
初の「億超え新薬」ゾルゲンスマの薬価はどう決まったか
世界に先駆けて日本で承認申請を目指す医薬品・医療機器・体外診断用医薬品・再生医療等製品の審査期間を短縮する「先駆け審査指定制度」。2015年の制度創設以来、再生医療等製品は12品目、医療機器・体外診断用医薬品は14品目が指定を受け、再生医療等製品は2品目、医療機器・体外診断用医薬品は3品目が承認を取得しています。再生医療等製品と体外診断用医薬品の対象品目の開発状況をまとめました。
INDEX
先駆け審査指定制度とは、世界に先駆けて日本で申請を目指す画期的な医薬品、医療機器、再生医療等製品、体外診断用医薬品を承認審査で優遇する制度。2015年に「試行的実施」という形で制度が創設されました。
対象品目には優先審査が適用される上、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による事前評価で実質的に審査を前倒し。厚生労働省は、対象品目の審査期間の目標を6カ月に設定しています。
対象となるのは、▽医療機器では新規原理、体外診断用医薬品では新規原理/新規測定項目、再生医療等製品では新規作用機序を持つ▽対象疾患が重篤である▽対象疾患に対して極めて高い有効性がある▽世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思があり、申請できる体制がある――を満たすもの。企業からの応募をもとに厚労省が選定します。
これまでに5回の公募で、再生医療等製品は12品目、医療機器・体外診断用医薬品は14品目が選ばれ、このうち20年6月25日現在で再生医療等製品2品目、医療機器・体外診断用医薬品3品目が承認されています。
再生医療等製品の先駆け審査指定制度対象品目では、ニプロの「ステミラック」が18年12月に承認を取得。適応症は「脊髄損傷に伴う神経症候および機能障害の改善」で、患者から採取した髄液中の間葉系幹細胞を培養・増殖し、点滴で静脈内投与します。承認は7年間の条件・期限付き。ニプロはこの期間中に本承認に向けたデータを収集します。
20年3月には、ノバルティスファーマの脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」(一般名・オナセムノゲン アベパルボベク)も承認。SMAは、運動ニューロンの正常な機能を維持するのに必要なSMNタンパク質をつくるSMN遺伝子の変異が引き起こす難病です。ゾルゲンスマはSMN遺伝子を主成分とし、SMNタンパク質の産生を誘導することで神経や筋骨格の機能を改善。1患者あたり1億6707万7222円という、単価としては国内最高額で同年5月に薬価収載されました。
先駆け指定を受けている再生医療等製品のうち承認申請が近づいているのは、大塚製薬のNY-ESO-1・siTCR療法「TBI-1031」、第一三共の腫瘍溶解性ウイルス「G47Δ/DS-1647」、サンバイオの他家骨髄由来間葉系幹細胞「SB623」など。大塚はTBI-1031を滑膜肉腫の適応で20年に申請する予定で、承認されれば世界初のTCR(T細胞受容体)-T細胞療法となる可能性があります。
G47Δ/DS-1647は、がん治療用に遺伝子改変を施した単純ヘルペスウイルス1型で、東京大の藤堂具紀教授らの研究グループが膠芽腫を対象に行った医師主導臨床第2相(P2)試験で高い有効性を確認。当初は19年度中の申請を目指していましたが、製造面に課題があり、申請は遅れています。サンバイオも20年1月期中としていたSB623の申請予定を21年1月期中へと1年先送り。こちらも製造体制の整備が理由です。
大日本住友製薬のパーキンソン病向けiPS細胞由来細胞医薬は2022年度の発売が目標。腫瘍溶解性ウイルス「OPB-301」(テロメライシン)は、ライセンス契約によって開発がオンコリスバイオファーマから中外製薬に移り、中外による食道がん対象のP2試験が行われています。
体外用診断薬では、シスメックスのがん遺伝子パネル検査「OncoGuide NCC オンコパネルシステム」が18年12月に承認を取得しました。がん遺伝子パネル検査は、がん関連遺伝子の変異を一括して検査するもので、OncoGuideは114のがん関連遺伝子の検査が可能。国立がん研究センターと共同開発し、19年6月に保険適用されました。
医療機器では9品目が先駆け審査指定制度の対象品目に指定。このうち、ノーベルファーマの「チタンブリッジ」が17年12月に、住友重機械工業の「BNCT治療システム NeuCure」が20年3月に、それぞれ承認を取得しています。
チタンブリッジは、発声時に声帯が過剰に閉鎖することで声に障害が出る「内転型痙攣性発声障害」に対する手術(甲状軟骨形成術2型)に使うチタン製の蝶番型プレート。医薬品や再生医療等製品、体外診断用医薬品も含め、先駆け指定品目の承認取得第1号となりました。
NeuCureは、がんのホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に使う中性子照射装置。ステラファーマのホウ素製剤「ステボロニン」(20年3月に承認)とあわせて使用します。
(前田雄樹)
(公開:2019年10月30日/最終更新:2020年10月28日)