国内の主要なワクチン供給元の1つである第一三共が、ワクチン事業の再編を進めています。昨年、完全子会社化した北里第一三共ワクチンは来年4月に分割して研究開発などの機能を第一三共本体に取り込む予定。グラクソ・スミスクラインとの合弁会社ジャパンワクチンは解散します。協業戦略は仕切り直しとなった第一三共のワクチン事業はどこに向かうのでしょうか。
合弁解散「事業環境が変化」
第一三共は11月14日、グラクソ・スミスクライン(GSK)とのワクチン合弁会社「ジャパンワクチン」を解散すると発表しました。解散の時期は未定。ジャパンワクチンが取り扱う製品の移管先も含め今後両社で詰めることになります。
ジャパンワクチンは2012年4月に第一三共とGSK日本法人が折半出資で設立。同年7月に事業を開始しました。取り扱い製品は、インフルエンザワクチンやMRワクチンのほか、ヒブワクチン「アクトヒブ」、ロタウイルスワクチン「ロタリックス」、4種混合ワクチン「スクエアキッズ」、HPVワクチン「サーバリックス」など合わせて15製品。従業員数は約270人で、このうち約150人はMRです。
そもそもジャパンワクチンは、GSKのパイプラインや先端技術と、第一三共の製造基盤や販売力を持ち寄ることで、ワクチンを普及させることを目的に設立されました。両社は「設立以来、ワクチンの普及において一定の成果を得ることができた」とする一方、「事業環境の変化を鑑み、両社それぞれの事業を通じてワクチンの普及を図ることが最善と判断した」と説明しています。
2つの合弁 揺らいだ事業基盤
第一三共は昨年11月、北里研究所との合弁会社「北里第一三共ワクチン」を完全子会社化。今年4月には、同社を生産に特化した子会社とし、研究開発や販売の機能を本社に移すと発表しました。ジャパンワクチンの解散もこうした事業再編の一環。外部との協業を軸に展開してきたワクチン事業の仕切り直しを図っています。
第一三共のワクチン事業の売上高は419億円(17年度)。3年連続増収と数字の上では好調ですが、足元の事業基盤は決して盤石ではありません。
北里第一三共ワクチンをめぐっては、製品の自主回収や新製品の開発の遅れにより17年3月期決算で219億円の特別損失を計上。15年に100億円、17年に400億円の増資を行うなど不安定な経営が続いていました。同社の機能を生産とそれ以外に分割する再編は19年4月に実施予定で、新体制で供給体制の強化と品質の向上を目指します。
ヒブワクチン 提携終了が痛手に
ジャパンワクチンも順風満帆ではありませんでした。13年6月には積極的接種勧奨の中止でサーバリックスの売り上げが立たなくなり、15年3月に承認を取得した肺炎球菌ワクチン「シンフロリックス」は定期接種に採用されず、今も発売されていません。
さらに今年10月には、サノフィとのアクトヒブの販売提携終了と、テルモと共同開発してきた皮内投与型インフルエンザワクチンの開発中止を発表。アクトヒブはサノフィが製造販売承認を持ち、提携する第一三共が販売を担当、ジャパンワクチンがコ・プロモーションしています。ジャパンワクチンにとってアクトヒブは最大の主力製品で、提携終了により同社の売上高は大幅に落ち込む見通し。こうした事業環境の変化が、合弁解消の引き金になったとみられています。
ラインナップの拡充が求められる
第一三共は、一連の再編を通じて事業を本体に集中させ、主体的にワクチン事業を展開していきたい考え。ワクチンは安定的な需要が見込まれる一方、収益を向上させるには製品ラインナップの拡充が求められます。
国内メーカーでは近年、新規ワクチンを開発してグローバル展開に打って出ようという動きも出てきています。
武田薬品工業は12年にワクチンビジネス部を設置し、デング熱やノロウイルス、ジカウイルスなど、まだワクチンのない疾患に対する新規ワクチンの開発を進めています。田辺三菱製薬は13年に買収したカナダ・メディカゴの技術を活用し、植物由来のウイルス様粒子(VLP)ワクチンを開発中。20年度に米国での発売を目指しており、ピーク時には年間400~600億円の売上高を見込んでいます。
一方、第一三共は、英アストラゼネカから導入した鼻腔噴霧インフルエンザワクチンを16年に日本で申請したものの、いまだ承認されていません。テルモとは皮内投与型ワクチンの実用化に向けて協議を続けていくといいます。
協業から単独へと大きく舵を切った第一三共のワクチン事業。今後の展開が注目されます。
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