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2019年 製薬業界とデジタルヘルスに起こる9つのこと|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くDecision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は製薬業界とデジタルヘルスの分野で2018年の重要トピックスを振り返るとともに、2019年に何が起こるのかアナリストが予想します。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

2018年に注目された10のトレンド

チャットボット型健康アプリ

チャットボット型の健康アプリケーションは実証の段階に入った。企業は、問い合わせのトリアージと顧客満足度の向上に向け、法規制に抵触しない活用法の開発を始めている。

 

医療AIが抱える「ラストワンマイル問題」

IBMのAI(人工知能)「ワトソン」は、非常に有望ではあるが、死亡事故を起こした無人運転車を思い起こさせる弱点もある。この技術は、MSKがんセンターの専門家の意見に対し、検証的に診断する点においては驚嘆すべきものがある。しかし、文化や組織に特有の盲点、そしてデータの制約に絡む問題は解決していない。

 

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医療データ保護への要請

GDPR(EU一般データ保護規則)と米カリフォルニアの類似の規則は、医療に関する個人情報保護のあり方について再考を促している。データ管理体制の強化と、データ利用についての患者との協議を、業界全体に強く求めている。

 

ウェアラブル機器の進化

ウェアラブル機器は大幅に改良された。ECG(心電図)アプリは特に有望で、BG(血糖)メーターも小型化・高度化が進みました。その一方、ウェルネスプログラムの価値には疑いの目が向けられています。

 

EHRに対する米国医師の怒り

米国でEHR(電子カルテ)に対する医師らの怒りが沸騰している。音声技術で医師の労力はいくらか緩和されそうですが、技術的には未熟だ。ビッグデータへの道を開く潜在力が実を結び始めているとは言えるだろうが。いずれにしても、英NHS(国民医療サービス)はファクス機器を処分するという。

 

保険者とIDNに向けたマーケティングが課題に

処方における医師の自律性が失われる中、保険者とIDN(Integrated Delivery Networks)をターゲットとしたマーケティングが、製薬企業にとって明確な課題となった。

 

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最高デジタル責任者の任命

製薬企業は、デジタルや消費者向けマーケティングの専門家を外部から招聘している。いくつかの主要企業は、初めて最高デジタル責任者を置いた(クエスト・ダイアグノスティクスからファイザーに加わったLidia Fonseca氏、ウォルマートからGSKに移ったKarenann Terrell氏、Sainsbury’s Argosからノバルティスに転身したBertrand Bodson氏)。

 

垂直統合の拡大

アマゾンが誘発した大規模化競争は、米国医療業界に新たな垂直統合の形をもたらしたという意味で画期的だ。CVS+エトナをはじめ、シグナ+エクスプレス・スクリプツ、ユナイテッドヘルス+ダヴィータ、ヒューマナのホスピス拡張などが挙げられる。

 

魅力失うソーシャルメディア

ソーシャルメディアの魅力は薄れ、独創的な手法を売りにしたいくつかの有力プラットフォームが頭角を現した。

 

最新兵器はコペイアキュムレーター

製薬企業と保険者が果てしない値引き競争を続けている米国では、最新兵器としてコペイアキュムレーターが現れた。これにより、自己負担カードやクーポン券はなくなるのだろうか。おそらくそうはならないだろうが、注意が必要だ。

 

2019年に起こるであろう9つのこと

医薬品営業は斜陽の時代に

医薬品営業担当者にとって斜陽の時代が始まる。自動化の波で、旧来のセールスマンの任務は、次第にチャットボットやオンデマンドセミナーなどに取って代わられるだろう。

 

多くの市場では、医師や専門家からの評価は保たれるので、営業担当者とのつながりが急速に廃れるわけではない。しかし、企業がNPP(M3ヘルスとノバルティス オンコロジーが提携し、サンプルの注文をワンクリックでできるようにしたことがその典型例)への投資を強化するため、営業担当者は徐々に減少するだろう。医薬品販売組織が大規模な商業組織に及ぼしてきた力を考えると、これは医薬品販売のカルチャーが大きく変わる前兆と考えられる。

 

MAも自動化に直面

メディカル・アフェアーズも自動化に直面している。医師などの医療従事者からの照会をトリアージするため、チャットボットの活用を模索する企業が増えるだろう。ファイザーのメディカル・アフェアーズのサイトではこれが実現しており、チャットボットが医師からの問い合わせをさばいている。

