急性骨髄性白血病に対する新たな治療選択肢として期待されるFLT3阻害薬。先月、アステラス製薬の「ゾスパタ」(ギルテリチニブ)が承認され、発売が目前に迫ってきました。第一三共もキザルチニブを今年度中に申請する方針。かつてアステラスが開発していたキザルチニブを、第一三共が創製元の会社ごと買収するという浅からぬ因縁を持つ両剤。大手2社による市場競争の行方が注目されます。
ゾスパタ 世界に先駆け承認
厚生労働省は9月21日、アステラス製薬のFLT3阻害薬「ゾスパタ」(一般名・ギルテリチニブ)を「再発または難治性のFLT3遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病(AML)」の適応で承認しました。同薬の承認は世界初で、FLT3を標的としたAML治療薬としては国内初。11月に薬価収載される見通しです。
AMLは、骨髄でがん化した細胞(白血病細胞)が増殖することで発症する血液がん。国内では毎年約5500人が新たに診断を受けており、患者の3分の1はFLT遺伝子の変異を持つとされています。
FLT3遺伝子変異はがんの増殖に関与しており、変異のある患者は、ない患者に比べて再発率が高く、予後も不良です。FLT3遺伝子の変異には、「遺伝子内縦列重複変異」(ITD=一部の塩基配列が重複する変異)と「チロシンキナーゼドメイン変異」(TKD=一部のアミノ酸が異なるアミノ酸に置き換わる変異)の2つがあり、ゾスパタはこの両方を阻害することで効果を示します。
ゾスパタは日本で、世界に先駆けて承認申請を目指す革新的新薬を承認審査で優遇する「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されており、今年3月の申請から約半年で承認されました。米国でも3月に申請したほか、欧州とアジアでも臨床第3相(P3)試験を実施中。新規患者などを対象とした開発も行われています。
キザルチニブは18年度中に申請予定
FLT3阻害薬はアステラス以外にも複数の企業が開発を進めていますが、中でもゾスパタの有力なライバルになると目されているのが、第一三共のキザルチニブです。ゾスパタと同じ再発・難治性の適応で2018年度中にグローバルで申請する方針で、19年度の発売を目指しています。
キザルチニブは、2つのFLT3遺伝子変異のうちITDをターゲットとした薬剤で、創製元は米アンビット社。かつては09年に同社と提携を結んだアステラスが開発していましたが、2013年9月に「戦略上の理由」で契約を解消。アンビット社は翌14年に第一三共に買収され、現在は同社がキザルチニブの開発を手がけているという経緯があります。
アステラスはゾスパタについて、世界で500~1000億円規模の売上高を期待。対する第一三共も期待される売上高は1000億円規模とキザルチニブの大型化を見込んでいます。
ノバルティスや富士フイルムも開発中
アステラスと第一三共以外では、ノバルティスファーマと富士フイルムもFLT3阻害薬の開発を進めています。
ノバルティスが開発しているのは、FLT3を含む複数のキナーゼを阻害するmidostaurin(開発コード・PKC412)。同社公表のパイプラインによると、日本ではP2試験の段階にあり、欧米ではすでに承認されています。キザルチニブやギルテリチニブとは異なり、初発の患者だけを対象に開発を進めており、FLT3遺伝子変異のない初発AMLを対象とした臨床試験も行っています。
富士フイルムは、FLT3に含まれるアミノ酸と不可逆的に結合してその働きを阻害する「FF10101」を開発中。昨年、再発・難治性のAMLを対象に米国でP1試験を開始しました。
FLT3阻害薬は今後、相次いで新薬が登場する見通しで、ギルテリチニブとキザルチニブを中心に市場競争が始まります。一旦は開発を手がけたキザルチニブを捨ててギルテリチニブに乗り換えたアステラスと、アステラスが手放したキザルチニブを拾った第一三共。結果として正しい選択をしたのはどちらだったのか。因縁もはらんだ競争の行方が注目されます。
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