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糖尿病性腎症、新薬開発が最終段階に…7品目がP3試験「腎機能改善薬」に期待

更新日

糖尿病の3大合併症の1つである糖尿病性腎症。透析に至る最大の原因となっているこの疾患で、複数の新薬が開発の最終段階を迎えています。現在、7品目がP3試験を行っており、初の「腎機能改善薬」として注目される抗酸化炎症モジュレーターや、MR拮抗薬、SGLT2阻害薬など作用機序も多様。近い将来、治療選択肢は大きく広がりそうです。

 

透析導入の原疾患で最多

糖尿病性腎症は、糖尿病の代表的な合併症の1つ。糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害とともに、糖尿病の3大合併症に数えられます。慢性腎臓病(CKD)の一種で、糖尿病による高血糖状態が長期間続くことで発症。腎臓の糸球体(毛細血管が球状に絡まった組織)の血管が壊れ、血液中の老廃物を濾過することができなくなり、さまざまな障害を引き起こします。

 

2型糖尿病の場合、患者の半数程度が糖尿病性腎症を発症すると言われています。はじめのうちは自覚症状はありませんが、進行するとやがて尿がつくれなくなり、透析に至ります。日本透析医学会によると、糖尿病性腎症は1998年以降、毎年新たに透析を開始する人の原疾患で最も多く、2017年は透析導入患者4万959人の42.5%を糖尿病性腎症が占めました。

 

【透析導入患者 原疾患の割合の推移】(1987-2017)(糖尿病性腎症/慢性糸球体腎炎/腎硬化症/多発性嚢胞腎/慢性腎盂腎炎・間質性腎炎/急速進行性糸球体腎炎/自己免疫性疾患に伴う腎炎/不明):[2017年時点]糖尿病性腎症42.5%/慢性糸球体腎炎16.3%/腎硬化症14.7%/多発性嚢胞腎2.6%/慢性腎盂腎炎・間質性腎炎0.7%/急速進行性糸球体腎炎1.6%/自己免疫性疾患に伴う腎炎0.5%/不明13.2%。糖尿病性腎症/腎硬化症/不明は増加傾向、多発性嚢胞腎/慢性腎盂腎炎・間質性腎炎/急速進行性糸球体腎炎/自己免疫性疾患に伴う腎炎は横ばい、慢性糸球体腎炎は減少傾向。※日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2017年12月31日現在)」をもとに作成

 

糖尿病性腎症は、進行すると透析のリスクが高まるうえ、病態の改善や進展抑制が難しくなるため、早い段階で治療を開始することが重要とされています。

 

治療は血糖と血圧のコントロールが基本で、進行するとタンパク質の制限が必要になります。進行を阻止するためにレニン-アンジオテンシン系阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬=ACE阻害薬やアンジオテンシン2受容体拮抗薬=ARB)の投与が推奨されていますが、アンメットメディカルニーズは高く、新たな薬剤の開発が求められています。

 

【慢性腎臓病(CKD)の重症度分類	】(原疾患/タンパク尿区分/A1/A2/A3):糖尿病/尿アルブミン定量(mg/日)・尿アルブミン/Cr比(mg/gCr)/正常/微量アルブミン尿/顕性アルブミン尿、糖尿病/尿アルブミン定量(mg/日)・尿アルブミン/Cr比(mg/gCr)/30未満/30~299/300以上、高血圧・腎炎・多発性嚢胞腎・腎移植・不明・その他/尿タンパク定量(g/日)・尿タンパク/Cr比(g/gCr)/正常/軽度タンパク尿/高度タンパク尿、0.15未満/0.15~0.49/0.50以上、GFR区分(mL/分/1.73㎡)G1/正常または高値・≧90/リスク1/リスク2/リスク3、GFR区分(mL/分/1.73㎡)G2/正常または軽度低下・60~89/リスク1/リスク2/リスク3、GFR区分(mL/分/1.73㎡)G3a/軽度~中等度低下・45~59/リスク2/リスク3/リスク4、GFR区分(mL/分/1.73㎡)G3b/中等度~高度低下・30~44/リスク3/リスク4/リスク4、GFR区分(mL/分/1.73㎡)G4/高度低下・15~29/リスク4/リスク4/リスク4、GFR区分(mL/分/1.73㎡)G4/高度低下・15~29/リスク4/リスク4/リスク4、GFR区分(mL/分/1.73㎡)G5/末期腎不全(ESKD)・<15 /リスク4/リスク4/リスク4、※リスク1→リスク2→リスク3→リスク4の順に死亡・末期腎不全・心血管死のリスクが上昇する※日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」をもとに作成

 

世界初「腎機能改善薬」がP3

アンメットニーズの高い糖尿病性腎症ですが、国内では現在、7つの新薬が臨床第3相(P3)試験を実施中。抗酸化炎症モジュレーターやミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬、ASK1阻害薬、SGLT2阻害薬と作用機序も多様で、近い将来、治療選択肢は大きく広がりそうです。

