2020年8月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】抗BCMA ADC「Blenrep」やNMOSD治療薬「Enspryng」など
「Blenrep」英グラクソ・スミスクライン
抗BCMA(B細胞成熟抗原)抗体薬物複合体(ADC)「Blenrep」(belantamab mafodotin)は、再発・難治性の多発性骨髄腫治療薬。抗CD38抗体やプロテアソーム阻害薬、免疫調整薬を含む4つ以上の治療を受けた患者に使用されます。骨髄腫細胞の表面に発現するタンパク質BCMAを対象とする初の治療薬。欧州でも今年8月に承認されており、日本では臨床第3相(P3)試験を行っています。
「Lampit」独バイエル
「Lampit」(nifurtimox)は、原虫トリパノソーマ・クルージによる感染症であるシャーガス病治療薬。対象は、体重2.5kg以上の0歳~18歳までの患者です。錠剤は水に分散するように作られており、錠剤を飲み込むのが難しい患者にも使用できます。
「Olinvyk」米トレベナ
「Olinvyk」(oliceridine)は新規のオピオイドアゴニスト。オピオイドの静脈内注射を必要とするほど激しく、代替療法のない急性疼痛の治療に使用されます。米国ではオピオイドの乱用が問題となっており、同薬も厳格な管理の下で使用されます。
「Evrysdi」米ジェネンテック
脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬「Evrysdi」(risdiplam)は、低分子のスプライシング修飾薬。SMA治療薬としては、17年のアンチセンス核酸医薬「Spinraza」、19年の遺伝子治療薬「Zolgensma」に続く承認で、経口薬は初めて。ブラジルや中国、ロシアなどでも申請を済ませており、日本では中外製薬がP2/3試験を実施中です。
「Viltepso」日本新薬
「Viltepso」(viltolarsen)は、日本新薬と国立精神・神経医療研究センターが共同で創製したアンチセンス核酸医薬。適応は「エクソン53スキッピングにより治療可能なジストロフィン遺伝子の変異が確認されているデュシェンヌ型筋ジストロフィー」で、国内では「ビルテプソ」の製品名で今年5月に発売しました。現在、承認後の検証試験として国際共同P3試験が行われています。
「Enspryng」米ジェネンテック
視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)治療薬「Enspryng」(satralizumab)は、中外製薬創製の抗IL-6受容体リサイクリング抗体。抗アクアポリン4抗体陽性の患者が対象です。4週1回の皮下投与剤で、米国では自己注射による在宅治療が可能となります。日本では8月末に発売。欧州でも申請中です。
「Cystadrops」伊レコルダティ・レア・ディジーズ
「Cystadrops」(cysteamine)は、遺伝性疾患のシスチン症患者の角膜シスチン結晶沈着物を治療する粘性点眼液。承認のもととなった臨床試験では、1日4回の点眼でシスチン結晶沈着を有意に減らしました。
「Winlevi」伊カシオペア
尋常性ざ瘡(にきび)治療薬「Winlevi」(clascoterone)は、12歳以上の患者に使用できるクリーム製剤。皮脂を生成して炎症を引き起こすアンドロゲン受容体の働きを阻害します。にきび治療薬としては約40年ぶりの新規作用機序を持つ薬剤です。伊カシオペアは現在、男性型脱毛症(男性・女性)を対象にclascoterone液剤のP2試験を実施中です。
「Sogroya」デンマーク・ノボ ノルディスク
「Sogroya」(somapacitan)は、長時間作用型の週1回投与ヒト成長ホルモン。成人の成長ホルモン分泌不全症に対する補充療法に使用される薬剤で、従来は毎日投与する必要がありました。日本と欧州でも申請中で、小児対象のP3試験がグローバルで行われています。
リキッドバイオプシー検査も承認
米国では8月、血液検体を利用したがん遺伝子パネル検査が2つ承認されました。腫瘍組織の採取が難しい患者にも遺伝子解析ができるようになると期待されています。
1つは、リキッドバイオプシー検査と次世代シーケンス(NGS)を組み合わせた「Guardant360 CDx」(米ガーダントヘルス)。固形がんの遺伝子パネル検査に使用できるほか、コンパニオン診断としては非小細胞肺がん治療薬「Tagrisso」使用のためのEGFR変異の検出に使用されます。
2つ目は、米ファウンデーションメディシンの固形がん向けリキッドバイオプシー検査「FoundationOne Liquid CDx」です。非小細胞肺がん治療薬のTagrissoと「Iressa」、「Tarceva」、転移性去勢抵抗性前立腺がん治療薬「Rubraca」のコンパニオン診断としても使用できます。日本では中外製薬が申請中です。
【適応拡大】多発性骨髄腫対象の「Darzalex」と「Kyprolis」の3剤併用療法など
「Dovato」英ヴィーブヘルスケア
抗HIV薬「Dovato」(dolutegravir/lamivudine)は、新たに抗レトロウイルス療法によりウイルス抑制が維持されている成人HIV-1感染患者に使用できるようになりました。これまでは治療歴のない患者にのみ処方可能でした。欧州でも2つの適応で承認されています。
「Xeomin」独メルツ
A型ボツリヌス毒素製剤「Xeomin」(incobotulinumtoxina)は、上肢痙縮の適応で対象を小児に拡大しました。脳性麻痺によるものは対象外。日本では導出先の帝人ファーマが今年6月に成人の上肢痙縮の適応で承認を取得しました。
「Kesimpta」スイス・ノバルティス
抗CD20抗体「Kesimpta」(ofatumumab)は、新たに再発型の多発性硬化症に対するB細胞療法として承認されました。同薬は自己注射ペン剤で、従来のB細胞療法と異なり毎月1回の投与を自宅で行えるようになります。日本では多発性硬化症を対象にP3試験を実施中です。
「Darzalex」+「Kyprolis」米ヤンセン/米アムジェン
米ヤンセンの抗CD38抗体「Darzalex」(daratumumab)と米アムジェンのプロテアソーム阻害薬「Kyprolis」(carfilzomib)は、再発・難治性の多発性骨髄腫を対象にデキサメタゾンとの3剤併用療法が承認されました。対象は1~3回の治療歴のある患者。日本では同じ3剤併用療法で今年3月に適応拡大の申請を済ませています。
(亀田真由)