参天製薬が、米グーグル系のヘルステック企業と組んで眼科デバイスの開発・商業化に乗り出します。眼科に特化するスペシャリティファーマと巨大ITのコラボレーションは、何を生み出すのでしょうか。
製薬大手と相次ぎ提携
参天製薬は2月4日、グーグルの親会社アルファベット傘下でライフサイエンス事業を手掛けるベリリー・ライフサイエンシズ(米サンフランシスコ)と、眼科デバイスを開発・商業化するための合弁会社を設立すると発表しました。「参天の眼科領域での知見・技術と、ベリリーの医療機器・機械学習開発での専門性を融合することで、ユニークな眼科デバイスや総合的な技術ソリューションの開発と商品化を目指す」といいます。
ベリリーは2015年にグーグルがライフサイエンス事業を切り離して設立した企業。機械学習や画像処理、データ解析といったグーグルが持つテクノロジーを活用し、さまざまなライフサイエンス企業と組んで研究開発を進めています。
製薬企業との提携では、米グラクソ・スミスクラインと合弁を設立し、体内に埋め込んだ極小の医療機器で神経の電気信号を修正する「バイオエレクトロニック治療」を開発中。仏サノフィとは、糖尿病の新しいモニタリングと治療法の開発で提携しています。日本企業では、武田薬品工業がベリリーのウェアラブル端末「Study Watch」を使ってパーキンソン病の共同研究を実施。大塚製薬は、ノバルティス、サノフィ、米ファイザーとともに、ベリリーと臨床試験の改善に向けたプログラムの開発で提携しています。
「緑内障やドライアイなどで革新的プロジェクト」
テクノロジーを使ってヘルスケアのさまざまな領域に進出しようとしているベリリーですが、中でも眼科領域はグーグルの一部門だったころから取り組んでいる、いわば重点領域の1つ。ベリリーの幹部には眼科専門医で元米イリノイ大医学部長のディミトリ・アザー氏が名を連ね、シニアディレクターとしてこの領域の研究開発をリードしています。
ベリリーはこれまで、スイス・アルコンと組み、コンタクトレンズにセンサーやワイヤレス通信機能を配した「スマートコンタクトレンズ」を開発。涙液に含まれるグルコースから血糖値を測定するコンタクトレンズは「涙液中のグルコース値と血中のグルコース値の相関に十分な一貫性が確認できない」として開発を打ち切ったものの、老眼患者向けの遠近調節コンタクトレンズや、白内障手術後の視力回復に使用する眼内レンズの開発を続けています。ニコンとは、眼底カメラに搭載する画像診断プログラムを共同で開発中です。
参天との合弁会社のCEO(最高経営責任者)にはベリリーのアザー氏が就任する予定。アザー氏は「眼科事業で確固たる地位を築いている参天との提携により、マイクロエレクトロニクスと機械学習を活用した眼科治療のための新しいソリューションの開発に取り組む」とコメント。「緑内障やドライアイなどの眼科疾患で革新的なプロジェクトに取り組み、診断だけでなく、治療の改善や適切な介入が実現できるよう、テクノロジーを駆使する方法を探求する」としています。
参天は国内医療用眼科薬市場で約47%という圧倒的なシェアを誇りますが、欧米への展開は緒に就いたばかりです。欧州市場では14年に米メルクの医療用眼科薬事業を買収して事業基盤を強化しましたが、03年に事実上撤退した米国市場では、新製品の開発が遅れており再参入を果たせずにいます。ベリリーとの合弁で「独創的なデバイス」を開発できれば、世界市場での存在感は一気に高まるかもしれません。
(前田雄樹)