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ニュース解説

【多発性硬化症】「進行型」に相次ぐ新薬―ロシュのOcrevusが大型化、世界市場は2割拡大へ

多発性硬化症(MS)に相次いで新薬が登場しています。2017年以降、アンメットニーズの高い進行型MSを対象とする薬剤が複数発売。市場も拡大する見通しで、開発競争も激しくなっています。

 

脱髄性の自己免疫疾患、疾患修飾薬が拡大

多発性硬化症(Multiple Sclerosis=MS)は、脳や脊髄といった中枢神経系に炎症性の脱髄が生じて起こる自己免疫疾患です。脱髄とは、神経線維(軸索)を覆う髄鞘(ミエリン)が障害されることで、神経線維がむき出しになること。これによって神経伝達が阻害され、運動機能や視力が低下します。

 

MSは欧米の白人で罹患率が高く、患者数は全世界で推計約250万人。日本では約1万3000人と報告されており、指定難病に指定されています。若年成人、特に女性に多いのが特徴です。

 

MSは経過によって大きく3つの型に分類されます。患者の85%は、再発(症状が急に出る)と寛解(症状が収まる)を繰り返す「再発寛解型」で、このうち一部は徐々に病状が悪化する「二次性進行型」に進行。残りの15%は、はじめから病状が悪化していく「一次性進行型」と診断されます。

 

多発性硬化症(MS)の分類の表。<再発寛解型(85%)再発と寛解を繰り返す>、<一次性進行型(15%)はじめから徐々に病状が進行する>、<二次性進行型:再発寛解型としてある期間経過したあと、徐々に病状が悪化する>。

 

MSでは近年、効果の高い経口の疾患修飾薬が相次いで発売され、使用が広がっています。

 

先駆けとなったのは、MSに対する世界初の経口疾患修飾薬として2010年に米国で発売(日本は11年に発売)された「ジレニア/イムセラ」(一般名・フィンゴリモド)。田辺三菱製薬が創製したスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体調節薬で、リンパ球の中枢神経系への移行を阻害することで神経炎症を抑制する薬剤です。再発寛解型MSの治療薬としてスイス・ノバルティスが世界展開しています。

 

米バイオジェンは13年に、ジレニア/イムセラとは作用の異なる「テクフィデラ」を、再発寛解型MSに対する経口疾患修飾薬として米国で発売(日本は17年に発売)。末梢や中枢神経系の細胞・組織で、酸化や炎症、生体異物ストレスを軽減するのに重要な細胞防御機構(Nrf2)経路を活性化し、抗炎症作用と神経保護作用を発揮するとされています。

 

これら経口の疾患修飾薬はいずれも大型化しており、18年の世界売上高はジレニアが33億4100万ドル(約3675億円)、テクフィデラが42億7410万ドル(約4702億円)。これら2剤が拡大する世界市場を牽引しています。

 

進行型にも相次ぎ新薬

MSに対する疾患修飾薬は従来、「タイサブリ」(ナタリズマブ、バイオジェン)や「コパキソン」(グラチラマー、イスラエル・テバ)といった注射剤も含め再発寛解型MSを対象としたものでしたが、最近ではよりアンメットメディカルニーズの高い進行型MSに対する薬剤も登場しています。

 

スイス・ロシュは17年、抗CD20抗体「Ocrevus」(ocrelizumab)を、再発寛解型に加え、一次性進行型と二次性進行型を対象に米国で発売しました。さらに今年3月には、2つの経口剤が相次いで米国で承認を取得。ノバルティスの新規S1P受容体調節薬「Mayzent」(siponimod)と独メルクの「Mavenclad」(cladribine)で、いずれも再発寛解型と二次性進行型を対象としています。

 

Ocrevusは発売から急速に売り上げを伸ばしており、18年には全世界で24億ドル(約2658億円)を販売。米国ではすでにジレニアの売上高を上回っています。米コンサルティング会社Decision Resources Groupによると、16年に約210億ドルだった主要7カ国のMS治療薬市場は、26年には250億ドル以上まで拡大する見込み。進行型で薬物治療を受ける患者の数は毎年6%ずつ増えていく見通しで、進行型の適応を持つ薬剤が市場拡大を牽引します。

 

進行型MSで承認されている薬剤(海外)の表。<Ocrevus(ocrelizumab)ロシュ、作用機序:抗CD20抗体、投与形態:注射年2回、承認国:米欧・中東・豪>、<Mayzent(siponimod)ノバルティス、作用機序:S1P受容体調節薬、投与形態:経口、承認国:米、日本申請中>、<Mavenclad(cladribine)独メルク、作用機序:免疫再構築療法、投与形態:経口2年間最大20日間、承認国:米>。

