婦人科領域をめぐる製薬各社の動きが活発化しています。米メルクは婦人科など3事業の分社化を発表。アステラス製薬のfezolinetantなど大型化が見込まれる製品の開発も大詰めを迎えているほか、この領域で国内トップを目指すあすか製薬が製品ラインナップを急速に拡大させています。
米メルクが分社化「婦人科領域のグローバルリーダーに」
米メルクは2月5日、婦人科領域を含む3事業を切り離し、新会社を設立すると発表しました。新会社には皮下埋込み型の避妊薬「Nexplanon」などを承継。分社化の眼目はがんやワクチンといった成長事業への注力ですが、「新会社は婦人科領域でグローバルなリーダーシップと持続的な成長を追求する」(メルク)。新会社に承継される製品の売上高は日本円にして7000億円あまり(20年12月期見込み)。新会社の最高経営責任者に就任するケビン・アリ氏は「女性の医療ニーズに対するイノベーションへの投資に焦点を当てる」としています。
日本法人MSDは10月に3事業を扱う子会社を立ち上げ、米国本社と同じ21年上半期をめどに3事業をスピンオフする方針。経口避妊薬「マーベロン」や不妊治療薬「ガニレスト」は新会社に承継する予定です。
新薬開発が活発化
「ウィメンズ・ヘルス」への関心の高まりを背景に、婦人科領域での新薬開発が活発化しています。新薬の開発も堅調です。米国では昨年、世界初の産後うつ治療薬「Zulresso」(米セージ)が登場。閉経前女性の性的欲求低下障害に対する治療薬「Vyleesi」(米AMAG)や、エストロゲンフリーの経口避妊薬「Slynd」(スペインInsud)、経皮パッチ型避妊薬「Twirla」(米アジャイル)などが相次いで承認されています。
大日本住友製薬は昨年12月の英ロイバントとの戦略提携で、婦人科領域の2つの新薬候補を獲得しました。日本では「レルミナ」の製品名で販売されているGnRH受容体拮抗薬レルゴリクスは、エストラジオール、酢酸ノルエチンドロンとの3剤配合剤を子宮筋腫治療薬として3月に欧州で申請。4月には米国でも申請する予定です。
アステラスのfezolinetantはピーク時2000~3000億円
婦人科領域の疾患は潜在患者が多く、関心の高まりとともに治療薬の市場も拡大が期待されている分野。開発段階には大型化が見込まれる新薬候補が並びます。
アステラス製薬は、更年期に伴う血管運動神経症状(VMS)を対象に、選択的ニューロキン3(NK3)受容体fezolinetantの臨床第3相(P3)試験を実施中。同薬は、脳内で体温調節中枢を制御するニューロキンの活動を正常化させることで、ホットフラッシュ(顔のほてり、のぼせ)や寝汗といったVMSを軽減するとされており、アステラスはピーク時に2000~3000億円の売り上げを期待しています。
VMSの適応ではほかにも、田辺三菱製薬のTRPM8遮断剤「MT-8554」や、英KaNDyのNK1/3受容体拮抗薬「NT-814」が開発中です。
婦人科領域でも特に開発が活発な子宮筋腫/子宮内膜症では、米アッヴィがレルゴリクスと同じGnRH受容体拮抗薬elagolixを開発。米国では18年に「Orilissa」の製品名で子宮内膜症の適応で発売しており、子宮筋腫や多嚢胞性卵巣症候群でも臨床試験を進めています。スイス・オブシーバはキッセイ薬品工業からlinzagolixを導入し、子宮筋腫と子宮内膜症を対象にP3試験を実施中です。
世界初の産後うつ治療薬「Zulresso」を開発した米セージは、GABAA受容体に対する選択的ポジティブアロステリックモジュレーターを産後うつの適応でも開発中。日本では塩野義製薬が開発権を持っており、うつ病・うつ状態を対象にP1試験を行っています。
国内トップ目指すあすか、ラインナップ急拡大
国内ではあすか製薬の動きが活発です。
同社は婦人科領域で国内トップメーカーを目指しており、昨年3月に「レルミナ」を20年ぶりの子宮筋腫治療薬として発売。18年にはノーベルファーマと月経困難症治療薬「ジェミーナ」のコ・プロモーションを開始したほか、同「ルナベル」のオーソライズド・ジェネリック(AG)を発売しました。20年には東亜薬品工業から子宮収縮抑制剤「マグセント」と子癇発症抑制・治療薬「マグネゾール」を承継するなど、製品ラインナップを拡大させています。
現在は、仏社から導入した選択的プロゲステロン受容体調整薬ウリプリスタルを子宮筋腫の適応で申請中。不妊症治療薬フォリトロピンガンマのP1試験を終了したほか、今年1月にはスペイン企業からドロスピレノンを単一成分とする経口避妊薬(米国製品名・Slynd)の開発・販売権を獲得しました。
避妊薬トップの富士製薬も事業拡大
富士製薬工業も婦人科領域を強化しています。19年3月に国内で初めて緊急避妊薬の後発医薬品「レボノルゲストレル『F』」(先発医薬品名・ノルレボ)を発売。同剤の発売以降、先発品と後発品をあわせた数量ベースの市場規模は2倍に伸び、その中で富士製薬の後発品は8割のシェアを獲得しているといいます。「ファボワール」「ラベルフィーユ」を展開する経口避妊薬でも国内シェアはトップで、同社は24年9月期に婦人科領域の主要製品で計100億円の売り上げを見込んでいます(19年9月期は50億円)。
このほか、持田製薬が今年1月、子宮内膜症治療薬として販売してきた「ディナゲスト」の低用量製剤を月経困難症の適応で発売。日本新薬は「NS-580」を子宮内膜症治療薬として、デルイソマルトース第二鉄を月経過多に伴う鉄欠乏性貧血の治療薬として開発しています。中外製薬は、独自のリサイクリング抗体技術を使った子宮内膜症治療薬AMY109のP1試験を実施中です。
(亀田真由)