、小野薬品工業(10位)の3社でした。
G1ルールで初の撤退
医療上不可欠な「基礎的医薬品」の薬価を維持するルールは、306成分823品目に適用。成分数は前回改定と同数でした。従来3つだった後発品の価格帯は、属する価格帯が変わることで改定前より薬価が上がることを防ぐルールが前回改定で導入されたことにより、最大7つにまで増加しました。
今回の改定では、いわゆる「G1」ルールに基づいて市場から撤退する長期収載品が出ました。G1は、後発品への置き換え率が80%以上の長期収載品について、6年かけて薬価を後発品と同じ価格まで引き下げるルール。このルールの対象となった長期収載品は、後発品メーカーが増産体制を構築することを条件に、市場から撤退することが認められます。
今回、撤退を予定していることが明らかにされた長期収載品は2成分。後発品メーカーが増産体制を確保するため、撤退にはG1適用開始から6年間の猶予期間が設けられていますが、増産体制が確保されればそれより前に撤退することも可能となっています。
(前田雄樹)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
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