 

メディシノバ、無再発の二次性進行型で新薬開発

これら進行型を対象とした疾患修飾薬に続くのが、杏林製薬が創製し、メディシノバが開発中の「MN-166」(イブジラスト)。現在、米国で臨床第3相(P3)試験の実施を計画中です。

 

二次性進行型MSには、再発を伴うものと、再発せず進行を続けるもの(無再発)とがあり、患者の大部分を占める無再発二次性進行型MSには有効な治療薬がまだありません。イブジラストは日本と韓国で喘息などに対する治療薬として販売されていますが、メディシノバはこれを無再発二次性進行型MSの治療薬として開発を進めています。

 

このほか、米ABサイエンスは無再発二次性進行型MSと一次性進行型MSを対象に、マルチチロシンキナーゼ阻害薬masitinibを開発しており、現在P2/3試験を実施中。進行型MSではさらに、米AtaraバイオセラピューティクスがEBウイルスを標的とする T細胞療法「ATA190」「ATA188」を開発しています。

 

進行型MSで開発中の主な化合物の表。社名:米メディシノバ、一般名・開発コード:MN-166、適応:無再発二次性進行型、開発段階:P3計画中。社名:米ABサイエンス、一般名・開発コード:masitinib、適応:一次性進行型・無再発二次性進行型、開発段階:P2/3。社名:米Ataraバイオ、一般名・開発コード:ATA190、適応:再発寛解型・一次性進行型・二次性進行型、開発段階:P1、一般名・開発コード:ATA188、適応:再発寛解型・一次性進行型・二次性進行型、開発段階:P1。

 

再発寛解型MSでも開発活況、日本ではMayzentが申請中

再発寛解型MSでも新薬開発が活発です。

 

ジレニアやMayzent と同じS1P受容体調節薬では、米セルジーンがozanimodを米国と欧州で申請中。Meiji Seikaファルマがキュラディムファーマに導出した「CP1050」が英国でP1試験を行っています。Ocrevusと同じ抗CD20抗体では、ノバルティスのオファツムマブと米TGセラピューティクスのublituximabがいずれもP3試験の段階にあります。

 

バイオジェンはテクフィデラの後継品としてアイルランド・アルカーメスから導入した「BIIB098」(diroximel fumarate)を米国で申請しているほか、髄鞘の成長抑制を防ぐ抗LINGO-1抗体opicinumabや、髄鞘再生を促す「BIIB061」の開発を進めています。独メルクと仏サノフィはそれぞれ、BTK阻害薬を開発中です。

 

再発寛解型MSで開発中の主な化合物の表。【社名:米セルジーン】<一般名・開発コード:ozanimod、開発段階:申請(米欧)、作用機序:S1P受容体調節薬>。【社名:米バイオジェン】<一般名・開発コード:diroximel fumarate、開発段階:申請(米)、作用機序:フマル酸>。<一般名・開発コード:opicinumab、開発段階:P2、作用機序:抗LINGO-1抗体>。<一般名・開発コード:BIIB061、開発段階:P1、作用機序:髄鞘再生薬>。【社名:スイス・ノバルティス】<一般名・開発コード:siponimod、開発段階:申請(日欧)、作用機序:S1P受容体調節薬>。<一般名・開発コード:オファツムマブ、開発段階:P3(グローバル)、作用機序:抗CD20抗体>。【社名:スイス・アクテリオン】<一般名・開発コード:ponesimod、開発段階:P3、作用機序:S1P受容体調節薬>。【社名:TGセラピューティクス】<一般名・開発コード:ublituximab、開発段階:P3、作用機序:抗CD20抗体>。【社名:独メルク】<一般名・開発コード:evorutinib、開発段階:P2、作用機序:BTK阻害薬>。【社名:米アッヴィ】<一般名・開発コード:elezanumab、開発段階:P2、作用機序:抗RGMa抗体>。【社名:田辺三菱】<一般名・開発コード:MT-1303、開発段階:P2(欧)、作用機序:S1P受容体調節薬>。【社名:キュラディムファーマ】<一般名・開発コード:CP1050、開発段階:P1(英)、作用機序:S1P受容体調節薬>。【社名:仏サノフィ】<一般名・開発コード:SAR442168、開発段階:P1、作用機序:BTK阻害薬>。

 

 海外で活発なMS治療薬の開発ですが、患者数の少ない日本では今のところ、申請が行われているのはノバルティスのMayzentだけで、同社がP3試験を行っているオファツムマブ以外には目立った開発は行われていません。

 

(亀田真由)

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