昨年、本庶佑・京都大特別教授のノーベル医学生理学賞受賞でも注目を集めた免疫チェックポイント阻害薬。現在、この分野をリードするのは抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体ですが、それ以外の免疫チェックポイント分子をターゲットとした薬剤の開発も進んでいます。開発動向を整理しました。
国内では6製品が承認
現在、国内で販売されている免疫チェックポイント阻害薬は、
▽抗PD-1抗体「オプジーボ」(一般名・ニボルマブ、小野薬品工業)
▽同「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ、MSD)
▽抗PD-L1抗体「バベンチオ」(アベルマブ、メルクセローノ)
▽同「テセントリク」(アテゾリズマブ、中外製薬)
▽同「イミフィンジ」(デュルバルマブ、アストラゼネカ)
▽抗CTLA-4抗体「ヤーボイ」(イピリムマブ、ブリストル・マイヤーズスクイブ)
の6種類。
海外ではこれらに加え、仏サノフィ/米リジェネロンの抗PD-1抗体「Libtayo」(cemiplimab)が2018年9月に米国で承認(欧州は同年4月に申請)。さらに、スイス・ノバルティスは同PD-1抗体spartalizumabを、英アストラゼネカは抗CTLA-4抗体tremelimumabを、それぞれ日本を含むグローバルで開発しています。
急速に拡大する市場をリードするのは、オプジーボとキイトルーダの2製品です。両剤の2018年(1~12月)のグローバル売上高は、オプジーボが75.76億ドル(米ブリストルと小野薬品の合計)、キイトルーダが71.71億ドルと拮抗。キイトルーダはオプジーボに遅れて市場に登場したものの、ファーストラインの適応を持つ非小細胞肺がんでシェアを広げており、オプジーボを追い上げています。
これら既存の免疫チェックポイント阻害薬の開発は、単剤から併用にシフトしています。米国のコンサルタント会社ディシジョン・リソーシズ・グループのまとめによると、世界で行われている抗PD-1/PD-L1抗体の臨床試験のうち、7~8割は併用療法の試験。米メルクが抗がん剤「レンビマ」を持つエーザイと戦略提携を結ぶなど、併用療法の開発をめぐる企業間の提携も活発です。
国内では、オプジーボとヤーボイの併用療法が悪性黒色腫と腎細胞がんを対象に承認を取得。キイトルーダとテセントリクも、非小細胞肺がんに対する化学療法との併用療法が承認されました。キイトルーダとバベンチオは、腎細胞がんで抗がん剤「インライタ」との併用療法を申請中です。
ターゲットは「LAG-3」「TIM-3」「TIGIT」など
既存の免疫チェックポイント阻害薬で、適応拡大、中でもほかの抗がん剤との併用療法の承認取得に向けた開発が進む一方、別の免疫チェックポイント分子をターゲットとした新規免疫チェックポイント阻害薬の開発も進んでいます。
抗PD-1/PD-L1抗体や抗CTLA-4抗体に続く免疫チェックポイント阻害薬として臨床試験が行われているのは、▽抗LAG-3抗体▽抗TIM-3抗体▽抗TIGIT抗体▽抗KIR抗体――など。一部、臨床第2/3相(P2/3)試験に入っているものもありますが、大半は開発初期段階です。
抗LAG-3抗体
新たな免疫チェックポイント分子をターゲットとする薬剤で最も開発が進んでいるのが、T細胞表面に発現するLAG-3(Lymphocyte Activation Gene-3)をターゲットとする抗体医薬。LAG-3は、そのリガントである樹状細胞のMHC class IIと結合することで、免疫が抑制されます。
抗LAG-3抗体では、米ブリストルと小野薬品が共同開発する「BMS-986016/ONO-4482」(relatlimab)が悪性黒色腫を対象に海外でP2/3試験、国内でP1/2試験を実施中。米メルクの「MK-4280」は国内外とも固形がんの適応でP1/2試験の段階にあります。
BMS-986016/ONO-4482はオプジーボとの併用療法で安全性・有効性が検討されており、抗PD-1/PD-L1抗体による治療に難治または再発した患者を対象に行った臨床試験で抗腫瘍効果を確認。MK-4280は、単剤またはキイトルーダとの併用で開発が行われています。
抗TIM-3抗体
TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin domain 3)はT細胞表面に発現する免疫チェックポイント分子。がん細胞などで発現しているGalectin-9などのリガントと結合することで免疫が抑制されることがわかっており、これを阻害する抗TIM-3抗体の開発が進んでいます。
抗TIM-3抗体としては、英グラクソ・スミスクライン(GSK)が、19年1月の米テサロ買収で獲得した「TSR-022」でP2試験を実施中。ブリストルと小野薬品の「BMS-986258/ONO-7807」は、固形がんを対象に国内外でP1/2試験が行われています。
抗TIGIT抗体
TIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)はT細胞やNK細胞(ナチュラルキラー細胞)に発現する免疫チェックポイント分子。抗原提示細胞やがん細胞で発現するCD112・CD155と結合することで免疫が抑制されます。
これを阻害する薬剤として開発されているのが抗TIGIT抗体で、ブリストル/小野薬品と米メルク、スイス・ロシュ、アステラス製薬などが臨床試験を実施中。ブリストルと小野薬品の「BMS-986207/ONO-4686」は国内外でP1/2試験の段階にあります。アステラスの「ASP8374/PTZ-201」は、米Potenza Therapeuticsとの研究開発提携から生まれた品目。18年12月には同社を買収し、開発を加速させます。
その他
ブリストルと小野薬品が開発している「BMS-986015/ONO-4483」(lirilumab)は、NK細胞などに発現する免疫チェックポイント分子であるKIR(Killer cell Immunoglobulin-like Receptors)を標的とする抗体医薬。樹状細胞のMHC class 1との結合を阻害し、免疫抑制を解除します。現在、固形がんを対象に海外でP1/2、国内でP1試験を実施中です。
独メルクとGSKが開発する「M7824」は、PD-L1とTGFβを同時に阻害する融合タンパク質。TGFβは、T細胞の腫瘍への浸潤を阻害することで免疫を抑制するとされており、これを阻害することで免疫応答を回復させることを狙っています。現在、非小細胞肺がんの適応でP2試験が行われており、固形がんでも国内外でP1試験が進行中です。
免疫抑制に関わる2つの分子を同時に阻害する薬剤はほかにも開発されています。アストラゼネカは、PD-1とCTLA-4を標的とした二重特異性抗体「MEDI5752」を開発中。固形がんを対象にP1試験を行っています。
(前田雄樹)
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