日本人の失明原因として4番目に多い加齢黄斑変性を対象に、治療薬の開発が相次いでいます。高齢化に伴う患者数の増加で市場拡大が見込まれており、ノバルティスは新たな抗体医薬を申請。中外製薬もバイスペシフィック抗体を開発しています。主要な治療薬の1つである「ルセンティス」にはバイオシミラーの登場が近付いており、「アイリーア」が独走する市場にも向こう数年で変化が起きそうです。
高齢化背景に患者は増加
加齢黄斑変性とは文字通り、加齢に伴って網膜の中心部である黄斑に障害が起こり、ものが見えづらくなる疾患です。日本では50歳以上の約1%にみられると考えられており、失明原因としては緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性に続く第4位。日本では比較的少ないとされてきましたが、高齢化や生活の欧米化を背景に患者数は増加傾向にあると言われています。
加齢黄斑変性には「滲出型(ウェット型)」と「萎縮型(ドライ型)」の2つの種類があり、滲出型は網膜の下にできた異常な血管(脈絡膜新生血管)からの出血や血液成分の漏出によって、萎縮型は網膜の下にある網膜色素上皮の萎縮によって、網膜に障害が起こります。日本では滲出型がほとんどで、欧米では萎縮型が多いとされています。
抗VEGF薬 アイリーアが大型化
滲出型加齢黄斑変性の治療は、異常な血管の新生を抑えるVEGF阻害薬が中心。日本では現在、バイエル薬品が開発し、参天製薬が販売する「アイリーア」(一般名・アフリベルセプト)とノバルティスファーマの「ルセンティス」(ラニビズマブ)が承認されています。直近の年間売上高は、アイリーアが562億円(2019年3月期、決算ベース)、ルセンティスが250億円(18年12月期、薬価ベース)。これら2剤の登場で滲出型加齢黄斑変性の治療は大きく進歩したと言われ、特にアイリーアは12年11月の発売以来、右肩上がりで売り上げを伸ばしています。
ノバルティス 投与間隔より長く
ただ、既存のVEGF阻害薬には、▽生涯にわたって硝子体内注射を受け続けなければならならず、患者の負担が大きい▽価格が高い――といった課題も残されています。高齢化に伴って今後も市場の拡大が見込まれていることもあり、複数の製薬企業がこうした課題を解決し得る薬剤の開発を進めています。
ノバルティスファーマは現在、新たな抗VEGF抗体ブロルシズマブ(開発コード・RTH258)を申請中。同薬は3カ月に1回の投与になるとみられており、アイリーア(維持期は通常2カ月に1回)よりも投与間隔が長く、患者負担の軽減につながると期待されています。効果の面でも、これまでの臨床試験でアイリーアと同等かそれ以上の有効性を確認。承認されれば、アイリーアを超える大型薬になる可能性があります。
中外はバイスペシフィック抗体 ルセンティスにはバイオシミラー
中外製薬は、ロシュから導入した抗VEGF/Ang2バイスペシフィック抗体ファリシマブ(RG7716)を開発中。VEGFに加え、血管構造を不安定化させるAng2を阻害することで、既存の抗VEGF薬を上回る有効性と投与間隔の長期化を狙っています。現在、臨床第3相(P3)試験を実施中です。
一方、ジーンテクノサイエンスと千寿製薬は、ルセンティスのバイオシミラーを開発しており、現在P3試験を実施中。既存のVEGF阻害薬の薬価が投与1回あたり十数万円に上る中、患者負担の軽減が期待されます。
萎縮型は失敗続き
有効な治療法がなく、よりアンメットニーズの高い萎縮型でも、海外を中心に新薬開発が行われていますが、こちらは失敗が続いています。16年5月には、米アキュセラが地図状萎縮を伴うドライ型加齢黄斑変性を対象に行ったP2b/3試験で主要評価項目を達成できなかったと発表。ロシュも17年、補体因子Dに対する抗体医薬lampalizumabのP3試験に失敗し、申請を断念しました。
萎縮型に対する新薬開発は続いており、日本企業ではアステラス製薬がヒトES細胞由来の網膜色素上皮細胞を使った治療を開発中。現在、米国でP2試験を行っています。再生医療は滲出型でも開発が行われており、大日本住友製薬はバイオベンチャーのヘリオスや理化学研究所と協力し、2022年度の発売を目指して他家iPS細胞由来網膜色素上皮による治療の臨床研究を実施中です。
滲出型を中心に、向こう数年で複数の治療薬の承認が期待される加齢黄斑変性。既存薬の課題を解決し得る薬剤が登場することで、マーケットも変化していくことになりそうです。
(前田雄樹)