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大塚製薬 国内初の「減酒薬」を申請―アルコール依存症 治療薬市場は急拡大へ

更新日

大塚製薬が、アルコール依存症患者の飲酒量を減らす薬剤ナルメフェンの承認申請を行いました。「断酒」を目的とする既存薬に対し、同剤は「減酒」をコンセプトとする国内初の薬剤。アルコール依存症に対する新たな治療選択肢として注目されています。

 

民間調査会社の富士経済によると、アルコール依存症治療薬の市場は2015~24年の10年間で6倍の規模に拡大する見通し。国内の患者数は100万人に上るとみられていますが、実際に治療を受けているのは1割以下で、患者をどう治療に結びつけていくかが課題となっています。

 

「多量飲酒の日数」「総飲酒量」が低下

大塚製薬は10月17日、アルコール依存症に対する飲酒量低減薬ナルメフェン(一般名)を日本で承認申請しました。デンマークのルンドベックと共同開発したもので、審査が順調に進めば2018年にも発売される見通しです。

 

アルコール依存症患者約660人を対象に行った国内臨床第3相(P3)試験では、主要評価項目である投与12週時点の多量飲酒(1日のアルコール消費量が男性60g超、女性40g超、60gはビールジョッキ3杯に相当)の日数をプラセボに比べて有意に減らし、その効果は24週間の試験終了まで維持。副次評価項目の飲酒総量も有意に減少しました。

 

主な有害事象は悪心、浮動性めまい、傾眠など。多くが軽度または中等度で、長期投与で発現率や重症度が高くなることはなかったといいます。依存性や離脱症状も見られませんでした。

 

ナルメフェンは、中枢神経系に広く分布するオピオイド受容体に作用することで、飲酒欲求を減らし、飲酒量を減らすと考えられています。オピオイド受容体は脳内報酬系(快感を感じる仕組み)や情動制御、痛みのコントロールなどを司っており、ナルメフェンは3つあるサブタイプのうち、μオピオイド受容体とδオピオイド受容体には拮抗薬として、κオピオイド受容体には部分的作動薬として作用します。

 

「断酒」中心の治療に新たな選択肢

ナルメフェンは、アルコール依存症患者の「減酒」をコンセプトとした国内初の薬剤。アルコール依存症の治療は従来、飲酒を完全にやめる「断酒」がゴールとされ、国内で3種類が承認されている治療薬も断酒を目的としたものでした。

 

すでに承認されている3つの薬剤のうち、最も古くから使われているのが「シアナマイド」と「ノックビン」(ジスルフィラム)。アルコールによる不快な症状を引き起こして飲酒をためらわせる薬剤で、「嫌酒薬」とも呼ばれています。

 

これらはいずれも、アルコールから生成されるアセトアルデヒトの代謝を阻害することで、少量の飲酒でもひどい二日酔いのような症状を感じさせます。ただ、飲酒欲求そのものを抑える薬ではないので、飲酒するために服用をやめる患者がいることが課題とされてきました。

国内で承認済み・申請中のアルコール依存治療薬

 一方、日本新薬が13年に発売した「レグテクト」(アカンプロサート)は、アルコールによって乱れた脳内の興奮と抑制のバランスを調整する薬剤。中枢神経系に作用し、アルコール依存で亢進したグルタミン酸性神経活動を抑制し、飲酒欲求を抑えます。

 

レグテクトは主に断酒の維持を助ける目的で使用され、自助グループへの参加をはじめとする心理社会的治療と併用することで、断酒の成功率を高める効果が確認されています。一方、主な副作用には下痢や傾眠、腹部膨満、嘔吐などがあります。

 

ナルメフェンは、これまで断酒以外になかったアルコール依存症の治療選択肢を広げ、医療機関への受診率や治療継続率を向上させることが期待されています。ナルメフェンがコンセプトとする減酒の考え方は欧米ですでに普及しており、日本でも今年4月、国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)が「減酒外来」をスタートするなど、取り組みを始める医療機関が出てきました。

 

市場規模10年で6倍 受診率向上が課題

民間調査会社の富士経済が16年に発表した市場予測によると、15年の国内のアルコール依存症治療薬市場は10億円。30年ぶりの新薬として「レグテクト」が発売されたことで本格的に市場が立ち上がり、同剤とナルメフェンの販売拡大で24年には61億円(15年比6.1倍)まで成長すると予想されています。

 

治療1年後の断酒率は3割程度

一方で、課題となっているのが医療機関への受診率の低さ。厚生労働省研究班の13年の調査によると、アルコール依存症の経験者は推計109万人、調査時点で診断基準を満たした人は同58万人に上りますが、治療を受けているのは同8万人。治療したとしても、1年後の断酒率は30.9%にとどまります。

 

アルコール依存症は、患者本人が病気であることを自覚していなかったり、認めたがらなかったりすることに加え、「酒をやめさせられる」というイメージや断酒という目標の高さが治療への足を遠のかせる要因の1つと指摘されてきました。減酒の普及でハードルが下がれば、受診率も上がり、お酒とうまく付き合いながら治療を続けられる人も増えると期待されています。アルコール依存症の治療は今後、大きく変わっていきそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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