 

協和キリンが開発を進める「RTA402」(一般名・バルドキソロンメチル)は、抗酸化炎症モジュレーター。米リアタ・ファーマシューティカルズからの導入品で、国内で先駆け審査指定制度の対象に指定されています。体内のストレス防御反応で中心的な役割を果たす転写因子「Nrf2」を活性化する作用機序を持ち、抗酸化ストレス作用や抗炎症作用により腎機能を改善すると考えられています。

 

腎機能を改善する薬剤は承認されておらず、世界初の「腎機能改善薬」として期待されています、国内P2試験(TSUBAKI試験)では、イヌリンクリアランス法で測定したGFR(糸球体濾過量)を改善。実施中のP3(AYAME試験)は、「ベースラインから30%以上のeGFR低下または末期腎不全が発現するまでの期間」を主要評価項目とし、試験期間は2022年3月までを予定しています。

 

【糖尿病性腎症を対象に開発中の主な新薬】(2019年11月12日現在)(開発コード・製品名(一般名)/社名/作用機序):【開発段階P3】RTA402(バルドキソロンメチル)/協和キリン/抗酸化炎症モジュレーター、ミネブロ(エサキセレノン)/第一三共/ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、BAY94-8862(フィネレノン)/バイエル薬品/ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、GS-4997(セロンセルチブ)/ギリアド・サイエンシズ/ASK1阻害薬、カナグル(カナグリフロジン)/田辺三菱製薬/SGLT2阻害薬、フォシーガ(ダパグリフロジン)/アストラゼネカ/SGLT2阻害薬、ジャディアンス(エンパグリフロジン)/ベーリンガーインゲルハイム/SGLT2阻害薬、【開発段階P2】MT-3993(―)/田辺三菱製薬/ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、TMX-049DN(―)/帝人ファーマ/非プリン型キサンチンオキシダーゼ阻害薬、SCO-272(イマリキレン)/スコヒアファーマ/直接的レニン阻害薬、【開発段階P1】SCO-792(―)/スコヒアファーマ/エンテロペプチダーゼ阻害薬、※各社のパイプラインをもとに作成

 

エサキセレノンは21年の承認見込む

MR拮抗薬では、第一三共のエサキセレノン(製品名・ミネブロ)とバイエル薬品のフィネレノン(開発コード・BAY94-8862)がP3試験を、田辺三菱製薬の「MT-3993」がP2試験を行っています。ミネラルコルチコイド受容体は、血液中の電解質のバランスを制御するステロイドホルモンの受容体。MR拮抗薬は、腎臓に存在するミネラルコルチコイド受容体に作用し、腎臓を障害するアルドステロンとの結合を阻害することで、腎保護作用を示すと考えられています。

 

エサキセレノンは今年5月に高血圧症の適応で発売されており、11月には糖尿病性腎症を対象に行った国内P3試験(ESAX-DN試験)の結果を発表。ARBまたはACE阻害薬を服用中の早期糖尿病性腎症患者(尿アルブミン/Cr比が45mg/g以上300mg/g未満の2型糖尿病患者)455人を対象に行った同試験では、主要評価項目である「尿中アルブミン/Cr比の寛解率」(正常値まで低下し、維持された状態)でプラセボに対する優越性を証明。第一三共は2021年の承認取得を目指しています。

 

期待高まるSGLT2阻害薬

糖尿病治療薬として販売されているSGLT2阻害薬も、腎臓への適応拡大に向けた開発が進みます。国内では現在6成分7品目のSGLT2阻害薬が販売中ですが、このうち田辺三菱製薬の「カナグル」(カナグリフロジン)とアストラゼネカ(販売は小野薬品工業)の「フォシーガ」(ダパグリフロジン)、日本ベーリンガーインゲルハイムの「ジャディアンス」(エンパグリフロジン)がP3試験を実施中です。

 

カナグリフロジンは、海外導出先の米ヤンセンが今年9月、糖尿病性腎症の腎・心血管リスク低減の適応で米国で承認を取得。フォシーガとジャディアンスは、糖尿病のない患者も含め、CKDを対象に開発を行っています。

 

このほか、P2試験の段階には、帝人ファーマの非プリン型キサンチンオキシダーゼ阻害薬「TMX-049DN」と、武田薬品工業からカーブアウトしたスコヒアファーマの直接的レニン阻害薬「SCO-272」(イマリキレン)があり、スコヒアファーマはエンテロペプチダーゼ阻害薬「SCO-792」でもP1試験を実施中。TMX-049DNは、米国で行ったP2試験(TMX-049DN-201試験)で、尿アルブミン/Cr比をプラセボとの比較で有意に改善しています。

 

(前田雄樹)

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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