 

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チャットボットやAIの活用は医療従事者向けが中心

製薬企業はチャットボットやAIといった分野に進出しているが、消費者向けアプリは規制上、大きな課題があり、当初は医療専門家向けのアプリが中心になるだろう。しかし、2、3の製薬会社が、果敢にも消費者向けアプリの開発に着手する。ノバルティスはすでに、Alia Facebook Messengerチャットボットを開設しています。

 

フェイスブック凋落の年となるか

2019年は、フェイスブック凋落の年になるかもしれない。製薬会社はフェイスブックのプラットフォームから逃れられない状況になっているが、顧客データのずさんな扱い、悪意を持った国家や組織によるデータ収奪などが続いたことで、広告主からの信用を失っている。製薬企業は、健康・医療に特化したプラットフォームにより多くの予算を振り分けるようになるかもしれない。

 

大量かつリアルタイムのデータが臨床試験で使われ始める

大量でリアルタイムの患者データ・遺伝子データが、臨床試験や患者ケアで使われ始めるところまできている。アップルウォッチとその競合製品は、保険者にとって標準仕様となりつつあり、臨床試験での利用も一般的になるだろう。一方、消費者向け遺伝子検査会社では、そのビジネスが軌道に乗るにつれて、データセットが膨張する。

 

ADHD治療用ビデオゲームが承認

製薬会社は引き続き、薬としてのデジタル治療で投資と提携を加速させる。血糖値読み取りコンタクトレンズの失敗は、この分野への製薬会社の投資意欲に水を差しかねないと考えるかもしれない。しかし、今年はおそらく、初めて処方ビデオゲーム(米AkiliのADHD治療用ゲーム)が承認されるだろう。

 

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バイオシミラーが市場を騒がせる

いくつものバイオシミラーが、先行バイオ医薬品と同じようなやり方で売り込みをかけ、市場を騒がせるだろう。関節リウマチやがんのように、競合が激しく市場規模の大きい領域に参入する製品は、認知度の向上を狙ってテレビ広告を打ち、多くの営業人員を投入するだろう。しかし、実際に競争になるのは保険者との交渉であり、市場ポジションを維持するには取り引きで妥協する必要が出てくる。一方、ステークホルダーには自社製品の信頼性の高さをアピールするだろう。

 

政治的には試練の年に

トランプ米大統領による締め付けや、英国のEU離脱に伴う混乱で、製薬業界は政治的に試練の年となる。

 

ワシントンで最大のワイルドカードと見られているのは、製薬企業に強硬姿勢をとることでトランプ氏が民主党議員と折り合うのか、ということだ。今のところトランプ氏は薬価について強気な発現をしているが、実のところは弱腰だ。

 

民主党は大統領にとって、大衆の見方として支配層に対峙できるという信頼性と、巨大製薬企業に負担を負わせる仲間であることを強調するために、チャンスを提供する存在であるといえる。トランプ氏がそれに乗る可能性は十分にある。特に、大統領再選を意識する時期に差し掛かり、経済情勢と各種調査結果に陰りが見えたとすれば、共和党上院議員もなびくかもしれない。

 

Brexitは、英国とEUの両サイドに大混乱をもたらすだろう。離脱が強硬でも穏当でも、医薬品は不足し、規制や行政の枠組みは急激な再編成を迫られることになるだろう。

 

【AnswersNews編集長の目】

アナリストによる2019年の展望はいかがでしたか?

 

デジタルヘルス関連では、日本の製薬会社の間でも今年すでにいくつか動きがありました。大塚製薬は、大うつ病性障害に対する治療用アプリの開発・商業化に向け、米クリックセラピューティクスとグローバルライセンス契約を締結。中外製薬は、医療従事者からの問い合わせ対応にAIチャットボットを導入し、抗インフルエンザウイルス薬「タミフル」を対象に運用を開始しました。

 

記事にもあった通り、米国では今年、ADHD治療用に医師が処方するゲームが承認される見通し。国内でも、キュアアップが開発中の禁煙治療用アプリが、早ければ今年登場する可能性があります。

 

ブリストル・マイヤーズスクイブが約8兆円でセルジーンを買収するというビッグニュースで幕を開けた2019年。製薬業界は今年もいろいろありそうです。

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
斎藤(カスタマー・エクスペリエンス・マネージャー)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-5401-2615(代表)

 

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AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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