2020年6月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】Perjeta/Herceptinの配合剤「Phesgo」や ADHD治療アプリ「EndeavorRx」など
「Uplizna」米ビエラ・バイオ
抗CD19抗体「Uplizna」(inebilizumab)は、抗アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)治療薬。維持期には年2回の投与で済むのが特徴で、昨年承認された2週1回投与の「Soliris」(米アレクシオン)との差別化を図ります。日本では、導出先の田辺三菱製薬が6月に申請を行いました。
「Tivicay PD」英ヴィーブヘルスケア
「Tivicay PD」は、抗HIV薬dolutegravirの経口懸濁用の分散性錠剤で、他の抗レトロウイルス薬との併用で4週齢以降/体重3kg以上の小児に使用されます。dolutegravirはこれまで、小児では6歳以上/体重30kg以上の患者にしか使用できませんでしたが、新製剤の承認で対象が拡大。あわせて、フィルムコート錠が体重20kg以上の小児に使用できるようになりました。
「Zepzelca」アイルランド・ジャズ
「Zepzelca」(lurbinectedin)は、プラチナ製剤治療以降に進行した転移性小細胞肺がんに対する治療薬です。スペイン・ファーママーが開発した海洋産物由来の細胞傷害性抗がん剤で、ジャズは今年1月に同薬の販売権を獲得。日本では、ファーママーが開発を進めており、開発と販売で中外製薬と提携しています。
「Lyumjev」米イーライリリー
糖尿病治療薬「Lyumjev」(insulin lispro)は新規の超速効型インスリン製剤。健康な人のインスリン分泌により近いインスリン動態の再現を目指して開発され、臨床試験ではリリーの同「Humalog」より速やかなインスリン作用の発現・消失を示しました。日本や欧州では今年3月に承認。同6月には「ルムジェブ」の製品名で世界に先駆けて日本で発売されました。
「Gimoti」米イヴォーク
metoclopramideの鼻腔内噴霧製剤「Gimoti」は、急性・再発の糖尿病性胃不全麻痺治療薬。従来の経口薬では、嘔吐など疾患特有の症状が原因で有効成分の吸収が不安定でしたが、経鼻製剤のGimotiは消化管を通らないため治療の予測が立てやすくなるといいます。
「EndeavorRx」米アキリ
「EndeavorRx」は小児(8~12歳)の注意欠如・多動症(ADHD)の不注意症状を改善する治療用アプリ。世界で初めて承認されたスマートフォン・タブレット上で操作するゲーム形式のアプリで、薬物療法や心理社会的療法と併用します。日本では導出先の塩野義製薬がP2試験を実施中です。
「Fintepla」米ゾゲニクス
食欲抑制薬のfenfluramineを有効成分とする「Fintepla」は、ドラベ症候群の発作を抑制します。ドラベ症候群は乳幼児期に発症する難治性のてんかん。承認のもととなった臨床試験では、プラセボと比べて発作の頻度を有意に改善しました。
「Phesgo」米ジェネンテック
HER2陽性乳がん治療薬「Phesgo」(pertuzumab/trastuzumab/hyaluronidase)は、米ハロザイム・セラピューティクスのドラッグデリバリーシステム(DDS)を使って開発された「Perjeta」と「Herceptin」の固定用量配合剤です。pertuzumabとtrastuzumabが別々にHER2受容体と結合することでがん細胞の増殖・生存を抑制。投与が数分で済む皮下注製剤なので、静注剤の「Perjeta」と「Herceptin」を併用するのに比べて投与時間を大幅に短縮できると期待されます。
「Dojolvi」米ウルトラジェニクス
中鎖トリグリセリド「Dojolvi」(triheptanoin)は、長鎖脂肪酸代謝異常症(LC-FAOD)患者のカロリーや脂肪酸の供給源として使用されます。LC-FAODは、長鎖脂肪酸を身体の中でエネルギーに変換できなくなる遺伝性疾患。同疾患に対する治療薬は米国初です。
【適応拡大】「Crysvita」の腫瘍性骨軟化症、「Bavencio」の尿路上皮がんなど
「Inlyta」米ファイザー
腎細胞がん治療薬「Inlyta」(axitinib)は、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-L1抗体avelumabまたは抗PD-1抗体pembrolizumabのいずれかとの併用で、新たにファーストラインで使用できるようになりました。これまではセカンドライン以降での単剤療法のみでした。
「Recarbrio」米メルク
抗菌薬「Recarbrio」(cilastatin/imipenem/relebactam)は、グラム陰性菌による院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎に適応拡大。薬剤耐性を防ぐため、特定のグラム陰性菌が原因だとわかるか、強く疑われる患者にのみ使用できます。同薬は欧州で今年2月に承認。日本では細菌感染症の適応でP3試験を行っています。
「Opdivo」米ブリストル・マイヤーズスクイブ
