世界に先駆けて日本で承認申請を目指す革新的新薬の審査期間を短縮する国の「先駆け審査指定制度」。2015年の制度創設以降、医薬品ではこれまでに16品目が指定を受け、今年に入って2品目が承認されました。審査期間は従来の半分以下に短縮された一方で、課題も見えてきました。
ゾフルーザは4カ月 ラパリムスゲルは5カ月で承認
3月14日、塩野義製薬は1回の服用で治療が完結するとして注目を集める抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」(一般名・バロキサビル マルボキシル)を発売しました。2017年10月25日の承認申請からわずか5カ月足らず。過去に例を見ないスピード発売の裏にあるのが、国が2015年に創設した先駆け審査指定制度です。
先駆け審査指定制度は、世界に先駆けて日本で承認申請を目指す革新的な新薬と医療機器、再生医療等製品を承認審査で優遇する制度。通常なら12カ月かかる審査期間を、半分の6カ月に短縮するとうたっています。
医薬品では3月27日現在で16品目が指定を受けており、このうち2品目が今年に入って相次いで承認されました。申請から承認までの期間は、ゾフルーザが約4カ月、3月に承認されたノーベルファーマの結節性硬化症に伴う皮膚病変治療薬「ラパリムスゲル」(シロリムス)が約5カ月。医療機器(6品目が指定)では、ノーベルファーマの「チタンブリッジ」(甲状軟骨固定用器具)が昨年12月、申請から5カ月半で承認を取得しています。
先駆け審査指定制度は薬価制度とも連動しており、対象品目には薬価算定時に「先駆け審査指定制度加算」(10~20%)がつきます。ゾフルーザの場合、複数のインフルエンザ治療薬がすでに幅広く使われていることもあり、加算率は10%と限定的な評価となりました。
事前評価で審査を実質前倒し
通常の半分以下という短期間で承認が可能なのは、対象品目には承認審査のあらゆる局面で優遇措置が用意されているからです。
先駆け審査指定制度の対象品目は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)との治験相談(対面助言)で優先的に扱われ、相談に必要な資料の提出から相談を行うまでの期間を短縮。対象品目に指定されると自動的に優先審査の対象となり、通常の品目よりも短期間で審査が行われます。
さらに肝となるのが、PMDAによる事前評価の充実です。
事前評価は、「品質」「非臨床(毒性・薬理・薬物動態)」「臨床(第1相・第2相・第3相〈一部〉)」について、その時点で提出可能なデータに基づいて申請前の開発段階から評価を行い、実質的に審査を前倒しする仕組み。先駆け審査指定制度の対象品目には「先駆け総合評価制度」という特別枠が設けられ、上の3つに「信頼性」「GMP」を加えた5つの区分で事前評価を実施。申請前にあらかじめ審査上の問題点を整理し、解決を促すことで、審査期間の短縮を図ります。
ちなみに、米FDA(食品医薬品局)は「ブレークスルーセラピー」、EMA(欧州医薬品庁)も「プライオリティー・メディシンズ」と、日本の先駆け審査指定制度と似たような制度を運用しています。世界に先駆けて申請する意思を条件としているのは日本だけですが、革新的新薬を自国・自地域でいち早く実用化しようと、3極が審査制度でも競っています。
審査報告書は発売前日、論文なし…情報不足に戸惑い
一方、ゾフルーザに対しては、あまりに早い発売に医療現場から戸惑いの声も上がっています。
同剤は当初、承認のタイミングから5月の薬価収載が想定されていましたが、厚労省はこれを前倒しして3月14日に緊急で薬価収載。塩野義は収載と同時に販売を開始しました。
しかし、PMDAが承認審査の経緯をまとめた審査報告書を公表したのは発売前日の3月13日と遅れました。さらに、現時点でゾフルーザに関する論文はまだ1本もパブリッシュされていません。医師や薬剤師からは「情報が少なすぎる」との指摘が出ており、ある業界関係者も「これでは医師も慎重にならざるを得ない。少なくとも論文が出るまでは様子見の医師も多いだろう」と見ます。
そこまで急ぐ必要があったか
厚労省は薬価収載を前倒しした理由について、季節性インフルエンザの治療薬で、先駆け審査指定制度の対象品目であるなどと説明。確かに過去、塩野義の「ラピアクタ」(2010年1月)や第一三共の「イナビル」(同年10月収載)も緊急収載されていますが、「情報も少なく、流行シーズンも終わりにさしかかった3月に、そこまで急いで収載する必要があったのか」(薬剤師)といぶかる声も少なくありません。
制度創設から丸3年がたち、承認にこぎ着ける品目も出てきた先駆け審査指定制度。今のところ、審査期間は想定を上回る短縮となっていますが、一方でスピード承認ゆえの課題も見えてきました。制度はまだ試行導入の段階。今後、承認される品目が増えるにつれて、検証のための議論が起こるかもしれません。