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体「Opdivo」(nivolumab)は、切除不能な進行、再発または転移性の食道扁平上皮がんに適応拡大。フルオロピリミジン系抗がん剤かプラチナ製剤での治療歴のある患者が対象で、PD-L1の発現度合いにかかわらず使用できます。日本でも今年2月に食道がんへの適応拡大が承認されました。
「Ilaris」スイス・ノバルティス
抗IL-1β抗体「Ilaris」(canakinumab)は成人発症スチル病に適応拡大しました。同適応でFDAから承認を受けた治療薬は初めて。同薬は周期性症候群や全身型若年性特発性関節炎などを対象に世界各国で承認されており、現在、日本を含むグローバルで非小細胞肺がんのP3試験が行われています。
「Cosentyx」スイス・ノバルティス
抗IL-17A抗体「Cosentyx」(secukinumab)は、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)に適応拡大。乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎に続く4つ目の適応です。nr-axSpAの適応では欧州で今年4月に承認されており、日本でも適応拡大の申請を済ませています。
「Keytruda」米メルク
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体「Keytruda」(pembrolizumab)は、▽切除不能または転移性の高TMB固形がん▽再発または転移性の皮膚扁平上皮がん▽切除不能または転移性の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)/ミスマッチ修復機構欠損(dMMR)大腸がん(ファーストライン)――が新たに承認。いずれも単剤療法です。
高TMB固形がんは、がん種によらないバイオマーカーに基づく適応としてはMSI-Highがんに続いて2つ目。FDAは同適応のコンパニオン診断としてFoundationOneCDxも承認しました。大腸がんの適応ではオーストラリア、カナダ、スイスでも審査が行われています。
「Crysvita」米ウルトラジェニクス
協和キリン創製の抗FGF23抗体「Crysvita」(burosumab)は、腫瘍性骨軟化症に適応拡大。腫瘍性骨軟化症に関連する腫瘍は、リン酸レベルを低下させるペプチドホルモンFGF23を放出すると知られています。米国ではX染色体連鎖性低リン血症に続く2つ目の適応です。日本では昨年12月に協和キリンが発売。腫瘍性骨軟化症/表皮母斑症候群の適応でP2試験を実施中です。
「Tazverik」米エピザイム
EZH2阻害薬「Tazverik」(tazemetostat)は、新たに再発・難治性の濾胞性リンパ腫の適応で承認。少なくとも2つの全身治療を受けたEZH2変異陽性の患者と、他の治療選択肢のない患者が対象です。EHZ2は発がんプロセスに関わっていると考えられているエピジェネティック関連酵素。日本では導出先のエーザイがB細胞性非ホジキンリンパ腫を対象にP2試験を行っています。
「Xpovio」米カリオファーム
経口選択的核外輸送タンパク質阻害薬「Xpovio」(selinexor)は、再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(サードライン以降)に適応拡大しました。同薬は昨年、米国で多発性骨髄腫治療薬として発売。日本ではライセンスを導入した小野薬品工業が多発性骨髄腫と非ホジキンリンパ腫を対象にP1試験を行っていましたが、戦略上の理由で開発を中止しました。
「Bavencio」米ファイザー
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-L1抗体「Bavencio」(avelumab)は、新たに局所進行または転移性の尿路上皮がんに対するファーストラインの維持療法として承認。臨床試験では全生存期間(OS)の中央値を標準治療に対して有意に延長しました。日本でも今年5月に同適応で申請しています。
「Gardasil9」米メルク
9価HPVワクチン「Gardasil9」は、HPV16/18/31/33/45/52/58型による中咽頭がん、頭頸部がんの予防に適応拡大。中咽頭がんは、米国では子宮頸がんより一般的なHPV関連がんで、男性患者は女性の5倍に及ぶといいます。日本では今年5月、厚生労働省薬事・食品衛生審議会が申請から5年越しに同薬の承認を了承。近く子宮頸がん予防ワクチンとして承認される見通しです。
【バイオシミラー】ファイザーのpegfilgrastim、マイランのinsulin glargine
「Nyvepria」米ファイザー
持続型G-CSF製剤「Nyvepria」(pegfilgrastim)は、米アムジェンの「Neulasta」のバイオシミラーとして承認されました。適応は「発熱性好中球減少症に伴う感染症の発症抑制」で、骨髄抑制性の抗がん剤治療を受けている患者が対象。米国で承認されたNeulastaのバイオシミラーは4剤目です。
「Semglee」米マイラン
糖尿病治療薬「Semglee」は、仏サノフィの「Lantus」(insulin glargine)のバイオシミラー。米マイランとインド・バイオコン子会社が共同開発したもので、バイアル製剤とペン製剤が承認されました。これまでFDAは、後続インスリン製剤を新薬として審査してきましたが、今年から規制を変更。Semgleeはバイオシミラーとして承認された初の後続インスリン製剤となりました。
(亀田真由)